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神切-KAMIKIRI-  作者: haimret
第1章 蛇神様編
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8話

 カミキリたちが出発してからおおよそ半日程度。


 小さな迂回や休憩をはさみながらではあるが、魔物や危険な動物に接触することなく地図にある町だった場所の入口に到着した。


「ふぅ。何とか無事につけたわね」

「そうなの?」

「ええ。前に来た時は真っ暗で小さい頃だったから」


 リルルは道に迷わずに来れたことに安堵の息を吐く。彼女がそういうのも無理はなかった。リルルが子供の頃に行ったきりでここには訪れてはない事を考えると数年前。うろ覚えの記憶と地図のみを頼りに迷わずにここまで来れたのは奇跡に近かった。


「……そんな状態で案内してたの?」


 そんな姉の言葉を聞いてルリリは姉に教えてもらった言葉に遭難という言葉が頭の中に浮かびながらジト目で見る。


 もしかしなくてもそうなる可能性が高かったという想像とルリリのジト目にリルルはたじろぎながら心の中で冷や汗を流す。


「うっ。い、いいじゃない。無事につけたんだから」

「あ~。お姉ちゃん。誤魔化してるね?」

「うぅ」


 楽観的なことを言う姉をルリリは疑わしそうに見るとリルルは否定できずにそっと視線を逸らす。


「そういう問題じゃないよ。お姉ちゃん。自信満々に進んで行ったからてっきり地図に私じゃ見分けられないような目印とかあるかと思ってたのに」


 ルリリがそう言うとリルルはその手があったかといわんばかりにうなずいた。


「あっ。もっもちろんよ」

「あっ。て……。もうっ! お姉ちゃんっ! そんなバレバレの嘘つかないでよねっ!」

「ごめんなさい」


 そんな微笑ましい言い争い(?)からリルルの謝罪までの流れを見ながら、カミキリは呆れたように言った。


「なぁ」

「「なに?」」


 リルルとルリリの声が重なる。言い争いに水を差されて不機嫌そうな声に対してカミキリは無言で町の見える方向を指さす。


 カミキリの指の先を見るとどう対応すればいいのか困った様子の門番がリルルたちを見ていた。


「あ」

「あう」


 見られていた事に気が付くとさすがに恥ずかしいのか2人は顔を真っ赤にして門番から視線を逸らす。


「あまり困らせるなよ」

「はぁい」

「ごめんなさい」


 カミキリは姉妹に注意すると困った表情を見せていた門番の方を向いた。門番もそれに気が付くとうなずいた。カミキリはそれに合わせて声をかける。


「あ~。すまないな。出来ればこの2人と町に入りたいんだが、まだ大丈夫か?」

「えっ。あ。はい。こちらで手続きをお願いします」


 カミキリが声をかけると門番の青年は慌てて案内を始める。外から見える町の内部を見たルリリは興味津々な様子で言った。


「こうしてみると町って大きいね」

「だな」


 カミキリもリルルに予め聞いていた話よりも大きい町に感心する。一方でリルルは頭をかしげた。


「あれ? ここってこんなに大きかったかしら?」

「え? ああ。お姉さんはこの町が大きくなる前に来た事あるんですか?」


 リルルの言葉に最初は頭を傾げるが、すぐに考えていることを理解すると気さくにたずねる。


「はい。小さい頃ですが」

「実はこの町は数年前から大規模な流通の中継地になったんですよ。それのおかげで村が大きくなって町になったんです。それらの関係で動物や魔物の被害を抑えるためにしっかりとした壁ができたんですよ」


 青年は誇らしげに答える。


 カミキリたちから見てもちょっとやそっとじゃ壊れそうにない分厚い壁である。これくらい強固であるならば確かに魔物などの心配をする必要はないのだろう事は容易に想像が出来る。


 上空から来る魔物に対しても壁の上には見張り台があり、いつでも対処できるように警戒している姿も見えた。


 そんな壁を見ながら門番の話を聞き流していると門の前にある小屋に到着する。小屋に入って最初に眼に入ったのは水晶のような透明な珠が机の上に置かれていた。その両側には椅子があり、奥の椅子に中年のいかつい顔をした男が座っている。


「これは?」


 ルリリが最初に目についた水晶を指さす。青年はそれに対して丁寧に答える。


「ああ。これは簡易の調査機なんです。犯罪の履歴なんかは分かりませんが、これに触れている人物が嘘を言ったら光って教えてくれるんです。いくつか質問するので正直に答えてください。それで入れるかどうか判断します」

「便利だな」


 カミキリはそれを見て興味深そうにそれを見る。カミキリの視線に門番は水晶とカミキリの間に割って入る。


「あげませんよ? 高いんですから」

「分かってる。が、そんなに欲しそうな目で見てたか?」

「あ。えっと」


 門番の青年はカミキリの言葉に少し困ったように苦笑いして誤魔化す。


 カミキリも自身の顔が割と悪人顔なことを理解しているためか「冗談だ」と短く答えると青年はホッと安堵の息を吐く。


「これは貸し与えられた物です。それにきちんとした手続きを行った人物が正規の手段で使用する以外では絶対使えない様になっているんです。ただ、それでも話を聞かずに盗ろう考える人が多くてですね。他よりも厳重なんです」


 カミキリが冗談だと言ってから席に座ると門番も相対するように席に座ってから簡単に説明する。


「なるほど。それと隣に座っている御仁は?」

「あっと。彼については私たちの上司に当たる方です。自分まだ見習いから卒業したばかりでして。この手の質問をする時は必ずベテランの先輩と一緒でないといけないので気にしないでください」


 座っていた男は無言のまま小さく頭を下げる。カミキリもそれに合わせるように小さく会釈すると水晶に触った。


「これでいいか?」


 それを確認した青年は質問を開始する。


「はい。ご協力ありがとうございます。それではさっそく。この町には何のために?」

「この町には彼女たちを新しい家まで送る途中で寄ったんだ」


 珠は光らない。それを聞いた青年は質問を続ける。


「家という事は彼女たちは何かしらの理由で?」

「ああ。彼女たちは町の外に住んでたんだが、彼女たちの親のご老人が亡くなったのでその後老人の持家のいくつかの確認に行きたかったらしい」

「複数あるんですか?」

「ああ。そうらしい。俺自身は彼女たちを送る用心棒みたいなものだ」


 カミキリを見てから水晶を見るが、嘘の反応はない。青年は彼女たちと呼ばれた後ろの2人を見てから改めて質問を再開する。


「なるほど。確かに町の外に何か所が家を持つ人は少ないですがいますね。その家の持ち主のお名前をお聞きしても?」

「俺は知らん。そういうのをただの用心棒の旅人が聞く訳にもいかないにだろ?」

「それもそうですね」


 それに対しても珠は光らない。カミキリの言葉に納得すると門番の青年はリルルたちを見るとリルルが答える。


「それは私たちが知ってるわ」

「それではどちらでもいいのでお願いします」

「分かったわ」


 カミキリは手を放して、今度はリルルが手を伸ばした。リルルが触っているのを確認すると門番は中断していた質問を再開する。


「それでは。老人のお名前は?」

狼我(ろうが)と名乗っておりました」

「まさかっ! 守狼(もりおおかみ)のお子さんなのですかっ!」

「えっ! えっと確かっ! おじいちゃんの知り合いがそう呼んでいたのは覚えてますがっ!後、私とルリリ、彼女は拾われ子なので……」


 彼女たちの親代わりの老人がそんな名前で呼ばれていた事もあったことを思い出すリルル。その名を聞くたびに祖父が微妙な顔をしていた事も思い出す。


 引き気味なリルルと興奮する門番の青年を見て、今までずっと沈黙して座っていた中年の男が門番の青年に拳骨を入れた。


「っ!」


 痛そうな鈍い音に聞いていたリルルとルリリも思わず身をすくめる。過去にいたずら悪いことをしたリルルやルリリをこんな感じで拳骨した祖父を思い出す音であった。先ほどまで黙っていた中年は穏やかな声で謝罪した。


「先程はこの馬鹿がすまなかった」

「えっ。あ。いえ。大丈夫です」

「この町が大きくなる前に一度魔物の侵攻があってな。彼に助けてもらったのだそうだ。それでその関係者に出会えてこんな感じになったんだろう。門番としては失格だがな。この後で説教だ」

「あ……あはは。すいませんでした」


 ギロリといった視線で中年の男は青年を見ると少し先程の拳骨が身に染みたのか体を震わせて乾いた笑い声を出す青年。それを見て少しは落ち着いたと見たのか中年は言った。


「まぁ、あのご老人の娘さんであるならば、拠点が複数あってもおかしくはない。あちこちで活動していたからな。それと確かに話で可愛い娘が2人いると言っていたのも覚えている」


 中年の男の言葉からリルルは嫌な予感がしたのか少し後ずさる。ルリリはリルルの反応に頭をかしげる。


「それにその娘さんの1人も魔物の撃退には協力し貰ったのだから歓迎しない理由はないな。小さな狼殿。いや、もうそこまで小さくはないですな。確かリルル殿でしたか?」

「うっ!」


 その呼び名にリルルが恥ずかしそうに身をすくめる。それを聞いていたルリリは言った。


「お姉ちゃんってそんなにすごかったんですか?」

「ん? ああ。熟練の狩人のように正確な弓と罠で祖父である守狼殿を支援していた。幼い子供ながらにその技量はすさまじいと思ったよ」

「へぇ。お姉ちゃんってすごかったんだぁ」

「もうっ!」

「ううっ! 手を出すのは反則だよぅ」


 少しいたずらっぽく笑みを浮かべながらルリリは姉をからかう。リルルはそんな妹に拳骨を入れる。音は中年の男ほどではなかったが、それでも痛いのは痛いのかルリリは頭を抱える。


「ふっ。元気なのはいいことだ。1日でいいんだな?」

「ああ」


 2人を見て笑う中年。それどころではない2人の代わりにカミキリがうなずいた。


「これが簡易の通行証だ。この町を出る時にはなるべくこの町の門版の誰かに返却してくれ。無くすなよ? 無くしたら再発行には時間が掛かるのと高い金がかかるからな。とは言っても、お前さんくらいの実力者なら問題ないだろ?」


 カミキリを見ながら中年がそう言うとカミキリは驚いた。カミキリと中年のやり取りに理解が出来ないのかリルルたちは頭をかしげるが、中年は分かっていると言いたげにウィンクするとカミキリは頭を下げた。


「……忠告感謝する」

「それとこれも、だ」


 中年は別の紙に何かを書き、それをカミキリに手渡す。


「さっきの詫びだ。俺のおすすめの宿がある。門に入って、真っ直ぐ言った最初の突き当りに『ハガクレ』という宿だ。守狼殿も良く使っていた場所だし、俺も良く飯を食いにくくらいにうまい場所だ。その紹介状を持ってれば安くしてもらえるぞ」

「おじいちゃんが?」

「ああ。だから、信頼できるだろ? それと彼らを門の中へ連れて行ってやれ。丁重にな。それが出来たら、始末書の量を少しだけ減らすことも考えてやろう」

「ホントっすか! どうぞっ! こちらへ」


 中年は青年にそう言うとさっきまで拳骨を受けて身動きが取れてなかった時は別人のように機敏な動きを見せる。その態度の変化に中年の方は呆れた様子を見せるが、青年はそれに気が付いていない。


「え。ええ……」

「あ。うん」


 青年の現金な行動にリルルたちもどう対応すればいいのか分からずに困惑するが、とりあえず案内されるままに着いて行くのであった。

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