16話
そんな申し訳なさそうな表情のミカゲにカミキリはたずねた。
「飛べない?」
「うん。色々あるけど、問題なのはエネルギーが足りない」
ミカゲは問題を提示する。
「貯めていたんじゃないのか?」
カミキリがそう言うとミカゲはうなずいた。
「うん。修復する用も含めてあったよ」
「だったらなんで足りない事になる?」
「それはね。動力部が損傷しちゃってて。漏れ出るのだけは止めて他の部分の修理には回せたけど……」
ミカゲは言いにくそうにそう言うとアルエはミカゲの言いたいことを理解したのかうなずいた。
「むぅ。そういうことか」
「分かるのか?」
「うむ。エネルギ―をためるはずの場所が損傷したという事は貯め込んでいたエネルギー関係も流出した可能性が高い。真っ先に修復したとはいっても出て行ったものを回収するには厳しいものがある」
「うん」
ミカゲはうなずく。そんなやり取りにアイネエルが気になったことがあるのかすぐに疑問を口にした。
「ですが、そんなに早くなくなるものなのでしょうか? 起動時には大気魔力でしたっけ? 充填はほぼ満タンに近かったはずですが?」
「それは船を動かすエネルギーとは別だよ。そうしないと今みたいな時に修復するためのエネルギーが足りなくなるから。それに外部魔力の貯蓄じゃエネルギーが足りない。ウリエルは知っているでしょ?」
ミカゲはウリエルを見る。ウリエルは肯定するように頭を縦に振った。
「おう」
「知ってたなら先に言ってくださいよ」
「そんなに深刻な状況になっているのは予想してなかったからな。それと聖石を作り直せばいいんだな?」
ウリエルがそういうとミカゲにたずねる。天使と人で反応が分かれた。
「え?」
「本当に?」
ユーとアイネエルは信じられない表情を浮かべる。
「聖石?」
「名前からして……何かの力のこもった結晶なのだろうか?」
一方で全く知らない言葉にカミキリとアルエが頭を傾げた。
カミキリとアルエの反応にウリエルが答えた。
「おう。天使の力を結晶になるまで集めて固めた代物だ。それに内包する力は手で握り込めるくらいのサイズでも都市1つくらいなら100年は持つ」
「それは……凄まじいな。それを動力にしているのか?」
ウリエルの説明にカミキリが反応する。
「ああ。天使複数人で時間を掛けて作る代物でな。指先くらいのサイズを作るだけでも数十年かかる。この船を十全に動かすだけのとなると最低でもこれくらいだな」
ウリエルは説明しながら人の頭くらいの大きさの丸を作る。その大きさにカミキリは言った。
「それを作り直すとなるとどれだけかかるんだ……」
「ざっと数百年だな。元々世代を超えて」
ウリエルの言葉にあるえが苦い表情を浮かべた。
「……流石に我とカミキリはそこまで待てないぞ」
「アルエ。それは天使である私たちもですよ」
アルエの指摘にアイネエルが追加で言う。そんな様子のアルエとアイネエルにウリエルが補足した。
「一応言っておくが、それはディウス様に気づかれないように1人ずつで交代でやった場合だ。加えて1から作り出すのとは違って漏れ出た分の補充だから実際にはもっと短い」
「そうですか。私達3人でしたとしてどれくらいかかりますか?」
アイネエルはたずねた。
「短くなるとは言ったが、3人いても復元するまでにどれだけ時間がかかるかは分からん。それに加えて本当に治る範囲なのかも実際に作業してみないと分からないと来ている。他の方法を考えた方が建設的かもしれないぞ。それでもやるか?」
ウリエルは重苦しい雰囲気でたずねる。その言葉にアイネエルが沈黙するとユーが答えた。
「やりましょう」
ユーの決断の速さにアイネエルとウリエルは呆然とした表情を見せる。それにユーが頭を傾げた。
「どうかしました?」
「いえ。船の修復を手伝うのに否はありませんが、その……決断が早いなと」
「ここで迷っても仕方ないですよ。実際にやってみないと分からないです。だったらやってみてから後悔した方がいいです」
「っく」
「ウー君?」
「ははははははは」
ユーの言葉にウリエルが堪えきれなくなったのか押し殺すように笑い声が漏れる。そこから大声で笑い始めた。
「ど、どうしました!?」
大笑いするウリエルにアイネエルが戸惑う。ひとしきり笑った後にウリエルは答えた。
「そうだな。やってもないのにこういうことをたずねるべきじゃないよな。5日だ」
ウリエルは手を広げた。
「5日?」
「治るとすればユーとアイネエルと俺で付きっ切りで5日。それだけ持ちこたえれば俺たちが動かす分のエネルギーは貯められる。ディウス様の船はまだ静止した状態だったな?」
「はい。幸いディウスはここから見えない場所には移動してないです。ただ、何をしてくるか分からないのが少し不気味です」
ユーは静止した状態でいるディウスの船を思い出す。空中で静止した状態のまま動きを見せない状況にそう言うのも無理はなかった。
「そうだな。だが、ディウスの性格を考えると不安要素は消しておきたいはずだ。それも一方的にな。それを考えたらあの船の砲撃をもう一回撃つか、何かしらの妨害があってもおかしくない」
「そうですね。ウリエルのがんばりで防がれたことを考えると準備が整い次第確実に仕留めるために動くでしょうね」
「それとあの光の攻撃は威力が凄まじい代わりに相当なエネルギーを使う。と機嫌がいい時に一方的に語っていた」
「それは有益な情報じゃないですか。なんで忘れてるんですか」
アイネエルがウリエルを呆れた眼で見る。ウリエルは言い返した。
「相当前だったからな。確か、あらゆるエネルギーを吸収して放つ関係でチャージには時間がかかると言っていた」
「そうであれば動けるうちに準備はした方がいいですね。ただ、聖石の修復時は私たちが一切動けない可能性もあると」
アイネエルは考えを纏める。
「もし攻めて来たならば我とカミキリはユー達が聖石とやらが回復するまで防げばいいという事か?」
「だな。俺も大丈夫だぞ」
アイネエルの考えにアルエが時間稼ぎの防衛を志願する。カミキリもそれに異論はないのかゆっくりとうなずく。
アイネエルはしばらく考えるとカミキリと同じようにうなずいた。
「分かりました。来た時はお任せします。とはいっても攻めてくる前に完了させることを目指すのでそうならないと思いますが」
アイネエルがそう言うとアルエが調子よく言い返す。
「我もそうなる事を期待する。無論いつ来ても持ちこたえて見せよう」
「お願いしますね」
アルエとアイネエルがお互いに言い合うとユーが話に割って入る。
「ケンカは駄目ですよ」
ケンカしたと思ったのかユーは窘めるようにアルエとアイネエルを叱る。そんなユーに2人は何とも言えない表情に変わった。
「いえ。私とアルエはケンカしてませんよ」
「そうだな。互いにこれからの事で激励しあっていただけだ」
「えぇっ! そうだったんですかっ!」
息ぴったりの2人の解答にユーが驚く。その反応にアイネエルたちは苦笑する。ひとしきりユーが驚き終えるとユーは言った。
「でしたら協力を成功させるために円陣を組みましょう。円になるように集まってください」
そう言ってユーの前を囲うように全員で円を作ると手をさし出した。
「こうか?」
カミキリはユーの隣でユーの上に手を乗せる。
「はい。他の皆さんも」
「うむ」
「はい」
ユーが先導するとアルエとアイネエルもそれに乗る。そんな中で手を出していないウリエルに視線が集まった。
「俺も……いいのか?」
ウリエルは困惑した表情で尋ねる。最初に答えたのはユーであった。
「ウー君もこれから協力する仲間です」
「そうですよ。デリカシーない癖にこんな所で変な気づかいはしないでください」
「アイネエルはナチュラルに酷ぇな。……だが、分かったぜ」
ユーとアイネエルの説得にウリエルは答えるようにユーたちの手の集まった所に手を乗せる。
「それでは絶対にディウスに勝つぞ。おーっ!」
「「「「……」」」」
「そこは一緒になって「おーっ!」って言ってくださいよっ!」
ユーの掛け声に対する答えは沈黙であった。あまりの反応のなさに流石のユーも怒る。
それを無視するようにカミキリが鋭い声を放った。
「行くぞっ!」
「「「おうっ!」」」
「えっ! えぇっ! おっおーっ!」
カミキリの言葉に反応して全員が手を上げる。息の合った動きにユーだけが置いてけぼりを喰らって遅れて反応するのであった。
船の修復についてとディウスの動きがない事についての簡単な説明回。
次回は少し時間がとんで修復が終わる直前くらいになる予定です。
ここまで読んで下さりありがとうございました。次回もおたのしみに。




