前編
収まらなかったので前後編。
※前前回までのあらすじ*
私こと月島灯里(27)は田舎のカウンターレディのバイトをして、一人暮らしの補填をしてました〜。そこへ何処ぞの893の会長さんが飛び込みで来店。何故か気に入られて足繁く通われた挙句、美形の孫、安藤秀嗣まで虜にしてしまう。
しかし、それは彼らが飼っていたパグ似だ・か・ら、というチョー残念な理由な上、遂に灯里は勤め先のママから見限られてしまう。
(詳しくは『月島灯里の降って湧いた災難』をお読み下さい)
※前回までのあらすじ*
私こと月島灯里はお偉いヤクザの会長秘書になるか、ヤクザのフロント企業の社長愛人になるかの二択を迫られ、拉致監禁を避けてみた処、【西日本パグを愛でるジジイの会】のジジイ友達に曝される羽目に。そこで運命的な出会いを果たした(あくまでも主観)タレ目美形のダチ孫・宗馬寛司に口説かれまくり、颯爽と現れた秀嗣にピンチを救われた?
(詳しくは『月島灯里の七転び八起きな受難』をお読み下さい)
☆☆☆☆☆☆☆☆
「───────って、粗筋がチョー長げぇんだよ!」
ベンペン、と私こと月島灯里はピンクのベビードール姿でお洒落インテリア雑誌を蹴り飛ばした。
キングサイズの天蓋付きベッドの上からだ。
食われたよ!ああ、もぐもぐまぐまぐゴリゴリ貪り食われたさっ‼︎寧ろそれ以外の結果が前回のあらすじ☆から導かれる様なら葉室作品はとっくに書籍化だよ!
そりゃあ、ねちっこく!つむじから足の小指に至るまで‼︎ネットリとしゃぶり倒されたわ!
横隔膜が疲れでつったのは初めてだったわ!
ワンフロアぶち抜きした豪華な部屋の中で、連れ込まれたベッドの上でやっとの事で婚約者という存在で手打ちした安藤秀嗣(30)に手付とばかり力の限りモグられ、今朝方朝立ちさえも突っ込まれた私は、逆に疲れも見せず出勤して行った、見た事も無い程艶々とした爽やかなイケメンに変幻した秀嗣に精も魂も吸い尽くされて抜け殻と化していた…。
それで、起きたらコレだ。
枕元にあった分厚いお洒落インテリア雑誌には、
【新居用に好きな家具に付箋をつけておけ】
と、直にマジックで書いてあった。
そして、天蓋の柱にラビットファーの手錠と鎖で繋がれていたのだ!
そいで、ピンクのベビードールとかいつ着せた!
脱げねぇ!てか、何で室内を二匹の猫がキビキビとパトロールしてんの⁉︎
〜回想其の①〜
秀嗣さんに嫌がらせでねだった血統書付きの猫達が行儀良くお座りをしていた…。
『ナスターシャ』
良い声の呼び掛けに、ロシアンブルーが『ニャー!(ヤー‼︎)』とばかりに返事を返す。
『アンジェラ』
次に隣のアメショが『ニャー!(イエッサー!)』と同じ様に鳴く。
何故に、二匹とも雌。
「今から俺は仕事に行くが、灯里を一人きりにするのは忍びない。
そこで、お前達の出番だ。役目は分かっているな?」
「「ニャー」」
何故、猫さん達の背筋が(`・ω・´)シャキーンと伸びている⁉︎
しかも既に秀嗣さんの調教が済んでしまっている!
ち、違うんだ。私が飼いたかったのはこういうんじゃない…もっと、自由でフワフワした奴等を力の限りもふり、猫吸いして嫌がられ、肉球スタンプをデコに押されたり。物陰から驚かしてギョッとした猫顔を見たかったりしたかっただけなんだッ‼︎
「ん?フワフワをもふりたいの?」
え?
ダンゴムシ的に丸くなって、ロココな絨毯を毟っていた私は、凄い近くから聞こえた柔らかいバリトンボイスに振り返った。
「だ・誰っ⁉︎」
「爺ちゃんから派遣されてきた。子飼い【猟犬】の麻生尊。御大から頼まれたのは救出だけだけど、飼い主は女がいいなぁって言ったら、俺がお嬢を気に入ったら『犬』になっていいって言われた」
尊と名乗る青年は歳の頃なら二十代中盤。髪の毛は明るく染められ襟足は刈り込まれているがトップはふんわりとしていて、まるでどこぞの人気アーティストの様だった。
キョトンとしたあどけない美貌も細マッチョな身体も灯里好みで。良い筋肉をしているなぁ、と状況を忘れて見惚れてしまう。素人さんなら『ダンスか何か嗜んでいらっしゃいますか?』と食い気味に尋ねている処だ。
だが、騙されてはいけない。コレも所詮はヤの付く稼業の人なのだ。(しくしく)
「そうですか。隆浩さんが…(この展開読んでたのか)それはそれはお役目ご苦労様ですって…待ちなさい。今、アナタ聞き捨てならない事を言いましたね?」
「尊」
「…タケルさん…救出は有難いんですけど、『イヌになって良い』ってどういう、」
「ゴメン。あんまり話している時間無いんだよね。そろそろ黙らせたセキュリティに若が気付く頃だから。
今回は厳重にしまい込まれる前だったから何とかなったんだけど、逃げるなら早い方がいい」
鎖に繋がれた方のもふ手錠をクイ、と引っ張ると、尊君は素早くヘアピンみたいな物を突っ込み、カシャンと音を立てて外してくれた。
「──────それともここで若に鞭とかで花瓶とかでぶたれて血達磨になるまで折檻される『犬』の痴態を眺めていたい?」
「イヤです‼︎」
気怠げにそういうボルゾイ系美青年に力の限り否定すると、クスクスと面白可笑しい感じに笑いを漏らしている。
「いいね、うん。小百合やみっこに似てる、っていうの分かる。あ、気を悪くしないでお嬢。鼻ぺちゃ具合じゃないって。雰囲気よ、ふんいき」
パグ似の雰囲気てどんなんじゃよ。
灯里はスネ気味に視線を逸らした。
逸らした先に二匹の猫がビシィとハーネスを体に装着されてプルプルと震えながら後退っている。(猫はあーゆーモノをいきなり着けられると固まったり、後退ったりであまり前には進まないヤツが多い)
「とにかく出ようか。取り敢えず安全な隠れ家に移動しよう。ホテルは直ぐにバレるから、俺の手持ちの一つになるけど、いいね?」
「あ、ハイ」
「そしたら力の限りモフっていいよ?」
5秒。
「──────はァ?」
コテン、手前で傾げた小首がまるでヤンキーが威嚇する角度で止まった。
尊はニコニコ笑顔を見せて、さっさとベビードールの上から甘系のワンピを被せて玄関まで手を引いた。
「モフりたいんでしょ?」
「動物をな!」
「人も動物だよ?」
「…人は、いい‼︎」
「差別はダメだよ?お嬢。俺は可愛いでしょ?お肌もぴちぴちだし、いい匂いもするよ?」
「うおぉい嗅がせるなァ!」
聞き分けのない子供を諭すようにボルゾイの癖に大型犬はしゃがんで目線を合わせながらこちらの手を取って首を傾げる。
「お嬢、真っ赤だァ可愛い。あはは、本気で色々されたくなってきちゃった!」
尊青年は満面の笑みでそう言い放ち、ピンクベビードール姿の私をこれまたベビーピンクのコートで素早く包むと、あっという間に鳴り響くサイレンを後ろに颯爽と脱出させてくれた。
そいでだ。
隠れ家とやらの可愛らしい別荘地に御招待されている私。
身体が沈む程柔らかなソファに座らされているんですがね?
コートから可愛らしいワンピにお着替えもさせて戴いてるんですがね?
何で尊君はソファに座らず、ラグの上に直に座って私の両脚を抱き込んでいるんですがね─────⁉︎
「撫でないの?」
不思議そうに言うなや美青年の自称『イヌ』。
ハイハイ、モフればいいのね?モフれば!くそう、フラストレーションの限界じゃ。
イケメン無罪と思っていやがるだろう‼︎馬鹿め、私が一度割り切ったらオメーは唯の【犬】なんだよ!
オラオラオラかかって来い!灯里さんが本気で遊んでヤラァ‼︎
僅かに驚く尊青年を丸無視して、キレた私はまずしゃがんで目線を合わせると、おデコと鼻先を合わせて彼の後頭部をソフトに撫で撫で。
首をぎゅっと抱いて、背中を摩ってやったところで一気に緊張していた彼の身体の力が脱力したのを感じ取った。
「あ、ああっ、お嬢お嬢…気持ち、イイ。俺、俺イッちゃいそう…」
あ、ヤバい。違う世界のトビラ開いた。
「触って、もっと。ああん、やめないでイケズぅ。ねぇ身体中どこでも…いいから、ね?もっとご褒美頂戴?アナタの好きに、して?」
Mの開発?犬の調教?どん引いてゆっくり離れて後退る私の手を、尊青年は事もあろうに猛った己のパンツのジッパーを下ろして突っ込んだ!
「いやぁ!ハリがある棒に対してのその行為はお月様でしか許可されねぇーってえ!」
「はあはあ、お嬢…ねぇ隅々まで可愛がって。その後なら、俺、後で若に血ィ全部抜かれて殺されてもいいや。なんなら、対抗勢力のオンナんとこ、枕(営業)させられてもいい。お嬢の指先思い出して勃たせて突っ込んで相手、骨抜きにしてくるから。何なら二・三百万アナタの為に巻き上げてくるから」
「いやそこ!私のナニかを全力で削る様な物騒な事、そんな恍惚の表情で語らない!そしてナニを握らせないで!やめてえ、ナニやら一部鋼の剣の如く硬くせり上がった股間を円を描くように撫で回させないでェ!」
「え?脱いだ方がいい?直で触れる?あ、お尻も自信あるけど揉む?」
「だ・れ・がそんなことを言ったか⁉︎そんな立派なガッチガチで艶々なモノはブーメランなブリーフの中にしっかりと鍵を掛けてしまっとけ!」
半泣きで手を取り戻すと、洗面所に飛び込んで秒速でハンドソープを猛プッシュ!そしてバッグを持って飛び出した‼︎…途端、
「見つけたわ─────アンタが月島灯里ね⁉︎」
ナニやら若い衆を従えた長身の明らかにカタギでは無いお姉さんに指を突き付けられた。
「─────いえ、私は磯野ワカメですが?」
「え?今、6時台?…アンタいい加減にしなさいよ⁉︎どこの世界にそんな世界一有名な有り得ない偽名を名乗るオンナがいるのよう!」
ここに。
怒れる姐さんを前に厄介事の匂いしかしなかった私は、咄嗟に磯野家のファミリーに成りすまして避けようとしたのだが、果たせなかった様だ。どうしよう?
「…アンタが秀嗣さんに付きまとっている五月蝿いハエだっていうのは分かってんのよ?
家族ごと海に沈められたく無かったらちょっと付き合いなさいな」
「え?うちの家族?どうなってんの尊く〜ん⁉︎」
私の叫びと共に姐さんの後ろの若い衆が更にその後ろから金属バットで一気に薙ぎ倒された。
「あーっはっははッ‼︎ナイナイ。お嬢の身内は若か爺さんが常に重い警護を置いてるしィ。じゃなきゃカタギ巻き込む訳ゃねーだろ?攫える筈無いよなあ?お嬢引っ張り出す為にハッタリカマしてんだよ、このスベタが」
怒れるイヌは笑顔で血飛沫を浴びていた。チョー狂犬。めさコワイ。誰かあの人に予防接種を!いえ、充分間に合ってない。何アレ笑いながら人を地に沈めてるわ…。
「ぎゃああああ!」
あ、遂に姐さんに拳を振るった。酷え!躊躇いもなく殴り倒したよ。立場とか性別とかお構いなしかよ⁉︎コワイコワイ!今、歯が飛ばなかった?一瞬も迷わず顔を殴った!ヤの人怖ァッ‼︎
「お嬢、大丈夫?何もされ…」
逸早くポストの物陰に隠れて、それでも逃げ切れずに垣間見ている私を見て、尊君が固まってる。
あ、いや反射で起き上がってきた男の一人をバットで殴った。私はポスト越しにそこから半分顔を出してぷるぷるしている。
「やべえ…本気でカワイイ…」
ナニをどうしたのか、恍惚の表情を浮かべる狂犬はナニか、更に違う扉が開いた気がした…。
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短編だったのに_:(´ཀ`」 ∠):