第33話 矛盾だらけの敬愛を
久し振りすぎる更新。
大分時間が経っているので、文体が変わってると思います。
読みにくかったらすいません。
今回は、恋するメイド、メアリ=アンの視点で。
ああ、アリス様。
あなたは何て幸せな方。
だってみんなに、愛して貰えるのだから。
リル様が、肩を震わせていた。
漆黒の前髪に隠れ、顔は見えない。
けど、きっと泣きたいんだろう。泣きそうな顔なんだろう。
『それでも、私には…自分の名前も、愛してくれる人も、帰る世界も。ちゃんと、有るんです。』
リル様の、哀しそうに歪めた表情。さっきの言葉が私の頭の中でガンガンと響き渡った。
帰らないで、帰らないで、帰らないでッ!!
狂おしい程の想いが、私の中を暴れまわる。
けれど、一方で何処かリル様が…いえ、アリスがそう言うのを嬉しく思う自分も居た。
だって、帰ってくれたら、白兎様は私を見てくれるから。
昔の話。
「メアリ、いつも有難う御座います。今日は帽子屋の所へ行くので、一緒にお茶会に来ませんか?」
白兎様に朝食を持っていって、部屋を出ようとしたらそう言われた。
「え?あ・・・、でも宜しいんですか?」
帽子屋様…彼も地位は結構上だった筈。私みたいな、この国にとってさして重要でも無いメイドが一緒についていって、彼のお茶会に参加して良いのかしら…。
「ええ。帽子屋はあんまりそういうことは気にしません。別に用事があったりするのなら無理強いはしませんよ。」
・・・。用事なんて無い。むしろ有っても貴方のためならすぐに無かったことにします。
そんな風に言いそうになって慌てて口を塞ぐ。そして、いつもと変わらぬ笑顔で、言った。
「いいえ、用事なんてありません!是非ともご一緒したいです。白兎様!!」
そう言うと、白兎様もいつもの微笑を浮かべて、ドアを開け私を振り返って言う。
「じゃあ、お昼頃、この部屋へ来て下さいね。メアリ。それでは。」
ぱたん、軽い音とともにドアが閉まって、その向こうに白兎様の微笑は消える。
それと共に、私の顔はだらしなく緩んでしまった。嬉しさのため、思わずにやけてしまう。
恋って、片思いでも幸せだ。切ないけれど、こんなにも嬉しい気持ちになれるんだから!
お城の厨房に行き、メイドとしてのお仕事をする。
その時も私の顔はだらけっぱなしだったみたいで、メイド仲間に指摘された。
お昼ご飯を早めに取り、スキップでもしそうな足取りの軽さで白兎様のお部屋へ行く。
彼のお部屋が近づくと、ドアの前で彼が立っているのが見えた。お待たせしてしまったのだろうか?
だらしなく緩みそうな頬をパンパン、と叩き活を入れる。
まだお昼前なのに、時間にキッチリしている彼は私を待たせないように、いつも待ち合わせの時は早めに来てくれる。優しい彼。
「お待たせ致しましたっ!白兎様。」
「ああ、メアリ。じゃあ、早速行きましょう。」
私が声を掛けると、白兎様は微笑を浮かべてくれた。真っ白な髪の毛がサラサラと揺れている。
お城の外に出て、帽子屋様のお茶会会場を目指す。
白兎様の横を歩ける、そう思うだけで気分は軽く、また緊張で重くなった。
いつも着ているメイド服が、風に揺られてユラユラ揺れる。私の髪の毛もサラサラ揺れた。
お茶会に着くのはあっという間。彼と歩く時間は名残惜しい。
帽子屋様がお茶を淹れてくれて、あったかい湯気が立ち昇る。
三月兎様は、お砂糖を入れた糖分たっぷりな紅茶をヘロヘロと舐めている。可愛らしい。
ヤマネ様は我関せず、という感じで黙々と読書をしていた。
「メアリ。あなたもたまには僕のことばかり考えるのではなく、このように息抜きをして下さいな。心配になってしまいますよ。」
苦笑して、私に白兎様は言ってくれた。
ああ、何て甘美な幸せ!!
あなた以外のことを考えるだなんて、耐えられない。そんなの、この国の住民にとって最も大切なアリス様だけ!私は、そういう風に作られて、その自分に満足しているのだから。
今は、この国にアリス様になる少女はいない。それは地獄のように哀しい時間ではあるけれども、私にとっては少しばかり嬉しくもなる僅かな時間。
優しい白兎様は、アリス様さえいなければ、たかが端役のメイド風情である私のことを気に掛けてくれる。
もちろん白兎様のお心も、私自身も、本当はアリス様だけのもの。
けれども、この恋心は止められない。白兎様の心はアリス様に捧げられているし、彼はアリス様に心酔しているけれど、アリス様のいない間だけは、チラリとでも私を見て下さるの!
幸せなお茶会は、終わった。もう夕暮れだから、今日という日も終わってしまうのだろう。
白兎様と並んで歩く帰り道。赤い夕日に、私たち二人の影は足元から長く伸びている。
物悲しい夕焼けは、どんな嬉しいことがあった日であろうと、私達不思議の国の国民の気分を沈ませる。1番目の、最も敬愛するべきアリスが死んでしまった時間だから。
何があろうと、この時間は鎮魂のための時間。彼女はアリスでありながら、この国にこられなかった。言うなれば創生者。
彼女は確かに迷子だったはずなのに。
ああ、アリスがいないことを哀しく思いながらも、私はアリスに来て欲しくないと願う。アリスであるリル様が帰ろうとすれば、私は迷わず彼女を――――――、
殺して、しまうのでしょう。
彼女を愛していると、リル様の亡骸を抱いて泣きながら言うのでしょう。
こんなに矛盾を抱くほどアリスを愛しているこの国は、確かに狂っていたのかもしれない。
食堂の中心で、哀しげに無表情で立つリル様は、確かにこの世界では一人に見えた。
長い黒髪を振り乱した姿。ああ、確かに彼女は生きている人間で、みんなに愛されるべき存在に思えた。
帰さない、そういいながら私は。
罪深くも。あなたの死を待っている、浅ましいメイドなので御座います。
最初あんまりにも時間が空いてしまったので、もう投稿はやめにしてこの作品事態を消去してしまおうかとも考えていました。が、読者さんは数人ですがいましたし、エールを送ってくれたかたもいたのです。
このままやめるだなんて。勿体無い。
そう思ったわけなんです。
だから、コメント返信は無くなると思いますが、物語は完結まで書きたいと思います。
今まで読んでいてくださった皆様、本当に有難う御座います。




