第一章 『喩えば、図書室の君と、僕の話』1-2
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『憂くーん!あっそびーまーしょー!』
誰だ?誰なんだ?
『ねえねえ、ぼーっとしてるけど大丈夫?』
あ、そうか。僕は夢を見ているのか?
「ああ、すまん。二次元の女の子とどうやったらイチャイチャ出来るのか熟考していた所だ。で?何の話をしていたんだ?」
そっと差し出された手を握り立ち上がると、僕は笑みを浮かべてソイツに言う。なんだろう、顔にノイズが走っているのか良くソイツの顔を確認出来ない。
『もう!ホントに憂くんは忘れ屋さんだねー。折角あの子の誕生日を祝おうとしていたのに。』
「遊びましょう、と言っていた口は何処へ行った?
遊ぶか、誕生日を祝う事に関して考えるのか。どっちかにした方がいいぞ?」
『小さい事は気にしなくていいのー!小さい事ばっかり気にしてると、また【憂鬱】君と呼ぶよ?』
「その呼び方はやめろ!? それに僕はそんなに暗い人間じゃないんだからな。心優しい人間だ。」
胸を張るように自分を過大評価するのは決して悪い物でもない。そんな様子を見てか、ソイツは
『リア充を見てすぐに毒を吐くような最低な人が、心優しいんだ…。』
思いっきり汚物を見られるかのようにジト目で見詰められた。
「仕方ないだろ、僕にはそんなの抱いたことないんだから。それより、そろそろ帰らないと親に怒られそうだ。」
ふと腕時計を確認するともう、もう陽は沈んだ綺麗な夜空が空にある。
『じゃあこの話の続きは、また明日!!絶対だよ!【憂鬱】君!』
無邪気に手を振りながら走り去っていく、ソイツを確認しながら僕もソイツに向かって叫ぶ。
「マジでその呼び方はやめろ!?
まぁ分かった!またな、〇〇〇!」
あれ?どうして僕は走り去っていくソイツが、無邪気さを見られたんだ?顔にノイズが走っているから、良く分からないのに。
それに〇〇〇って、誰なんだ?
考えるだけで頭が痛く…。
ああ、そうか。僕は、僕は君を…。
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「ふがっ!?」
おでこに大きな衝撃を感じた。
「……!?」
咄嗟に目が覚めた。どうやら、僕は寝ていて先のは夢のようだった。
なるほど、今はお昼の12:00過ぎか。
どうやら僕は授業中に熟睡していたらしい。
それにしても、さっきの夢は何だったんだろうか。どこか懐かしいような、哀しくなりそうな。自分が夢を見たっていうのに、あまり覚えていない。
ふと窓へ視線を向けると、綺麗な青空が広がっていた。
「…全く、こんな綺麗な青空なのに、虹の1つもないのかよ。
仕方ねえ、今日の昼は屋上で頂くとしよう。」
こうやって、友達の一人もいない生活には慣れて来ている。
僕は弁当箱を片手に、教室を後にする。
教室から出ると、廊下は何処かのパーティー会場なのかと思えるぐらい賑やかだった。いつもこんな感じだから気にはしていないが。
「ここだな」と短い嘆息を吐くと扉に手を掛けた瞬間。
バンッ!!と扉が強く開け放たれ、ドアノブが僕のお腹にクリティカルヒットをした。
「………くそ…いてぇじゃねえか……。だ、誰だよ…人様がゆっくりと飯を頂くって時に…うぐぅ…。」
お腹を抱え身を蹲りながら,出て行った人間を睨んだ。
背を向けたまま走り去って行きやがった。僕に気付かなかったのか?世界にはコン畜生な人間もいるもんだな。と苛立ちを込めながら立ち上がった。
そんな苛立ちも束の間。
飯を頂く時に、とても気持良かったのである。
「良い風だ、心身ともに落ち着くぜ。お前もそう思うだろ?マイハニー」
ドヤ顔で言ってやった。僕のスマホに映る美少女に向かって。
もしこれが悲しい人間だと思えるのなら、それは不可抗力だ。友達が居ないなら、どんな事を、誰に、何を話す?
または暇潰しをする?
そんなの、スマホを持っているのなら一つしかないだろう!
全開で眼の前の女の子と話すまで!!
これぞロマン!
「ああ、これは誰も理解されないものさ。僕だけの特技なんだから。今を生きるのなら、それはどんな事だって価値はある。」
外の景色を眺めながら黙々と弁当箱を平らげていく。
屋上の下、沢山の人間共が、鬼ごっこをしたり、スポーツをしていたり、座りながら楽しそうに雑談をしている。所々には弁当を食べる人達もいる。
僕は穏やかな笑みを浮かべながら「世の中は平和なのかも知れないな」と自分でも驚くぐらい素直な感想を述べられた。
そう、平和なのかも知れない。そう思えたのは、放課後に僕が担任によって図書室の掃除を任せられるまでは。の話だ。
平和から地獄へ。平和から破天荒な嵐へ。平和から、絶望まで。
今、屋上で飯を食べてた時の僕には、まだこれを知る由もなかったんだ。