第9話 派手なヤロウとファーストキス
あ〜あ。逃げられた。
どうしよう。こんな広い部屋に一人で居るのは落ち着かないし、だからと言ってわざわざ呼べるような知り合いもまだ居ない。
白兎はさっき逃げたから、今呼びに行くのもなぁ…って感じだ。うん。
よし。じゃあ荷物検査してみよう。暇つぶしに。
私は、持っていた鞄を逆さまにしてバサバサと無造作に振ってみる。
まず落ちてきたのは、私のスケッチブック。
あ、あんまり言ってなかったけど、私は絵を描くのが好きだからね。だから私はいつも何かしら紙と筆記用具を持ってんの。
次に落ちてきたのは、私の筆箱。
滅茶苦茶パンパンに膨らんでる。一杯入ってるし。
友達には、「そんな大きくてしかもパンパンって何がそんなに入ってるの?」とよく聞かれるけど、文房具やペンがほんの少し多めに入っているだけだ。
う〜んと…、ハンカチとティッシュと…バンソーコーと…。あ、お財布もあるな。
そんな風に私がゴソゴソと鞄を引っ掻き回していると、ボトボトと何かが落ちた。
ん?あ。
姉から貰った、猫耳カチューシャと電気スタンガンだ。
猫耳はいいとして、電気スタンガンの使い方は一応知っておこうっと。
ここ不思議の国だし、かなりのキチガイがいるかもしれない。不本意ながらも使う日は来るかもしれない。来ないことを願うけど。
えっと…、このボタンを押すのかなぁ。
私は、丁度すっぽりと自分の手に収まる黒い機械の真中らへんのボタンを押す。
ぽちっとな。と。
ッバチバチッ!!
凄い音!!持ってる私までビックリだ。ふいー。
何か目に見える雷…っていうかスパーク?が凄い。
そういえばどっかの本に書いてあったぞ。大抵の場合、犯罪者、もしくは未遂の犯人に、護身のためにスタンガンを使うとそのスパークだけで戦意喪失を図ることが出来るって。
あ、あと下らないトリビアを一つ。
漫画とかではよくスタンガンを使われた人間とかは気絶するけど、本当は痺れて動けなくなるんだって。数時間。最低でも一時間は行動不可。
ふふ。これもそうなのかな。
ちょっぴり使うのが楽しみだったりする。
さぁーて、じゃあ鞄の中に荷物戻すかぁ。
そう思って、私が鞄を手に取った時だった。
「やあ。君が今回のアリスかい?」
「――――!?」
いきなり聞こえた声に驚いて、私はぐるりと振り返る。
首をいきなり動かしたせいでゴキュッと変な音がした。痛くは無いけど嫌だなあ。
見ると、部屋の扉が開いていて、そこに人が寄り掛かっていた。
見た瞬間、目がチカチカした。
真っ赤な布地に、白い小さなハートの模様が入ったマントを羽織っていて、その下には、蛍光色の黄色、緑のボーダーの模様、さらにそれに赤のハート模様が入っている変な服を着た人が居た。
これならまだ私が姉から貰ったチェシャ猫簡単コスプレセットのほうが目に優しいんじゃないだろうか。それぐらい目に痛い。
頭には、金色に輝く王冠。
顔はカッコ良くて、金髪。二十歳くらいかな…。
とにかく、私は貰ったばっかりの超豪華でメルヘンなお部屋で、死ぬほど目に悪影響を及ぼしそうな変な格好の男性と出会ってしまった。――簡潔に説明するとそうなる。
「あのぅ…、失礼ですがどなた様でしょうか…。」
いやいや自分。失礼なのはいきなり部屋に入ってしかも目に悪そうな服を着ている相手だ。
・・・なんて私は言えないさ。あははは、はぁ。
「あれぇ?俺のこと、知らない?すっげえ有名なんだけど。」
アンタのことなんか知ったこっちゃ無い。だから聞いてるんじゃないか。
「いいえ。ご存知ありません。なにしろこちらに来たばかりなので。」
ウンザリとした表情なんておくびにも出さずに、私は可愛らしく首を傾けて言った。うへえ、我ながら似合ってないなぁ、この仕草。
「ふ〜ん…。残念だなぁ。アリスには知っていてもらいたかったのに。まぁいいか。今教えてあげる。」
ヤ ケに慣れ慣れしくチャラい口調で彼は言った。っていうか言動の一つ一つが自分勝手だぞコイツ。流石は不思議の国!!
「俺は、この国、不思議の国の王。――つまりはキングさ。」
HA?
私は、妙にチャラい彼の言葉に、目を丸くしたあと、胡散臭そうな顔をした、んだと思う。
「ふふ。そんな不機嫌そうな顔するなよ、アリス。」
はぁ。っていうか不思議の国の王様っていうと、アレですか。
不思議の国唯一の常識人で、影の薄いと評判なあの方でいらっしゃいますか。
いやいやでもデスネ、今現在私の目の前に居たりするのは、家の姉の妄想の産物、チェシャ猫簡単コスプレセットの猫耳と尻尾よりも派手派手なワケでありまして。
うあああああ。どうしよう。何かこの不思議の国ヤバいよ。いや、不思議の国って、大抵の場合はヤバいけどさ。
「それにしても、今度は結構年下のアリスなんだ。」
「へ?―――それってどういう…、」
王様――、キングの言葉に私は質問を返す。
けど、その声は途中で途絶えた。
キングがツカツカと部屋を横断し、私の目の前に立ち――――、私の頬に手を添えたから。
他人とのスキンシップに慣れていない私は、多分真っ赤になってしまったのだと思う。
キングがクスリと笑ったから。
っていうか日本はそういう国じゃねえんだよオオオオッ!!
外国とはスキンシップの感覚が違うっての!JAPAN最高!!
…じゃなくて。
「な、何してるんですか…!?」
王様、だから払いのけるのも気が引ける。まぁ派手派手衣装の蛍光色ヤロウですが。
「何って?ただアリスの顔を見てるだけだよ。」
いや、見るだけならその手をどけろ。出来れば3秒以内。
私は落ち着かない。だって、目の前には王様が居るわけだし。
目を合わせるしか選択肢今無いし。あああ、しかも相手ハタチ。推定だけど。そして私13。
この組み合わせって…、微妙に犯罪のカオリがしません!?きゃー。
「くすっ、年下のアリスも可愛いじゃん?」
キングはそう言うと、少しかがんだ。
ん?このポーズ、今日で二度目だぞ。見るの。
そして…、
ちゅ。
私の口に、かるーくキスをしやがりました。
「は。ひゃあああああ!?」
私は叫んだ。そして、もう王様とか関係無く、股間に迷わず蹴りを入れた。死ねえ!!
私のファーストキス!奪われたよ!?かるーく!!
ああああああああ甘酸っぱいファーストキスがああああああ!!
ちなみに私に蹴りを入れられた王様は、股間を押さえて悶絶中。ザマミロ☆
あはははは。こんにちわ。今日も枯れてる居無屋さんです。
チェシャさんかと一瞬思ってしまった人も多いのでは無いでしょうか。この派手派手キング。
正直もうらぶえっちとかはこの人に任せようかな…。