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罪状:人権停止処分  作者: あいますく
1/9

1日目 人権停止

ちょっと鬱かも

「判決を言い渡す。」

俺の前の小太りの裁判長が一呼吸ついて、口を開く。

頼む。俺は何も…

「主文、被告人を有罪とする。」

「なっ…!ふざけるな!俺は何もやってない!」

「静粛に!」

…クソッ…どうして…

「罪状…被告人を二年間の人権停止処分とする。」

「そん…な…」

「昨日、3人目の人権停止処分者が出ました。」

「我が国では死刑判決が出た後も死刑がなかなか実行されないと言った問題があったため、今年度から死刑を廃止し、人権を一時的に停止する刑である人権停止処分が作られました。これは死刑を行わずに死刑に等しい効果が得られると専門家が…」

俺は呆然と鑑賞室のテレビを見ていた…いや、眺めていたと言った方が正しいだろうか。テレビからは光と音が出てくるが、俺には一つも理解ができなかった。


俺が、人権停止?


「おう!お前が新入りか?人権がなくなった気分はどうだ?」

「ッ!誰だ!」

俺が振り向くと、そこにはガタイのいいスキンヘッドの男がいた。

目には眼帯、顔の左側には縫った痕、右肩には刺青が入った、まさに悪役と言った姿だ。

「そんなに睨まなくていい。俺は極道寺芥、芥と呼んでくれ。俺はあと二年と半年人権停止だ。つまりはお前と同じさ。」

「俺はやってねぇ!冤罪だ!同じにするな!」

芥、と名乗ったその男は頭をボリボリ掻くと、言った。

「あー、やっぱり俺と同じだよ。」

「何がだよ!まさかお前も冤罪だなんて言うのか?」

「その通りだ。俺の前に入ったやつも冤罪だって言い続けてたよ。」

「えっ…」

信じられない、こんな悪人顔が…?

「おう。俺を人相悪いからって勝手に決めつけんなよ。こう見えてガラスのハートだぜ?」

「お、おう…」

「まあ、なんだ。とりあえず俺が案内してやんよ。」


「ところで、お前名前はなんて言うんだ?」

「高鷺雨竜。二年間の人権停止。」

「俺より後に入って俺より短いのか。何をやらかしたんだ?」

「だから俺はやってねぇって…いや、まあいい。」


「あの時、俺は…」


俺は総合格闘技をやっていた。

アマチュアながらそこそこな腕前の格闘家として地方のテレビ番組にも取り上げられたほどだった。

ある日、ジムへ行ったら、コーチが、仲間が、みんな殴り殺されていた。俺はその日たまたま携帯が壊れていて持っていなかったから狼狽えることしかできなかった。


「今思えば、あの時、あいつらの携帯で緊急通報すれば良かったのにな…」

「まさかそれで終わりか?」

「まさか。まだ続くさ。」


その後、ぶっきらぼうに捨てられた俺のグローブがあった。それは血にまみれていて、明らかに凶器だとわかった。

気が動転した俺は、急いで近くの交番へ行こうとした。すると、急に火災報知器が鳴って、入口が火に飲まれた。何とか窓から脱出したと思って、裏道を出たら警察に囲まれていて…


「…なるほどなぁ。」

「警察は犯行は俺にしか出来ないって決めつけて、弁護士もまともに話を聞いちゃくれなかった。」

「…そうか。」

「俺はどうすりゃいい?こんな所で二年間も…」

俺が俯くと、芥は呟いた。

「…これはもしかしたら、やはり、そういう事なのか…?」

「何の事だ?」

「あー、ここじゃ言い難いな。すまない。忘れてくれ。」

「なんだよ…」


「っと、これで一通り回れたかな。」

俺たちはまた、鑑賞室に戻ってきた。さっきのテレビは切られていた。

「ありがとう。だいたい何がどこにあるかはわかった。」

「最後は独房だ。ここには看守が連れていくことになってるから、待ってな。」

「…ああ。」

芥は去っていった。

鑑賞室をよく見ると、置き手紙のようなものがあった。


 芥

  俺が新入りを案内する。

  終わったら呼びに行く。


「なんだよあいつ。」

案内する必要なんて無かったんじゃないか。

もしかしてあいつなりに心配してたのかな。


ここに来て思ったことがいくつかある。

まず、意外と自由が約束されている事だ。

やはり、一時的なものだからだろうか。


契約書を読んだ限りでは、

テレビも時間帯は決まっているが見ていい。蔵書も読んでいい。手紙を書くのは禁止だが、日記なら付けてもいい。食事は朝昼晩きちんとあり、それぞれ三種類から選べる。労働時間も八時間で、休憩もある。

と、至って普通の待遇だ。


その代わり、医療のための人体実験に体を提供しなければならず、それによって死亡しても実験者に責任は無く、脱獄なんてしようものなら殺害が許可されている。


言わば、人間のための道具、だろうか。

道具の手入れはするが、使って壊れたら仕方ないと言った扱われ方だ。


さらに、俺にとっての一番の問題は…


「あー、タカサギ?高鷺雨竜さーん。」

振り向くとスーツにメガネのもやしみたいな男が立っていた。

「なんだ?」

「えっとー、こんな見た目じゃなかなか信じてくれないかもしれないけど、私が看守の永川です。以後お見知りおきを。」

「えっ。」

「看守服は刑務官じゃないと着れなくてねー。我々は一応人ではないものを扱っているって名目だから、サラリーマンみたいなものなんですよ。」

「はぁ。」

「じゃあ独房へ案内しますねー。」


拍子抜けだな。てっきり芥くらいある大男が出てくるのかと思っていたが…

この程度だったら、簡単に抜け出すことは出来るかもしれないが…あの芥でさえ脱獄しないんだ。何かあるに違いない。


「ここが高鷺雨竜の独房です。あ、あと、独房の場所は他の受刑者に話してはならないというルールなので守って下さいね。」

「守らなかったら?」

「話した側と聞いた側に銃殺命令がでます。」

そう言うと永川は腰から拳銃を取り出した。

「ハハハ。今は撃ちませんよ?看守は全員拳銃を装備しているので迂闊なことはしないようお願いしますねー。」

「はいはい…」

と、俺が独房に入ろうとするが、永川は呼び止める。

「ああ!ちょっと待ってください!早速ですが、お仕事です。」

「仕事?実験か?」

「いえ、フツーのお仕事です。」


「……」

俺は永川に連れられ、屋上へと来た。

そこにあったのは、畑、であった。

「ということで、高鷺さんには農作業をやって頂きます。」

「はぁ?」

「まあ、種は植えてありますし、適度な水やりすればいいだけですけどね。後は雑草を抜いたり?」

「なるほど…?」

「終わったら自由時間なのでゆっくりしてていいですよー。」

そう言って永川は去っていった。


自由過ぎないか…ここ…?

作者は若干躁

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