2日目 出会い 後編
男二人の風呂シーン
風呂は大浴場となっていて、普段は時間をずらして入ることになっている。
「背中流すぞ。」
「おう。ありがとな。」
芥が少し小さめの声で話しかけてきた。
「実はこれはわざとつけたんだ。」
「…そうか。そこまでして話したいことがあるんだな?」
「その通り。一つ目。昨日話せなかったことがあるだろ?」
「ああ。」
「その事なんだが…落ち着いて聞けよ?」
「余程の事じゃないなら。」
「お前が来る前、世界初の人権停止処分者がここにいた。そいつと話していたことなんだが…」
芥はより声を低くして、続けた。
「国がわざと罪もない奴らを捕まえて被験体に選んでるんじゃないかってな。」
「なっ…じゃあ俺のあの事件も…?」
「お前の話を聞いて、確信を持った。警察があまりにも速すぎるし、何よりなぜ窓から出るとわかっていたかのように囲んでいた?」
「それは…確かにそうだ。」
本来なら消防が先に入口から入るはずだ。
「二つ目は、いや、一つ目と繋がっているんだが、国と医療機関が繋がっていて、人体実験の素材を国が提供する見返りに、医療機関が莫大な献金をしているらしい。」
「本当か?」
「改修工事中にそんな話が聞けた。」
「だが、人権を棄てる奴らもいるだろ?そいつらじゃ足りないのか?」
芥は少し驚いたようで、少し黙るとこう返した。
「これは俺の憶測だが…そういう奴らは被験体に向いていないんじゃないのか?」
「つまり?」
「自殺志願者と同じで、鬱みたいになってるんだろ?薬品の研究には不健康すぎるってことは考えられねぇか?」
「確かに…」
「そして、最後。」
緊張が走る。それと同時に嫌な予感もする。
「俺たちでここの不正を公開するんだ。」
「…は?」
作戦内容をまとめると、
明後日、研究所の方へテレビの生放送がある。
そのため、俺たちは研究区画へ行くことはできない。
しかし、芥が脱獄をすることで、看守をそちらへ向かわせ、その間に俺が不正の証拠を世間に向けて公開する。と言ったものだ。
「…二つ問題がある。」
「なんだ?」
「一つ、不正の証拠はどこだ。二つ、俺たち犯罪者が伝えて信じてもらえるのか。」
「前者については、明日探す。見つからなかったらこの計画は無かったことになる。後者は…ほとんど賭けだな。」
「はぁ。不正の証拠はどこにあるか目星は付いてるんだろうな。」
「書庫だ。」
「書庫?あんな所にあるのか?」
「地下に空洞がある。プロじゃなきゃ気づかないだろうがな。」
「逆に言えば、そこまで隠しているものがある…と?」
「その通り。物分りが良くて助かるぜ。」
「その入口を探すのは芥の役割ってことか?」
「ああ。お前にはわからないだろうしな。そろそろ上がるか。流石に怪しまれる。」
「じゃ、明日も頑張れよ。」
「芥もな。」
鑑賞室前に着き、芥は去っていった。
俺は看守室へ向かった。
ノックし入ると、中には永川しか居なかった。
「ああ、高鷺さん。どうかしましたか?」
「…聞きたいことがある。」
「なんでしょう?」
「人権を自分から棄ててる奴がいた。」
「…会ってしまったのですね…」
「あれは…許されることなのか…?」
「…あなた方には本当に申し訳ないと思います。人権を棄てるのもまた、人権だと言う考えに基づいているので…」
「そうじゃない。人権を棄てたいと簡単に思ってしまっていいのか?」
永川は少し笑って返した。
「ああ、その点はご心配なく。カウンセリングを何回か行い、それでも人権を停止することを望むのなら、申請を受け入れているのです。」
「…そうか。もしかしたら、余計なことをしてしまったかもな…」
「気にすることはありませんよ。あなたには関係がない事なのですから。」
「そうだな…すまなかった。」
俺は看守室を出ようとした。
「あ、ちょっと待ってください。」
「ん?なんだ?」
「明後日、研究区画へ生放送の番組の方々が来るので、研究区画へ行かないようにしてください。」
「ああ、そうなのか。わかった。」
俺は独房へ戻った。
あの計画を実行すれば、芥は死ぬだろう。
俺も、もしかしたら、死ぬかもしれない。
でも、芥が命を懸けて俺の冤罪を晴らして、ここの不正を暴こうとしている。
俺は…
変な終わり方だなこれ