3日目 喪失 後編
最終回が見えてきた
暫く俺は鑑賞室にいた。
永川の計らいで感情を取り戻すためにテレビを見ている。
この時間は昔の歴史ドラマの再放送をやっていた。
昼食の時間にはほとんど感情を取り戻していた。
「いやぁ、急な停電で改修工事も今日は取りやめになってな。」
「怪我してたのに作業してたのか?」
「俺がやってたのはコンクリ入れるくらいさ。」
「そうか。」
「停電のことだが、看守の話じゃ、配線が一つ焼き切れてたんだってよ。」
「ここはまだ建てられたばかりじゃないのか?」
「いや、元々は生物研究所と動物病院の複合施設だったんだよ。それが人権喪失者管理センターになったって訳だ。」
「へぇ。」
「ごちそうさん。それじゃ、雨竜も午後からがんばれよ!」
そう言うと芥は、書庫の方へ向かった。
俺も行くべきなのだろうか?
偶然会った体を装えば行けるだろう。
しかし、一応永川に何をするかは聞いておいた方がいいだろう。
俺は食事を終え、看守室へ向かった。
看守室には永川はおらず、別の看守がいた。
「ああ、高鷺雨竜さん…だっけ?」
「そうだが…永川はいないのか?」
「機械に強い奴らはみんな呼ばれたんだ。ああ、あんたに言伝があったよ。」
「なんだ?」
「『今日はゆっくりしてください』だってさ。」
「ああ。そうさせてもらう。」
俺は書庫に着いた。中には芥はいないように見えた。
しかし、奥の方から芥と誰かの声が聞こえた。
奥へ行くと受付で芥が本の場所を聞いているようだった。
書庫はL字型になっていて、俺が少女と話したところからでは受付は見えない。
「芥、いたのか。」
俺が声をかけると、芥は驚いたようで、
「雨竜。仕事はないのか?」と聞いてきた。
「こっちもないらしい。何を探しているんだ?」
「この地域の土地の本だ。百年前くらいからあるといいんだがな。」
「それを知らないと工事にも支障が出るのか?」
「いや、問題は無いだろう。だけど俺はこういうのが気になっちまうタイプでな。」
そう言うと、受付の人が芥に話しかけた。
「ここには無いようですね。申し訳ありません。」
「そうか…いや、いいや。ありがとな。」
そう言って芥は歴史書のコーナーへ行った。
俺はあまり本を読むタイプでは無いので、とりあえず歴史書の隣のスポーツ雑誌の方へ向かった。
俺が本を探していると、棚に違和感を感じた。
他の棚よりも枠が少し細い…?
棚は木製で、前後に本が入るようになっていて、こちら側がスポーツ系、向こう側が歴史系となっている。
適当に雑誌を取ると、向こう側が見えた。
この棚の本が他より少ないのか。
俺は受付へ戻り、受付の人に話しかけた。
「この本は独房で読んでもいいのか?」
「申し訳ありませんが、原則貸出は禁止なので持ち出すことはできません。」
「ああ。わかった。ありがとな。」
ということは、芥が借りてその部分がないという訳ではなく、最初からないのだ。
棚に戻ろうとすると、芥がこちらを見て少しうなづいた気がした。
俺の予測が当たっているということだろうか?
芥が近づいてきた。
「今日も風呂頼むわ。というか、治るまで許可は貰っといた。」
「ああ、そうだな。任せろ。」
そう言って芥は去る。
風呂で俺たちはまた秘密の会合を始めた。
「お前も気づいたかもしれないが、あの棚の下に入口が隠してあるようだ。」
「だが、あそこは受付から直接見えるところだ。どうする?」
「あいつらも一応看守扱いなんだ。だから俺が脱獄すれば、恐らく居なくなるはずだ。その隙を狙って奪い取れ。」
「…やるのか。」
「計画を手短に話す。俺がもう1度停電を起こす。」
「もう1度?お前が今日のやつをやってくれたのか?」
「いや、あれは俺が直接やった訳じゃない。最初の受刑者がやってたんだよ。いつかのためにな。」
「…ちなみにそいつは今どうしてるんだ?」
「…死んだよ、人体実験で。」
「…そうか…」
「だからこそ、俺はあの人の意思を継ぐ。」
「…」
「それで、続きだ。お前は停電したら書庫へ向かってくれ。急ぐ必要は無い。」
「…」
「次に内線で俺が脱獄したと連絡が入れば、中から看守は出てくるはずだ。そしたらお前は書庫に入り、不正の証拠を盗み出せ。」
「…」
「盗み出せたら研究区画へ行って、カメラの前にそれを提示するんだ。」
「…」
「やってくれるな?」
「……ああ。」
芥はそれ以上何も言わずに風呂を出ていった。
その背中には、覚悟が表れていた。
遂に、明日。
全てが終わる。
成功すれば、あんなただ人が無駄に殺されることは二度となくなるだろう。
失敗すれば、俺も死に、あの実験が繰り返され、俺のように罪もない人間が人権を失う。
俺は…
どこかで見たことがある終わりだけど、その時と今の心情の違いが表れてたらいいなと思います