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神切-KAMIKIRI-  作者: haimret
第1章 蛇神様編
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3話

 ルリリは荷運びなどの自分の仕事を手早く終えると急いでカミキリが作業している裏へ行く為に家の出入口でリルルに声を掛けた。


「お姉ちゃんっ! カミキリの所行ってくるね!」

「それだったらこれを渡してあげて」


 リルルがそういうと妹のルリリに向かって何かを投げる。ルリリが投げた物を見るとそれはおにぎりであった。


「見た時にお腹すかせてそうだったからあげてちょうだい」

「分かった。ありがとう」

「気を付けるのよ」

「いってきます」


 ルリリはそう言うと家から出る。 裏手に回るとカミキリは真剣に作業していた。


 太い枝は斧で割り、細い枝は鉈をと使い分けて慣れた手つきで手ごろな大きさに木材を加工していく。近くにある木を全て割り終えて纏めている最中にルリリはカミキリに話かけた。


「ねぇねぇ」

「どうした?」


 ルリリの声にカミキリは作業しながら言葉を返す。ルリリは気になっていた事を聞き始めた。


「手慣れてるんだね?」


 旅をしていると聞いていたが、妙に手慣れた手つきで薪を作り続けるカミキリに対して、ルリリが持った最初の疑問であった。


「旅をする前……小さい頃にたくさんやらされたからな」

「やっぱりそういうのって体が覚えてる物?」

「まぁな。最初は思い出すまでは少しぎこちなかったがな」


 ルリリも覚えがあるのかカミキリの言葉にうなずく。そうこうしている内に薪を纏め終えたのカミキリは作業をしていた場所に座ってルリリの方を向く。


「あと。これ。お姉ちゃんが男の子だからお腹すかせてるだろうって」

「後でありがとうって伝えないとな。いただきます」


 そう言ってルリリはおにぎりをカミキリに手渡す。カミキリは手短に言葉を口にするとすぐにおにぎりをほおばる。中身はないが、程よい塩気とお米特有の甘味がカミキリの胃を刺激する。そのまま簡単に1つ食べ終えるとルリリは言った。


「礼はいらないって言ってたよ」

「そうか。……ごちそうさま」

「……早いね。男の子ってみんなそうなの?」

「一部だけだな。早い奴もいれば遅い奴もいるぞ?」

「ふぅん」


 ルリリ適当に相づちを打つと視線の先はカミキリの近くに立てかけられた武器に移る。


「ねぇねぇ? それってなんていう武器なの? 多分、剣なんだよね? やけに細くて曲がってるように見えるけど」


 ルリリは狩りに使う武器や、商人が持ってくるような剣や槍などといった武器の種類はそれなりに知っていた。形状からして剣の分類であるのは分かる。


 だが、ルリリが指さしているそれは知っている剣類である短剣やレイピア、両手剣とは全く違い、細く曲線を描いた武器であった。それ故に興味深そうに立てかけている得物をじっくりと見る。


「これか? これは刀っていう武器だ」


 ルリリが指をさすとカミキリは手を止めて、手に持っていた鉈を置いてからカミキリは刀を手に取るとあっさりと答える。


「刀?」

「この国で使われていた遥か昔の武器の1つだ。製法は既にほとんど途絶えたと聞いている。それに今までの旅で俺以外が使ってるとか持ってるって奴にはあったことがないしな」

「ふぅん。なんでそんな物が残ってるの? とかそれを何でカミキリが持ってるの? とか気になる事はあるけど……触ってみてもいい?」

「ほら」

「うわっ」


 ルリリがそう言い切るとカミキリは刀を投げる。ゆっくりと緩い放物線を描いて、鞘に入ったままの刀が飛ぶ。急に投げられて飛んでくる刀にルリリは慌ててキャッチするとカミキリ文句を言った。


「ちょっと! いきなり投げ渡されても慌てるよっ!」

「ん? こいつは頑丈だから少々落としても問題ないぞ?」

「そういう問題じゃないよっ! そんな不用心にっ!」

「別に誰でも、という訳じゃないぞ。それなりに人を見る目はあるつもりだ。それにさっきの行動に対してきちんと怒れるという事は信用できる」

「うっ。わっ! 分かったからっ! そうやってほめ殺すの禁止ッ!」


 カミキリが至って真面目な表情のまま言う。その表情と思っていた以上に信用している言葉が返って来た事にルリリの言葉が詰まる。カミキリがその反応に信用しているという事を表しているのか穏やかな様子でルリリを眺めるとルリリは照れるように刀を抱えてカミキリの反対側を向いた。


「すぅ……はぁ……。抜いていい?」


 ルリリは気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。ある程度落ち着くともう一度カミキリの方を向くとたずねた。カミキリは静かにうなずく。


「ああ」


 短い言葉で肯定してうなずき返すとルリリは慎重に刀の柄に手を伸ばす。最初は恐る恐るといった様子。柄に手を取ると鞘から刀を引き抜くために手を動かす。


「んっ。……あれ?」


 しかし、ルリリは刀を抜こうとするが抜けなかった。その事にルリリは頭をかしげる。力が足りないと思ったのか思い切り力を込めるが微動だにしていない。抜き方に何かあるのだろうと色々と考えて悪戦苦闘するが、結果は見ての通りに1mmも刀が抜ける気配すらない。


「もうっ! ふっんっ! …………ぐっ!」


 ルリリは一旦心を落ち着かせてから全力で力を込める。必死に抜こうと体を震わせ、顔も真っ赤にしてどうにかして抜こうとするが、抜けないという結果は変わらなかった。


「まぁ。そうなるだろうな」


 結果は分かりきっていたのか、ルリリの様子を見てからカミキリがそう言うとルリリは手を止めた。


「 ……はぁはぁ。どういうこと?」


 力いっぱい引き抜こうとしていたためか、少し呼吸が乱れていたルリリは呼吸を整える。抜けない刀を見ながらルリリはたずねた。


「この刀『カミキリ』は俺じゃなきゃ抜く事も扱う事も出来ない代物ってだけだ」

「この刀『カミキリ』っていうのね? って。あれ? 同じ名前?」


 カミキリの言葉から刀を同じ名前が出てきてルリリは頭をかしげた。ルリリの言葉にカミキリは答える。


「ん? ああ。どうにも俺が生まれた時からこの刀を持っていたらしくてな。拾ってくれた親がこの刀を俺が離さなかったからってことで刀と同じ名前なったんだ」

「へぇぇぇ。でも、それって分かり辛くないの?」

「別に問題ないぞ。そのことを知っているのは俺か、さっき言った育て親。それと今話したお前くらいしか知らないからな。基本はこれの名は言わない。それと育て親については今旅で探している最中だ。白銀の髪の女なんだが?」


 カミキリは女の特徴を話す。心当たりはないのかルリリは頭を左右に振った。


「ううん。知らない。それよりもそんな話しちゃってよかったの? 多分この刀ってかなりの代物でしょ? 名前が残ってる武器で例え抜ける人が限定されててもかなりの金額の代物になるって聞くけど?」

「…………………………出来れば内緒にしておいてくれ」


 ルリリがそうたずねるとカミキリはうかつだったと考えたのか沈黙する。しばらくすると眉間にしわを寄せてからルリリに頭を下げた。その行動にルリリの方が驚く。


「わわっ! そんなことしなくても話さないから! ほらっ! 頭を上げてっ! あとこれっ!」


 ルリリは慌ててカミキリの頭をあげさせる。同時に預かっていた刀『カミキリ』をカミキリに返却する。


「確かに返してもらったぞ」


 律儀にそう言うとルリリは疲れた様子で言った。


「はぁ。何だかとても疲れた気がするよ」

「そうか。それは良くないな。もう少し座って休憩すると良い。その間にこっちも作業を終えるからな」

「もう。誰のせいだと思ってるの」


 疲れさせた張本人に対して半目でルリリは睨むが、カミキリの方はどこ吹く風。大して気にしていない様子で作業を再開する。軽快にリズムを刻みながら木材がどんどんと増えていく。このペースならばそんなに時間が掛からない内にすべて終えるだろうとルリリは予想を立てて、しばらく眺めているとカミキリの手がピタリと止まった。


 カミキリは何かに反応した様に家の壁の方を見た。カミキリの動きにつられてルリリも同じ方向を見る。少し遅れて声が聞こえた。


「――――! ――っ!」


 叫んでいるような、怒っているような声であった。そして、言い争っているような声でもあった。声にどんな感情が混ざっているかなどは分からない。


 しかし、いつも聞いている人の声が聞こえてルリリが反応する。


「っ! お姉ちゃんっ!」


 ルリリは駆けだした。

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