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神切-KAMIKIRI-  作者: haimret
第1章 蛇神様編
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1話

 木々や草といった緑が人工的な建物を侵食した廃墟の跡の中心部。


 可愛らしい見た目の小動物から人の身の丈ほどもある昆虫、鋭い牙を持つ肉食のウサギや6本腕のクマなど多種多様な魔物飛ばれるような生物が生息する人里離れた大自然の中。


 この近辺を住処にしている少女ルリリは少し離れた物陰で倒れている男を見つけて困惑していた。


「人……だよね?」


 小さな声でつぶやく。


 とある一区画の影で()んだ水を運ぶルートの確認と道中に食べれる物を探す作業の途中で休憩している最中に見つけた男が一切動いていない所を確認すると周囲を見る。


 軽快すべき危険な動物や魔物がいないと分かると恐る恐るといった状態で慎重に行き倒れている人間に近付いた。少し音を立てるが、反応のないことを確認すると素早く近くまで寄る。


 その場にしゃがみ込むと意識がないか確認した。


「もしもーし。生きてますかー?」


 反応はなかった。目の前で倒れている人間を観察しながらルリリは考える。姉と稀にここを通る商隊の事はルリリも知っている。少なくともその中にはいなかったのは記憶の中では確かであった。


「それにしても男の人ってこんなに大きいんだ」


 間近で観察すると男がルリリよりもはるかに大きな身体だという事に感心する。旅に便利なフードつきの灰色の外套。無造作に落ちている中身のなさそうなカバン。手には武器が握られている。


 いかにもな旅人といった恰好をしていた。


「恰好からして旅人だと思うんだけどこれは武器? よね。多分……剣だと思う。でも、剣にしては細いような……」


 そんな男を見ながら男の手に持っている物に好奇心が刺激されたのか非常に興味を持つ。鞘に入ったそれは彼女には全く分からない武器であった。


 旅の商人の護衛が武器を持っていたり、商売の品としてそう言うものがあるのは知っている。加えて唯一の家族である姉がこの街を散策するならと狩りの道具として武器を持たせてもらったために扱い方も教わっている。


 基本的な武器は知っているが、目の前にある武器の形は始めて見る代物であった。好奇心に負けて、まずは確認のために指を出して倒れている男をそっとつついてみる。


「わっ! こうして触ってみるとお姉ちゃんよりも身体が固いな。筋肉? 鍛えてるのかな? それと反応はない、と。……でも、温かいからまだ生きてるんだよね?」


 知っている姉のお腹の感触とは大きく異なる硬い感触に驚きながらも楽しそうな声を上げる。ルリリはこれだけでは満たされなかったのか別の場所を指でつつくと思い出したかのように手が止まった。


「あ。夢中になってたけど、生きてるなら反応があるはず。もう一回声を掛けてみよう。…………もしもーし? 生きてますかー? 生きてたら返事をしてくださーい。……………………反応はなしと」


 男に声を掛ける。反応がないことを確認すると本命であるその手に握られている剣に触ると倒れていた男が動いた。


「……うぅ」

「きゃっ!」


 さっきまで全く動く反応すら見せなかった相手がうめき声をあげてわずかに動くと思わず声を上げて慌てて後ずさった。


 その勢いでルリリは尻もちをつくが、倒れていた男はまだ意識がはっきりしていないのか少し遅れてかすれたような声で話しかけてきた。


「…だ、れかいるのか?」

「え? あ。えっと……はい」


 まさか意識が戻るとは思ってもみなかったのか、動揺したままだったルリリは思わず返事をする。男は震えた手を持ち上げた。


「み……」

「み?」


 男は何かを言おうとする。それを聞き逃さない様に男の言葉を繰り返した。


「水……を……」

「水? あ。これ……飲む?」


 ルリリは腰の皮袋に入れた水を見る。彼女はふたを開けて軽く皮袋を振る。動いた時に水の音を察知したのか男はその方向に頭がかすかに動く。


 さすがにこのまま見捨てるのは精神的に良くないと思ったのか彼女は水を飲ませるために一度皮袋を閉めてから男をうつ伏せから仰向けにひっくり返そうとする。細身の体の見た目よりも重かったのかひっくり返せない。


「お水を上げるからひっくり返すから少し動いて」

「分か……った」


 男はそう答えるとルリリは再びひっくり返そうと動かす。今度は男の助力もあって何とか男をひっくり返すと男の顔が見えた。


 顔を見ると整ってはいるが、眼を閉じていても印象の先にくる鋭利な刃物のような顔つきに一瞬怯む。


 しかし、どんな人物にせよ助けを求めて話しかけてきた相手だ。それに加えて色々と触った罪悪感もあって、いつでも対応出来るように警戒はしつつもルリリはこれも何かの縁と割り切る。腰の皮袋を手に取りふたを開けて男の口元に寄せた。


「飲める?」


 優しくそう言って皮袋の水をほんの少し垂らして口を少量の水で湿らせる。それによって多少復活したのか男は小さくうなずくと口に水を流し込んでいく。


「うぐっ……うぐっ。ふぅ」

「すごい勢いだね」

「っと。すまない。助かった。飲まず食わずでずっと過ごしていたから危なかった」


 男はそう言うと乾いた大地にしみ込むように勢い良く水を飲みきる。体内に水が入ったことでようやく一息ついたのか大きく息を吐くと男が喋った。


 男の穏やかな声に警戒は無用であると悟るとルリリはどうして倒れていたのかたずねた。


「えっと……どうしてこんな所で?」

「人を探してたんだ」

「え? こんな場所に? ここに人なんてめったに来ないよ?」


 たまに人も通るが、この辺りは滅多に人が通らない事で有名な場所である。ここ1ヶ月は誰も通った記憶はないことを知っているために頭をかしげる。


 その疑問に顔に男は答えた。


「ああ。この辺りで俺の知っている特徴の奴を見たって聞いてな。長くて綺麗な白い髪との綺麗という表現が似合う女性なんだが……知らないか?」


 男がそう答えてからたずねると少女は頭を左右に振った。


「ううん。知らない。そんな人が通ってたら私もさすがに忘れないかな」

「そうか」


 当てが外れたのか男は少しだけ残念そうな表情に変わる。その様子に少女はすぐに心配させない様に言った。


「たっ偶々私が見かけなかっただけかもしれないから絶対にとは言わないよっ!」


 焦る少女に対して男は慰めようとしていたのを察したのか静かに笑った。


「ああ。分かっている。教えてくれてありがとう。それと水、助かった」

「どういたしまして」


 男は礼を言うと少女は悟られていたことに恥ずかしそうにしてからそれに答える。男は静かに続きを語った。


「滅多に人が通らないことも聞いて、一応は用意して食料をなるべく使わない様に狩りをしながら節制してこの辺をうろついていたんだが……カラスがな」


 男がカラスの事をつぶやいてから言いよどむ。その様子にルリリは何があったのか察した。


「あ。カラスにやられたの? 確かにこの辺のカラスってものすごく賢いから厄介なのよね」

「ああ。恥ずかしい話だ。一応は話に聞いていたから警戒していたんだが、その件の野生のカラスにカバンの中身の食い物を全て駄目にされた上に狩りの獲物も横取りされてな」

「あちゃあ。ご愁傷様。ここのカラスって簡単にカバンとか開けられるんだよね。どこに持っていくのかは知らないけど、大きな獲物とかも集団で運べるくらい力持ちだし運がなかったと諦めるしかないね」

「というか、なんであんな連携できるんだよ。さすがに予想できなかったぞ」


 無駄なカラスの賢さに男は文句を言った。ルリリはその反応に笑いながらあの賢さについて知っている事を話す。


「あはは。確か昔ここを根城にしていた盗賊団に飼われてたんだって。それでその盗賊たちが色々と仕込んでいたみたいでね。盗賊がいなくなってからも、そのカラスだけは生き残ったせいで他のカラスを率いて大きな群れになった後もその情報を共有して生き抜いたんだろうってお姉ちゃんが言ってたよ。それと商人や旅人とかのここを通る人間が食料を持ってるのを知ってから他の魔物や動物を(けしか)けるときもあるんだって」


 この周辺のカラスは得物を見つけると他の野生動物をけしかけて、火事場泥棒のように戦っている商隊の合間に奪い去っていくと言う話を男に伝える。


「まじか……」

「……まじか?」

「まじか?」

「本当か? って意味らしい。そういう意味で使っている場所もあるらしい」

「そうなんだ。まぁ、そんな訳だからここら辺のカラスは下手な盗賊や山賊よりも厄介だって事だよ。まぁ、自分から餌を与えたり、恩を売ったりすると稀に物々交換で何か渡したり、道案内して助けてくれる時もあるって言ってたからそこまで悪い存在でもないんだよ?」

「うぅん、なんというか……。あ。名前聞いてないな」


 説明をしてからようやく男は名前を聞いてない事に気が付く。男も自分の名前を名乗っていなかった事を思い出したのか、軽く咳払いして名乗った。


「ん゛っ。すまない。助けてもらった上に説明までしてもらったのに名乗るのを忘れてたな。俺の事はカミキリとでも呼んでくれ」

「カミキリ? 変な名前。私の名前はルリリ」


 男カミキリが名乗る。ルリリはストレートに感想を言ってから名乗るとカミキリは苦笑した。


「変な名前で悪かったな。それとルリリか。いい名前だな」

「でしょ。お姉ちゃんがつけてくれたんだ」


 カミキリがルリリの名前をほめるとルリリは嬉しくなったのか満面の笑みを浮かべる。カミキリは行っていなかった礼を言った。


「そうか。それと改めて。水をありがとうな」

「別に気にしないよ。目つきは少し怖いけど、悪い奴でもなさそうだし」

「この眼付きは生まれつきだ。悪かったな」

「あ。あはは……」


 ルリリは思っていたことを素直に言うと少し不機嫌そうにカミキリは言い返した。初対面の相手を不機嫌にさせたことでルリリはさすがに少し気まずくなる。


 今度はカミキリの方から話しかけた。


「なんで助けてくれたんだ?」

「私が普段行き来する道で野垂れ死にされるとか後味悪いでしょ」

「それだけか?」

「うん。別に今の生活に困ってることはないしね」

「そうか。それなら水をくれた礼だ」


 カミキリはそう言うと懐から財布を取り出す。その財布をそのままルリリに投げ渡す。


「え。いらない。近くの水汲み場から取ってきた水を少しあげただけなのに貰っても困るし、お金はあんまり使い道がねぇ。商隊の人は来るけど、滅多に来ないし」


 ルリリはそう言うと重さを感じられる財布をそのままカミキリに投げ返した。カミキリは落とさない様にキャッチするが、どうすればいいのか分からないと言った様子で聞き返す。


「そうか? だが、そうなると助けられただけになってしまう。それは俺が許さない。何かないか? して欲しい事とか?」


 カミキリの言葉にルリリは困惑する。このままお金を貰うのは何か違う気がすると彼女の心の中では答えが出ているため受け取る気はない。話が平行線になりそうな予感がして別の案を考える。


「変な奴だね。ん~…………それだったら水の運搬と私の狩りを3日だけ手伝って。その代わりにお姉ちゃんのご飯と寝床を用意した挙げるわ」


 たっぷりと考えて短い期間の手伝いをお願いすることを思いつくと考えていたことをルリリはそのまま口にする。


「いいのか?」


 さすがにそれは申し訳ないと思ったのかカミキリは少し遠慮気味にたずねる。


「ええ。お姉ちゃんには許可取ってないけどそこは私が説得することだから任せなさい!」

「分かった。しばらく世話になる」

「うん。お願いね」


 自信満々にルリリは言うと手を差し出した。差し出された手をカミキリは掴んだ。カミキリはルリリに引っ張られて立ち上がった。


「じゃあ、いきなりで悪いんだけど、まずは今日の収穫物と水を運ぶのを手伝ってね」

「ああ。分かった。どこにあるんだ?」

「あっちに隠して置いてるの。着いて来て」


 ルリリはカミキリを連れて荷物を置いている場所に向かって行くのであった。

 

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