エピローグ
「準備は……問題ないな」
カミキリが目覚めてから3日が経った早朝。カミキリは少ない荷物を纏めると部屋を出る。そのままカミキリは泊まっていた医院を出るとアルエたちが待っていた。
「うむ。予定通りに来たな」
アルエがそう言うとカミキリは答える。
「ああ。時間はあるとは言われてもじっとしているわけには行かないからな」
「うむ。気合が入ってるな」
「ああ」
「それで……きりと対話出来たのか?」
「……何度か話しかけてみたが、駄目だった」
アルエの言葉にカミキリは頭を横に振った。
「そうか。天照様は?」
アルエがたずねるとカミキリの胸元にかけている勾玉から天照が出てくる。そのままカミキリと同じように頭を左右に振った。
「私からも駄目だった。一時引きこもった時を思い出されるな」
「それは何か違うと思うぞ?」
自身の引きこもっていた時を思い出したのか天照は楽しそうに何度もうなずく。きりに関しては引きこもったとは言い難い状況の為、カミキリ達が頭を傾げるのも無理はなかった。
3人の間で微妙に会話が続かなくなるとアルエが軽く咳払いした。
「こほん。ま、まぁ、まずはきりに関しているであろうその刀を直す所から試すという事でまずは境都と経由するのだったな」
「ああ」
アルエがそう言うとその場に魔法陣を形成する。
「待ってくださぁぁぁいっ!」
アルエの言葉にカミキリはうなずくと上空から声がした。カミキリ達が視線を上げるとユーが両手に荷物を持って、ゆっくりと下りてくるところであった。
「ユー。回復までの世話はありがとう」
「いえいえ。私のしたかった事ですから」
カミキリが礼を言うと嬉しそうに微笑む。アルエは軽く手を上げてユーに挨拶すると言った。
「うむ。我たちを見送りに来たのだな」
「違いますよっ! ついて行く」
アルエの言葉にユーが慌てて否定する。その声に反応するようにアイネエルが慌てた様子で飛んで降りてきた。
「ユーッ!」
「ア、アイちゃん」
アイネエルの剣幕にユーが怯む。アイネエルは頬を引っ張った。
「いっ! いははっ! いはいでふっ!」
「全く」
頬を引っ張るのを止めないまま呆れた様子の声を漏らす。
「何かあったのか?」
「ユーが仕事を放置して逃げ出そうとしてたので捕まえに来ました」
お仕置きが終わったのかユーの頬から手を放す。ユーは痛そうに頬をさすった。アイネエルの言い分にカミキリたちは何とも言えない表情でユーを見る。
「……別にさぼるわけではないですよ。仕事は全部終わらせました」
カミキリたちの視線に耐え切れなくなったのかユーは微妙な顔をして答える。
「知ってます。でも、それは昨日までの分です。もう今日の分は来ましたよ」
「えぇっ!」
アイネエルが答えるとユーから不満そうな声が漏れる。アイネエルは続けて言った。
「復興したアマノミハシラに亡くなったディウスとミカエル様がいない今。手が足りないんですよ」
「うぅ……私もカミキリ様について行きたいです」
ユーから本音が漏れる。それに対して、アイネエルが懇願した。
「……もう少しだけお願いします。後、1カ月だけ。それだけあればアマノミハシラの復興の軌道に乗ります。そうすればしばらくはユーの自由にしてもらって構いませんから」
「それは俺からも頼む。ミカの故郷を守ってくれ」
カミキリも頭を下げる。さすがにカミキリも同じように頼み込まれるとユーは折れた。
「うぅ。分かりましたよ。その代わりにこの後はカミキリ様の所へ行かせてくださいね」
「ああ。ただ、細めに連絡は入れるつもりだ」
「……絶対ですよ?」
「もちろんだ」
「もし破ったら責任取って私とデートしてください」
「……分かった」
ユーが念を入れるようにたずねるとカミキリが少しためらった後にうなずく。ユーはその答えを聞くと今度はアイネエルとアルエの方に向いた。
「カミキリ様とのデートの約束はしたので、アルエとアイちゃんには奮発してもらいますよ。もちろん。拒否させません」
有無を言わせない様子でユーが一転してアルエとアイネエルに約束を取り付ける。それにアルエとアイネエルが動揺したままうなずいた。
「ふふっ。絶対に忘れませんからね」
ユーがそういうとアイネエルが後悔するように言った。
「……少し早まった気がします。こういう時のユーの記憶力が半端じゃないのです」
「うっ。あまり無茶はするなよ。我も早く準備を進めないと」
「分かってますよ」
嬉しそうにユーがそう言うとアイネエルが疲れたように言った。
「カミキリたちを見送ったら行きますよ」
「はい」
アイネエルがユーに元気にうなずく。
「ですのでカミキリ様はなすことを終えたら絶対に戻ってきてくださいね」
「ああ」
「今はいませんが、ミカゲちゃんも待ってますので」
「分かった」
カミキリはユーにうなずくとアルエが声をかけた。
「カミキリ。準備が出来たぞ」
アルエが魔力を注ぎ終えて転移の魔法陣が動き出す。カミキリが進もうとしたときにアイネエルが言った。
「……いつでも戻ってきください。アマノミハシラとミカエル様もここで待ってますので」
カミキリがそう言うとアイネエルが言った。
「あっ。アイちゃん。ズルい」
「ズルいって……」
「それはそうとカミキリ様。私達は待ってますので」
「ああ。行ってくる」
カミキリはアルエの作り出した魔法陣に踏み込む。
「行くぞっ!」
カミキリと天照、アルエは目的地である境都の南の山奥へと行くための中継点である境都へと転移の魔術で飛んだ。
これにて神であるディウスとの戦いは終結。カミキリ達の出発がエピローグです。
そして、そんな終わりであるはずのエピローグにもかかわらず着々と外堀を埋めていくユー。書いてて何が彼女をそんなに搔き立てるのか……。
次章ではきりの復元と復活のお話の予定。ユーの企画するデート? はその後の幕間かサブのお話でするかもしれません。
1章でここまで長く書いたのは初めてな気がします。纏めきれていないとも言いますが。
次章は色々と時間が取れない為、時間が空いて5/29(土)に更新予定です。
長くなりましたが、これからも『神切』をよろしくお願いします。それとここまで読んで下さりありがとうございました。
次章もお楽しみに。




