第12話 それいけ騎士隊長
喉から漏れる哀しみの声。
―――― 一体この世界で、誰がこの哀しみを癒してくれるのかしら。
「アリス」
聞こえたのは、チェシャ猫の声。
触れると、しっとりと濡れたような感触の、上質な布。
そんなイメージなのかしら。とっても綺麗な声だね。
「哀しいの?」
そう言って、彼が私の肩に触れた。視界は涙に霞んでいたけれど、多分そうだと思う。
普段なら、あまり親しくないない人に触れられれば体を固くしたり抵抗したりするんだろうけど、今の私にはそんな元気無かった。
優しい、手つき。安心しても、良いのかな…。
そう思った瞬間に、ぐいっと肩を引き寄せられる。びっくりしたけど、何も出来ない。
「泣かないで。貴女が泣いてると、俺まで哀しくなっちゃうから」
哀しそうな、声。どうしてそんな声出すの?
ボンヤリとそう思っていると、彼がぎゅっと私を抱き締めてきた。微かに香る林檎の香り。
それは、大切な人を守りたい、というよりも、大好きな人を逃がしたくない、という感じがした。
クイーンと、同じ?
あのとき、誓いの証として、クイーンが私の手にキスをした。あれと…、同じ?
『まるで、一生離れまいとしているかのような。』
どうして、どうしてなのか。
何故ここの人たちは『アリス=リデル』という存在をそこまで大切にして、私をそう呼ぶのか。
「さぁ。アリス。もう涙は止まったんだね。良かった良かった。」
「え?」
さっとチェシャ猫が私から離れた。私はバランスを崩してボフッとベッドに体を落とす。
「俺ら不思議の国の住人は、君のことが大好きなんだ。だから君が泣いてれば、殆どの人が涙を止めようとするんじゃ無いかな?」
どういう意味だろう。私はベッドに横たわった形のままチェシャ猫を見る。
「さぁ、アリス。俺は君と会えて満足したし、そろそろ帰るよ。サヨナラ。また会うことも有るかもね。」
それだけ言うと、彼は窓から飛び出していった。
私一人の部屋には、夕闇の薄青い光と、微かに香る林檎の香りだけが残った。
こん、こん。遠慮勝ちなノックの音を、私の耳が捉えたのはその直ぐ後。
「あ、はーい。どうぞ。」
そう言って、ベッドから降り、ドアをガチャリと開ける。
ドアの外には白兎。そういえばどのようにキングは始末されたんだろう。
「アリス。そろそろ夕食の時間です。食堂で食べるのと、お部屋で食べるの、どちらが良いですか?」
「え、えーと、食堂で。」
一人で、こんな広い部屋で毎日モソモソとご飯を食べるなんて嫌だ。廃人になりそうだ。
そう答えると、白兎はいつもの微笑を浮かべた。っていうかホントこの国美形ばっかだな。
「わかりました。ついて来て下さい。案内しますよ。」
「ふえー、広い・・・。」
思わず呟いてしまった。因みに現在、利出in食堂。
だってそこは、食堂以外の何者でも無いのに、食堂というなんかちょっとアレな言葉を使っちゃイケナイ感じの豪華で広いところだったのだ。
柱とかの装飾は、やっぱり赤白を基調としたハート柄で、細かく彫り込まれていて作った人のセンスと職人魂を感じる。
天井は驚く程高くて、私の通う中学校の体育館、いや、中学校自体でもホホイノホイとお茶の子さいさいで幾らでも入っちゃいますよ、ってな感じの雰囲気だ。
おまけに長い!!テーブルとかが物ッ凄く長い。ワイワイと色んな人がご飯を食べてる。
思わずぽけーっと見取れてしまった私の手を、誘導するように引っ張り、白兎は「こっちです。」と言った。慣れてるなぁ。流石は女王の側近。
んで、私の座ったところは人がまぁ少なめのとこ。偉いっぽい人たちの居るテーブルだ。…居心地悪ッ!!?
「じゃぁ、ここがアリスの席です。間違えないで下さいね。それでは。」
そう言って、彼は立ち去る。白兎はここでは食べないのかな。
そう思ったのが伝わったのか、白兎は立ち止まって私に言った。
「僕は執務などで忙しいので、大抵の場合は部屋で食べるんですよ。そうすれば、好きな時に食べられますからね。」
うっわー。立派に社会人やってますね!
と、その時。
「っアリスちゃーんっ!!」
妙に弾んだ声が聞こえた、と思ったら、私は後ろから誰かに抱きつかれた!?
「ぐええっ!!??」
変なくぐもった音が喉から出る。当たり前か?っていうかなんだよ!!?
「ぐっ、ぐるじっ!!サンソ、酸素プリィズ!!?」
首の辺りに誰かの腕が巻かれている。それも、ごつごつとした筋肉質の腕。苦しいハズだ。
そんな風に、私がモガモガやってると、白兎の呆れたような溜息が聞こえた。
「ジャック、止めなさい。アリスが苦しがってるでしょう。」
それを聞いた謎の人物…ジャック?は、私の首に巻いた腕を緩め、こう言った。
「仕方無いじゃない。アリスちゃん可愛いんだもの。抱きつきたくなるわよぅ。」
は、あの、可愛いからって窒息死させられるのは嫌だぞ私。可愛いと言ってもらえるのは大変喜ばしいコトだが、窒息死は嫌だぞ。
っていうか、さっきから聞いてる言葉は女言葉なのに、なんか声がむさくて、オトコっぽい・・・?
私は、ジャックという人物を見ようと、クルリと首をめぐらせてみた。
「・・・!!!!!????」
すると、視界に映ったのは…!!
男やんけー!?
ゴツゴツと筋肉をともなったしなやかな体。
兵士らしい使い込まれ鈍く光る銀色の鎧。
どっしりと構える強靭そうな体躯。
そして中々の美丈夫である顔立ち…。
はい。どこからどう見ても男です。寧ろ漢です。どうも有難う御座いましたァーーッ!!
目の前に居て、女言葉を使うのは、二十代後半くらいの兵士の黙ってればカッコイイオトコノヒトでした。ハイ。
「アリスちゃーん、こんにちわ♪わたしィ、この城の騎士隊長!!ジャックよ。ヨ、ロ、シ、ク♪」
う、うあああああああああ!?きしょい!!きもい!!どうしよう!?
いやいやでもこの人に悪気とか邪悪なココロは見うけられないワケでありましてそんな事言うのもどうかなぁと…!!
「アリス、コイツはジャック。おとこです。」
いや、白兎さん。そんな疲れた様子で、こめかみグリグリしながら言わなくても、この人がおとこってことぐらい分かりますよ。はい。
「は、はぁ…。コンニチワ。ヨロシクお願いします…?」
疑問系になったことには突っ込むな。なんとなくだから。
「うっふふー♪ アリスちゃん、わたしねぇ、女言葉をどーしても使っちゃう癖があるのォ。なんか直せない癖でぇ。だからそんなに困ったお顔しないで。」
にこにこっと、ジャックさんが笑ってる。うわー、爽やかですね…!!女言葉じゃなかったらもう本当に!!
「アリス。こんなのでも一応腕の立つ者です。何か困ったことや、護衛を頼みたいなら彼に頼むことも出来ますよ。」
白兎さんが心底疲れた顔で言った。っていうか仮にも騎士隊長に「こんなの」は無いだろ。気持ちは分かるけど。
「ふふ、アリスちゃんのためなら例え火の中水の中!!頼りにしてくれると嬉しいわ〜♪」
「は、はぁ…有難う御座います。」
これは…、女言葉を使う、見た目だけなら十分カッコイイ騎士隊長に、タノモシイことを言ってもらえるのは…喜んで良いコトなんだろうか…。
なんかここの住人って不必要に濃いよね!!キャラが!!
そして無駄に美形だよね!!みんな!!
平凡な私にどうしろと!!??
そんなコトを八つ当たり気味に叫びたくなる私は何処までも平凡だ、そう信じたい。
うっわー、いつもにも増して文章が滅茶苦茶に!!
まぁ…ドンマイですよね!ドンマイ!!
あー、なんか折角10話突破したワケだし何か企画やりたいですねー。
よし、考えとこう。ではでは。