第一話 図書館とお天気雨
暑い、あつい、熱い。
…なんなのだ、この暑さは。
私は横を見て、温度計の表示を覗き込む。デジタル表示に写った文字には、『28℃』とあった。暑い筈だ。
窓からチラリと見える空は穏やかに薄い爽やかな青空。風もふわりとたまに吹くだけ。暑くなかったら最高の陽気だ。
「あっつーい…」
私はそう呟き、ムクリと起き上がる。
「あれ、今日は…、」
私は何かを忘れているような気がした。思い出す手掛かりを得ようとキョロキョロと辺りを見まわす。
と。
私の目に、本が飛び込んできた。
・ ・ ・ ・ ・ ・ 。
「……っああああああーーーーーーーーーーーーっ!!」
私は叫んでいた。そう、今日は図書館から借りた本の返却期限だ!!
「やばいやばいやばい!!」
ドタバタと私は出かける用意をする。鞄に、本を詰めて。服を着替えて……。今日は午前中だけしか図書館開いてないし!! 急げ!!
「どうしたの? るりちゃ〜ん? 騒々しいわねえ」
私の部屋のドアが開き、ヒョッコリと姉が顔を出した。
「ご、ごめん姉さん!!出かけなくちゃいけないの!!返却期限が来ちゃったの!!」
私は姉さんの方を振り向きもせずにドタバタと用意を続ける。我ながら言ってることが支離滅裂だ。
「ふ〜ん…?あ。」
姉さんがそう呟いたので私は思わず手を止めて振り向いた。
この姉さんの「あ」という呟きは、大抵良くないことを思いついたときに使われる。嫌な予感がするぞ……。
「るりっ! 今日は貴女にプレゼントがあるの!! 今日は貴女の誕生日だものねッ!!」
姉さんはとても嬉しそうに笑った。
「…は? ぷれぜんと? たんじょうび?」
けれど私は気の抜けた声で返す事しか出来なかった。
だって……。
「姉さん、私の誕生日は……、一ヶ月前に終わったよ。」
確か一ヶ月前に姉にトンデモネープレゼントを貰った気がする。マジで。
「あらら、そうだったかしら? でももう用意しちゃったもの。プレゼント。」
うわー…、姉さん。全く持って気にしてねえわ。
ここまで華麗に渾身のツッコミをスルーされると、最早清清しいね!! うん。
「んで、そのプレゼントは? お姉ちゃん。」
「じゃじゃーん!! コレよぉ!!」
ウンザリとした私なんか全く気にしないで、姉さんはゴソゴソと何かを取り出した。そしてその何かをフワリと広げる。
「ほら!!るりちゃんに似合いそうなエプロンドレス!! 不思議の国のアリスちゃんみたいでしょう。
るりちゃん可愛いからきっと似合うわよぉ!!」
「……。」
確かにトッテモ可愛らしいデスネ。ハイ。
でも似合わないだろ。私には、絶対に。
フリッフリのレース、フリルのついたエプロン。ドレスは長袖で、やっぱりレースとフリル付き。
黒と水色のドレス。二着ある。乙女趣味全開じゃねえか。
それを着たら、きっと童話のアリス。白兎を追いかけて、不思議の国に迷い込む、好奇心いっぱいの少女。誰もが憧れたことのある、童話の主人公。
「でもねー、姉さん。私はアリスじゃなくて、寧ろチェシャ猫っぽいんでしょ? 一ヶ月前、そんなこと言ってチェシャ猫簡単コスプレセットをプレゼントにくれたじゃない。」
私は溜息をつき、言った。
そう。一ヶ月前くれたトンデモネープレゼントは、ピンクと紫という非常に目に痛い色合いの猫耳カチューシャと尻尾のセット。
それなのに今度はアリスのエプロンドレスとは…。
あれか?姉さんはエプロンドレスを着て目に痛い猫耳、尻尾を付けた妹を見たいってのか。
私は目の前にそんなヒトがいたら即刻変質者として通報するぞ。
「まぁまぁ。過去のことは良いじゃない。そうだ!折角だから出かけるんなら着ていってよ!!そのエプロンドレス!!猫耳もつければきっと可愛いわ!」
うあ。もう駄目だ。このひと。
――――。
はい。こんにちわ。苗字は「有素」、名前は「るり」な中学一年生です!!
特技は絵を描くこと!!ヒトヅキアイは嫌い、苦手、吐き気がするよ☆
現在ピッチピチの絶好調十三歳のワタクシは、アリスの長袖エプロンドレスを着て、ピンクと紫の非常に愛くるしく目に優しくない猫耳をつけて、町を闊歩しております!!
ハァー、ハイテンションもここまでが限界だ。疲れた。っていうかこんな暑い日に何故私は長袖をきにゃならんのだ!!
だが、不幸中の幸いというヤツで、現在暑い外をワザワザ歩くヒトは私以外に居ない。
そのため変質者として通報されることも、白い目で見られることも無い。
さっき、姉さんに無理矢理エプロンドレスに着替えさせられ、
『今のるりちゃん可愛い格好だもの。誘拐とかされないように護身用ね♪』
と電気スタンガンを持たされた。けっこー物騒だな。っていうか心配するならヤメレ。
っていうかスタンガンって持ってるのは軽犯罪法違反じゃあ無かったか?軽〜く連行されるとか職務質問されるとかどっかで読んだぞ。確か。
「はぁはぁ…。図書館ついたー…。」
私は息をつき、図書館の出入り口に入る。さっすが公共施設。クーラーが入っているようで入った途端ヒンヤリと涼しい空気が私の頬を撫でる。
取り敢えず猫耳カチューシャは外す。だって恥ずかしいし。
「へ、返却お願いしまーす。」
私はそうっとカウンターに本を差し出す。
「……はい。かしこまりました。少々お待ち下さい。」
受けつけのおねいさんがたっぷり十秒間私とエプロンドレスを見つめて、笑顔で言った。笑顔で言えるとは流石プロ!!
……けれどきっと猫耳を付けていたら見つめられる時間は一分間に増えていたに違いない。外してヨカッタ!!
図書館を出るとまたあっついモワーッとした空気がまた私を襲う。
「暑い…、なんだよこの暑さー……」
思わず口から漏れる独り言。普通の人が見たら今の私の格好とあいまって、かなりの電波少女に見えると思われる。
と、その時。
「あれ?」
ポツリ、ポツリ。空から降るのは――、雨?
でも地面には相変わらず日の光。ええ?なんで―――――――――…、
思わず私が空を見上げると、青い空と太陽。そして降り注ぐ、雨。
「あ…。お天気雨か。…珍しい。」
そう。雨と晴れが空に同居する、なかなかに珍しい天気。まあ私はこの天気が好きなのだけれど。
「へへっ。良いこと起こるかな?」
爽やかな雨だもん。私としてはちょっぴり嬉しい。
それに雨が降ればこの温度も少しは下がるはず。
この雨は、不幸と幸運、どちらの予兆だったんだろうか?
は、始めちゃったよ…;;
やばい。緊張するわコレ。
後々恋愛要素を入れるつもりですがどうなることやら…。
文章はヘタクソですが、頑張ります。
どうぞヨロシク!!