23話
朝食を食べ終えた後。
片づけを終えたカミキリたちはフィーの案内で隣の建物へ来ていた。
「ここが父さんの工房だよ」
「ここが……。そういえばダタラは置いてきてのか?」
フィーが説明するとカミキリがたずねた。
カミキリ達が朝食を終えた後にダタラは確かに起きたが、その顔は青く会話も困難そうな表情であった。
それにフィーは困ったような曖昧な笑みを浮かべる。
「ははっ。父さんはしばらくは動けないかな? お酒は大好きだけど、カミキリと同じでそこまで強くはないから」
「まぁ……あんな表情を見せられたらな」
「うん。一応は昨日の寝る前に聞いておいたからね。酔ってたけど、お酒の記憶はしっかりしてる方だから大丈夫だよ」
フィーは寝る前にダタラから許可を取ったことを伝える。
「そうか。それなら問題ないか」
カミキリが納得する。
「そういえばカミキリも父さんと同じくらい飲んでたみたいだけど。元気そうだね」
「飲んで戻って言った記憶はないがな。アルエがいたずら横に寝てたが、もしかしてそれまでの間で俺は何か変なことをしてたか?」
フィーの疑問に答えるとカミキリはアルエがいたずらを実行した理由をたずねる。
「うむ。凄かったぞ。あんなに我とアンナを求めていたしな」
アルエが顔を赤くしながら答える。その横ではアワアワと慌てたようなアンナがカミキリとアルエを交互に見ていた。
「お母さま。もうごはんの時間?」
「うっ」
カミキリはアルエが朝に言った事を再現する。その言葉にアルエが胸を抑えた。
「さすがに嘘は行けないと思うぞ?」
カミキリはアルエに呆れた表情を見せるとアンナを見る。
「あ。えっと……」
カミキリの視線にアンナはさらに混乱する。しばらくしていると観念したのかアンナは申し訳なさそうに答えた。
「その……アルエのいたずらについては許してあげてください。アルエがカミキリを預かった時に酔っぱらったカミキリがアルエに抱き着いたんですよ」
「……本当か?」
アンナが素直に答えるとカミキリはアルエを見る。話題のアルエはと言うと気まずそうにそっぽを向いた。
「…………本当みたいだな。それで?」
「意識はほとんどないみたいでしたが、アルエを抱きしめた後に……」
「抱きしめた後に?」
「カミキリはそのまま寝ちゃったんです。そんな行動にアルエが不機嫌になって」
「……別に不機嫌になぞなってない。あれは我がカミキリの反応を楽しみたかっただけだ」
「とまぁ、あんな感じで」
「なるほど」
酔っぱらって記憶がないとはいえ、さっきの説明でカミキリもっ微妙に罪悪感が生まれる。
「それよりもきりを復活させるための探すんだろう? 我もきりには会いたいからからな。さっさと入るぞ」
「あ。鍵開いたよ」
「うむ。開けるぞ」
カミキリ達が会話をしている間にフィーが扉を開けるとこれ以上は話題を掘り返されたくないのかアルエがフィーの代わりに扉を開ける。
「おお。意外と綺麗にしてるんだな」
扉を開けた先で見たのは綺麗に整えられた工房であった。炉や金床、鍛冶に使う道具には錆も埃もなく、いつでも使えるような状態であった。
「ここが父さんの工房の一室だよ。今は鍛冶はしてないけど、掃除だけは絶対に欠かさずするんだ」
「いつでも再開できるようにか?」
「うん。多分。でも、答えてくれそうにないから聞けなくて。聞けば絶対に体調を崩すから」
フィーは悲しそうな顔になる。それを見たカミキリは唐突にフィーの指先を頭に乗せた。
「え?」
「大丈夫だ。焦らなくていい。フィーがダタラを大切に思っているようにダタラもフィーの事を大切に思っている」
カミキリは優しく指先でフィーの頭をなでる。最初はくすぐったそうにしながらもフィーは気持ちよさそうにそれを受け入れた。
「んっ。もう大丈夫だよ。それにしても父さんが撫でる時とそっくりだね。カミキリは」
「そうか?」
「うん」
フィーの表情が明るくなると周りの空気も軽くなる。
「あ。ただ、この部屋の道具は下手に触ったり、移動させたりしないでね。父さんが怒るのもあるけど、純粋に危ないからね。それと中には父さん以外が持つと色々と吸い取られるよ」
「い、意外と怖いなっ!」
アルエが慌てて近くにあった道具から離れる。
「大丈夫だよ。本当に危ないのは試作の武器とかは別の場所に保管されてるし、吸い取られるとしても命は取られないよ。せいぜい疲れで身動きが取れなくなるだけだよ」
「……軽く言ってるが、それでも相当だからな」
フィーが軽い様子で答えるとアルエが呆れた表情でつぶやく。空を飛びながら工房の中の別の部屋の扉へと行く。
「で。ここが資料室1だよ。ここには父さんの古い研究資料とか武器の目録とか置いてあるの」
「1という事は他にもあるのか?」
カミキリがたずねる。
「うん。長い年月作ってるからそういう資料がいっぱいあるの。調べるんなら古い方から見て言った方がいいかなって」
「うむ。確かに時系列に沿って調べた方がいい気がするな。開けるぞ?」
アルエがカミキリ達にたずねる。カミキリ達がうなずくとアルエもうなずくと扉を開ける。
扉が勢い良く開くと大量の埃が舞った。
「けほっ。けほっ……」
アルエは涙目になりながら慌てて閉める。フィーを見ると思い出したように答えた。
「あ。そういえば手伝いもしたことはあるけど、ここは掃除どころか部屋を開けたこともなかったっけ?」
「どうりで。それとフィー……そういうのは先に言ってくれ」
アルエが恨めしそうに言うとフィーは素直に頭を下げた。
「ごめん。ごめん。確か、父さんの手伝いで風とかで埃を集めたりとか高い所のお掃除はしたけど、2人とも途中で飽きちゃってここは掃除をとばして、忘れちゃってたみたい」
「……まぁ分からんでもないな。我もユーリエにいたずらしようと色々仕掛けた分を忘れて、お母さまが引っかかってしこたま怒られた事がある。それと同じだな」
アルエもフィーの言いたいことも分かるのかうなずく。それにアンナが何とも言えない表情でつぶやく。
「……それは同じと言えるのでしょうか?」
「まぁ、まずは掃除からだな」
アンナのつぶやきが聞こえていたカミキリが苦笑する。アンナは聞かれていたのに気が付くと少しだけばつが悪そうにしながらカミキリの言葉にうなずいた。
「そうですね。こっちに埃が来ないように気を付けましょう」
「うむ。力になれるかは分からんが、出来る限り手伝うぞ」
「私もー」
カミキリの提案に全員がうなずいた。
朝食はシンプルで量が少ないのが一般的なため、朝食の後です。
つまり、工房の資料室の調査の直前から。
次回は調査前の掃除から。結構わちゃわちゃする予定。それと色々予定がある為、次回の更新は4日後の8/13(金)にさせてください。
ここまで読んで下さりありがとうございました。次回もお楽しみに。




