第13話 真夜中の来訪者
サアアアアアアア。
あたたかいお湯が、心地良く体を滑り落ちる。
シャワーから出てくるお湯は、調節しなくても最初から丁度良い温度。ありがたい。
食堂で爽やかに女言葉を使うたくましい筋肉質な騎士隊長ジャックさんに飛び付かれたあと、豪華なご飯を食べた。美味しかったけど胃もたれした…。
それで折角だしお部屋にあるお風呂に入ってみようと思ったのだ。
まぁ今日は疲れてるから、ライオンの口からお湯は出さない。シャワーのついてるほうの小さな浴室で、簡単にシャワーを浴びるだけにしとこう。
白兎に摘み取って貰った深紅の赤い薔薇は、折角なので髪の毛から外して置いてある。
綺麗だったから、枯れちゃうのが勿体無い気がするなぁ。どうしたら長持ちするかな?
きゅっ。シャワーのコックをひねるとそんな音。家ではあんまり使ったこと無いから新鮮な感じ。
浴室から出ると、メアリに用意してもらったお風呂セット。
ふわふわとした真新しい感じの、クリーム色のタオルで体の水分を拭き取る。
んで、パジャマに着替えるっと…、って…!!?
メアリが用意してくれたのは、なんと…パジャマじゃなくてネグリジェだったァァァ!!?
え? え? 皆様ネグリジェですよ。ネグリジェ。
ヒラッヒラの黒くてレースのあしらわれたネグリジェですよ?
え?何か物凄く寝にくそうなんだけど。ヒラヒラだし。これ。
っていうより……、なんかエロい!! この寝巻き!!
いやいやいや、こちとら絵を描くのが大好きで将来は漫画家とかイラストレーターとか目指してますけどね!?ネグリジェぐらい描いた事ありますけどね!?
そういうのって英国的雰囲気でさらにエロっぽい雰囲気の絵にしか使わないんとちゃいます!?ねぇ!?
…とかココロの中で叫んでいても始まらない。着るしかない。明日あたりにでも普通のパジャマに取り替えてもらおう…。
モソモソと着替えて、ベッドに入る。
ベッド横の小さくて上品な机に乗っている可愛いランプを消して、就寝。
おやすみなさーい。
うわ、このベッドふかふか。ムニャムニャ。
……。
なんだろう、息苦しい。
お腹の辺りに何かが乗ってる感じがする。なんだろう……?
さっき寝てから、どれくらいの時間が経った?息苦しくて目覚めたのは何で?
私はそうっと目を開ける。
すると…。さっき眠った自分の部屋の天井が見えた。月明かりにうっすらと照らされて、青っぽく見える。
そして。
「っ!?」
見知らぬ人の、かお?
「ちょっ…あなたッ…!!」
誰かと聞こうとしたら口を塞がれた。モガモガと変な音がでる。うー。
悔し紛れに睨み付けてやると、私の口を塞いだ人の顔が見えた。
ハイ。また美形ですね!!コレは平凡な私に対する嫌がらせとしか考えられませんね!!
・・・じゃなくって。
意外なことに、それは男の子だった。…私と同い年か、それよりも上辺り。
今までの統計的には、もっと年上かと思ったんだけれど。
そしてやっぱり美形。オレンジに近い明るい茶色の髪に、程よく日に焼けた健康的な肌。目はローズクオーツみたいな綺麗な薄いピンク色。
そして…注目すべきは彼の頭から生えてるモノ。
「もががが…!?」
はい、兎耳来たよ。
髪の毛よりも落ち着いた、薄めの茶色。なんて言うか、野兎みたいな色合いっていうのかな。
「えへへ、君が今回のアリスでしょ?始めまして。僕は三月兎。三月でもウサピョンでもサンちゃんでもイカイカよっちゃんでも好きなように呼んでね!」
いや、ね。呼んでね! といわれても口を塞がれてるんだから出来るワケ無いんじじゃね?うん。
っていうか、イカイカよっちゃんは何処から来たんだ…。
やがて彼は私の口から手を離した。ふぃー、やっとか…。
「御免ねぇー、お部屋の中に入って、大声上げて変質者扱いされて、罪人にされるのは嫌だからさぁ。先に声出せないように口塞いじゃったぁ!!」
ははは、マジですか。手荒ですね。っていうか私部屋の鍵ちゃんと閉めた気がするんだけど。大丈夫か、この城のセキュリティシステム。
「あの…えっと三月兎さん。何かご用があるのでしょうか?」
無いなら帰れ、私の腹の上から早くどけ!! 重いし眠いんじゃぁ!
「ううん、特に無いよ。ここに来たのはアリスの顔を見てみたかっただけだし!!でも、強いて言えば・・・。」
? 何なの?
「アリスのことを………、お そ い た い ♪」
!!!!!! はあああ!?
何言ってんだコイツ!?っていうかうわ!?
「へ? あ、ちょ、ストップ!! ストォップ!!」
三月兎はいきなり私の手首をガシリと掴み、体重をかけ顔を私に寄せた。
「ふふ、ストップは無しー♪ わっふるわっふるぅ!!」
何がわっふるじゃボケエエェェェェ!!
ココロの中でそう叫んでいた隙に、彼は私のネグリジェをぐいっと引っ張って脱がそうとする。
ぎゃああああ!!やめろよ!!
バタバタと足を必死に動かすが、その努力も空しく彼の勢いは止まらない。
「わあ!アリスって良い匂いがする!石鹸の匂い?」
そりゃ風呂入ったもん!! って、いや、そうじゃなくてええ!!?
「やめてー!? っていうかやめろ!?」
「えへへ! 減るもんじゃないしいいじゃん♪」
何がだ!? 減るぞ?貴重な何かが減るぞ!? 磨り減るぞ!?
私の手首を掴む力は弱まることなく、しっかりと拘束している。しかもベッドに押し付けられていて身動きが取れない! もうヤバイよ! ギャアアア!!
「ギャアアアアアアアア!! 強姦は犯罪!! ダメ! 絶対ィィィィ!!?」
「気にしない!」
気にしろよ!そこは!!
「やめろおおおおおおおおおおおっっっ!!?」
ああ、もう叫ぶしかない…っていうかなんでこんな貞操の危機なのにギャグ調なんだよー・・・。
あっ、マジでやばい! ネグリジェが、あったらしいネグリジェが…、ミシミシいってる!!
うあ、最期の砦があああ…。
「あはは! もう少し〜♪」
「ぎゃああああ!? この小説は全年齢対象ですゥゥゥゥ!?」
18禁じゃないからああ!?警告無しだからあ!?
よし、これはもう、最期の手段に出るしか無い!!
私は自由に動く足を、振り上げ…
「いっきまーす!!」
ドッゲシィ!!
そんな音がした。流石にこれは効いたか!?
「ギャフ!! いったーい!?」
よし、この攻撃は効いたっぽいぞ!
はい、男の急所、股間を狙いました。エヘ☆
流石に効果あり。ふー、良かった。これで貞操の危機はまぬがれた。
「ひどいよーアリスぅ…。」
いきなり私を襲ったオマエが言えるか!!
涙目で言ってるけど、同情はしてやらんわ。ふんだ。
涙目で痛そうににうずくまってるけど、私は放っとく。
それよりも今度から、寝るときはスタンガンを装備しとこう。物騒すぎるぞココ。
っていうか何でこんなに変態が多いのかな、この国は…。
今日だけで二人って…多すぎじゃん!?
ハッ、もしやこの場所は、不思議の国ならぬ変態の国!!?
すいません。冗談です。襲われかけたせいで脳みそラリッてます…。
お、襲われかけるって…。
自分で書いといてなんだけどこの国って大丈夫なんだろうか…。
『ホントだよ!!ヤベーよ、この国!!』
あら、るりさんでは無いか。
『もうちょい普通の国にしろ作者!そうしないと私の身がもたないから!!』
ん〜…頑張れ主人公!!負けるな!!
『答えにねってNEEEE!!?』
今日も平和です・・・?