表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神切-KAMIKIRI-  作者: haimret
第1章 蛇神様編
5/695

4話

 家の表。ルリリが周り込んだ先で見たのはガラの悪い男達がリルルを囲んで羽交い絞めにしている所であった。


「ちょっと! 放しなさいよっ!」

「っは! ヤスのアニキの前だっ! 大人しくしろやっ!」

「ぐっ!」


 一部の男たちはリルルにやられたのか顔が腫れていた。それでも命令されたことを律儀に守っているのか複数人の男達が無駄な怪我をさせないように全身を使ってリルルの手足を拘束する。


「っ! 放しなさいっ!」


 当然ながらリルルも抵抗する。

 しかし、純粋な力は男達の方が上なのかびくともしない。騒ぎ立てるリルルに腹を立てたのか取り巻きの1人が腹に拳を突き立てた。


「っ!?」

「へへっ。顔は許されてねぇが、抵抗するなら分からせろって言われてんだ」

「流石はヤスのアニキッ! 容赦ねぇぜ」


 ヤスと呼ばれた高級そう紫のスーツの男を取り巻きの配下達が賞賛し盛り上がった。それに気を良くしたのか下品な笑い声を上げてリルルの髪を掴んで持ち上げる。リルルはヤスを睨みつけた。


「……」

「ほぅ。まだ、睨みつける気力はあるってか? 反抗的な眼に瑞々しい柔らかい肌……。いいねぇ。やっぱり若い娘ってのは。命令でなければ俺が食っちまいたいくらいの上玉だな」

「近づくなっ!」

「おうおう。活きが良いな。これは俺が遊んだ後にでも売れば儲けられそうだ。じゅる」

「ひぃっ!」


 紫のスーツの男がリルルの顔を息がかかるくらいまで近づけるとリルルを舐める。その行動は予想外だったのかリルルは悲鳴を上げる。


「お姉ちゃんに何してんのっ!」

「ぐえっ!」


 機を窺っていたルリリは我慢の限界を超えたのか声を張り上げて物陰から飛び出す。そのまま素早くヤスと呼ばれた紫色のスーツの男の側面からとび蹴りを入れる。ヤスは反応する間もなくリルルを手放して吹き飛ばされた。


「ヤスの旦那ぁっ! てめぇっ! 何しやがるっ!」


 吹き飛ばされたヤスの手下がルリリに対して声を荒げる。ルリリは怯まずに正面から睨み返してから言い返した。


「それはこっちのセリフよっ! 絶対に許さないんだからっ!」

「だとぅっ! このクソアマがぁぁぁ」


 声を張り上げた男の1人がルリリの襟元を掴む。ルリリは掴んできた男に拳を突き出すが、掴まれた襟元の腕をあっさりと引きはがしてから躱して反撃と言わんばかりに男の顔に拳をめり込ませる。その攻撃を待っていたと言わんばかりに周囲にいた別の男がルリリの背後に周り込むと羽交い絞めにした。


「っ! 放しなさいよっ!」

「誰が放すかよっ! おらっ! 他の奴らも手伝えっ!」


 ルリリも抵抗するが、男は周囲に声を掛けると取り巻きの男達がまるで群がる蜂の様にルリリの手足にに引っ付く。リルルが拘束されると顔面を殴られた男がルリリを見て言った。


「……よくもやりやがったな。だが、よく見ればお前もかなりの上玉だな。それに威勢の良さもかなり俺好みだ。お前の絶望する顔が見てみたいものだ」

「うる―っ!」

「おっとぉ手が滑った」


 ルリリは言い返そうとするが、それを止めるように男は彼女の姉がされたのと同じように腹を殴る。痛みとそれに悶えるのを許さないと言わんばかりの拘束に苦悶の表情を見せる。


「おぉ。いいね。いいねぇ。その表情。そそるなぁ。だが、本番はヤスのアニキのお返しの後だ。そしたらたっぷりと可愛がってやんよ。ブハハハ」


 手下の男が下品な笑い顔でそう言うと素直に引き下がる。入れ替わるように最初に吹き飛ばされたヤスと呼ばれた男がルリリの前に出てくる。


 その表情は怒りに歪んでおり、鬼のようであった。


「…………不意打ちでよくも俺の一張羅に土付けてくれたなぁ。落とし前はつけさせてもらうぞっ! ああんっ!」

「っ!」


 怒りを前面に出した重く響くような低い声でルリリのそう言うと彼女の腹に目がけて拳を繰り出す。防ぐことも躱すことも出来ない状態にせめてもの気持ちで腹に力を入れるが、恐怖に負けて目を閉じた。空気を切るような鋭い音が近づいて来る。


 しかし、目を閉じたルリリに男の拳の迫る音が突然途絶えた。


「え?」


 ルリリが目を開ける。そこには拳を振り降ろそうとした姿勢のままカミキリが後ろからヤスの腕を掴んで止めている姿であった。


「……子供相手にそれはやり過ぎだろう」


 カミキリは裏腹に冷ややかな声で言った。自身の拳を背後から止められたヤスは怒りの対象をカミキリに変える。


「んだとっ! ……まずはお前から土の下に埋めてやろうかっ!あぁんっ! っ!?」


 ヤスは激昂する。


 しかし、カミキリの鋭い眼を見て一瞬言葉が詰まる。それでもこの場でのチンピラたちのリーダーである矜持がそうさせたのかカミキリに顔を近づけながら声を張り上げた。


「この俺のバックに神人(しんじん)様がいるのを分かってて言ってんのかっ! ああんっ!」

「神人っ!」


 ヤスの言葉にルリリは顔を青ざめる。その言葉にルリリは幼かった過去の出来事を思い出していた。



 神人。栄華を極めた人類が環境の変化や世代の交代で進化した存在であるとも言われている。彼らの名は神人(しんじん)とも、進化した人から進人(しんじん)とも、神の使いから神人(しんと)とも呼ばれる。


 分かっている事と言えば基本的な寿命は人類の3倍近く。人類種である人間に対しての基本的な能力も大きく上回り、知恵も回り、その上で身内に対しては非常に情に厚い。


 その中で特に力の強い存在は特異な能力『神通力』を操れる事くらいだろうか。その神通力は千差万別であり、自身の能力を底上げからサイコキネシスと言った物語にあるような能力まで。共通する事と言えばそのどれもが強力である事くらいである。


 数は少なく、人類の総人からしたら1割にも満たない。だが、今の人類の約6割を管理しており、世界の中心に理想郷を築いて過ごしているとされている。そんな存在であるがゆえに商魂たくましい商人がまだ見ぬ利益を目指して向かって行くというのをルリリたちは良く見かけた。その話を聞くだけであれば夢のある話で済むのだろう。


 しかし、そこへ向かって行った商人たちは全員帰ってこなかったのである。戻る時は立ち寄ると言ってくれた贔屓にしていた商人も含めて。


 最初はとても居心地の良い場所なのかとルリリは思っていた。が、それもある日の出来事で裏切られた。


 その日は突然に強い雨が降った日であった。ルリリは雨宿りをしていると外でぼろ布を纏った男が走っているのを見かけた。用心のために建物の陰に隠れて走っている男を見る。


「あれは……」


 やせ細っていたが、ルリリの記憶にはあった商人の1人であった。


 ルリリはその商人に声を掛けようか悩んでいると男が唐突に宙に浮く。そのことに驚いて声をあげそうになるが、何とか押し殺す。しばらくすると綺麗な服を着た男が出て来る。商人の表情を見ながら男は言った。


「ふむ。やはり心の折れた人間では狩りの練習としてはやはり物足りない。ほら。もっと抵抗してください。そして、神人である私に殺されるのです。それが最大の幸せですよ」


 男はそう言うと手を動かす。その動きに合わせて商人は空中で何かに無理やり引っ張られているように手足が伸びる。


「ああっ! あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「はぁぁぁ。良い悲鳴です」


 叫び声と共に腕がちぎれる姿を見た瞬間にルリリはその場にしゃがみ込んだ。


 そこから先の事をルリリはほとんど覚えていない。耳を塞ぎ、見えない様に静かに体を震わせるだけ。覚えているのは耳を塞いでも聞こえる叫び声とその元凶の男の笑い声。嵐が去るのを待つように男が笑いながら歩いて行く音が遠ざかると助かったと安堵の息を出す。


 男たちがいた場所には来る時と何も変わらない道があった。血の跡や争った形跡すらない。ルリリが見たのは夢であったような気になるが、今まで嗅いだ事のない気持ち悪い匂いが先程の光景が現実であった事を証明していた。


「……うっ」


 耳を塞いでも聞こえた絶叫。想像だとしてもはっきりと脳裏に浮かぶ商人の末路。それを見て笑う男。逃げ出した男の姿が悪い意味で別の想像に繋がり連鎖する。


 逃げ出した男が来た方向。それと一緒の方向に行った商人たちの末路が逃げ出した男と同じ末路を辿っているかもしれないというイメージ。


 ルリリはその場で体の中のモノを吐き出した。



 ルリリは神人という言葉からあの時の恐怖を思い出して体を震わせた。


 ルリリの悲鳴を聞いて効果は抜群であるとヤスは感じたのか気持ち悪い笑みを浮かべてカミキリを見る。


「……」


 カミキリも言葉を返さない事にヤスの機嫌はさらによくなった。


「怖いか? だったら、大人しくしてるんだなぁ! はははっ! それと野郎どもっ! ヤルぞっ!」

「っひ!」


 ヤスやスーツの男たち敵に回すことがどれだけ危険かという事を知らしめるために行動を再開する。ヤスの掛け声と共に周りの男達は下品に笑うとリルルとルリリを縄に縛ろうとする。


「おらっ! 腰抜けはさっさとその汚い手を放せよっ!」


 ヤスは未だに手を放さないカミキリに対して自由に動かせる手の方でカミキリを殴る。しかし、拳はカミキリの顔に届くこともなく受け止められた。


「は?」


 ヤスは困惑する。あっさりと受け止められた事もそうであるが、まるで鉄の枷でもつけられたように1mmも腕を押す事も引くこともできなかった。


「……わかった。なら何もできないようにその手を潰させてもらおう」

「は?」


 底冷えするような視線とは裏腹に平坦な言葉でカミキリはそういうと掴んだヤスの手を握りつぶした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ