こちら、生産職です。
生産職ですからね、これくらい普通っすよね。
名前:ココ
種族:ポルターガイスト
スキル:製糸 操糸 鋼糸 罠作成 幻術 念力
称号:
「んー、ポルターガイストって種族なのかな…。」
ポルターガイスト、またはポルターガイスト現象。ドイツ語で"騒がしい霊"という意味であり、誰一人として手を触れていないのに、物が動いたり、発火したりと、説明出来ずに心霊現象でまとめられる何かである。つまり、ココの種族、ポルターガイストは幽霊なのだ。
種族:ポルターガイスト
物理攻撃が効かない代わりに、直接相手に攻撃することができない。ただし、道具を使う事で間接的に攻撃することができる。武器は使えない。物を動かすスキル、念力が使える。
「はー、直接攻撃出来ないねー。…ん、まあ、生産職で楽しめればいいかな?」
彼は、このゲームを始めるとき服飾の生産職になろうかな、と考えていた。だが、作るだけでは飽きてしまうことに気づき、糸が使えるだろう罠作成を選んだ。これで戦う生産職位にはなれるかな、なんて少し達成感を感じていた所に、邪道、外道もありなんて言われてしまう。悲しいかな、ギャング映画が最近のマイブームであるココ少年は、PKに躊躇いはなかった。罠に掛かれば儲けもの、なんて考えていたのだ。
ここで、ココ少年について少し言及しておこう。彼は少年という様に、幼い外見をしている。しかし、実年齢は外見で判断されるより高く、年下だと思っていたら年上でした、なんて出来事が度々起こるのだ。彼も、自分の事を外見詐欺だと自覚しており、間違えられる事を咎めたりはしない。むしろ、これは使えると考え、わざわざ糸で髪を伸ばして緩い三つ編みを作って肩から前に流し、自分の体格よりもやや大きめの服を着ているように糸でごまかして、より幼く中性的な姿を装ったのだ。
つまり、他のプレイヤーから見て警戒し難く、軽く見てしまう。そのため、小細工が簡単にできてココ少年はウハウハである。
具体的には、耐久値が設定されてない初心者装備に糸を織り込み、作り直した事で耐久値を発生させる。作り直しに失敗しても、耐久値が1になり、小細工は成功。ココにとっては都合が良いのだ。
「んー、全員に出来たかな?」
念力を使い、織り込んだ糸に反応があるかを確認しながら、小細工について考えを巡らせていく。
「まさか、装備品を作り直すなんてねー。装備している状態でも作り直せるなんて、ゲームでの常識とかじゃあり得ないんじゃないかな?思い込みって怖いなぁ。ログに成功、失敗って残ってるから生産活動になるのかな?破壊工作とかありそう。自由度高いなぁ。」
ココは思う。加減は一切しないで落とせるだけ落とす、ギャング映画で言ってた。
ファンタジアのゲーム内広場に当選したβテスターが集まった。彼ら彼女らは、これから始められるゲームに興味が向き、あちらこちらで話題に挙げている。現実で知り合い同士であるのか、始まる前からまとまって行動をとっていたり、ゲームだからなのか、広場中央付近でパーティー募集をしていたり、その光景を眺める様に、外野付近で佇んでいたりと、多様な、それこそ騒がしい光景と言える状態である。そんな光景に意識を向けつつ、ココは忙しなくメモを取っていた。このゲームのシステムに、メモ帳機能などないが、掲示板への投稿、チャット、写真、メールなど、代わりになるものはある。似た様な事をした覚えがあるとわかりやすいのだが、即席としては意外と使えるものなのだ。ココはメールと写真機能を使って、顔、戦闘スタイル、プレイヤー名、行動予定など、聞いてわかる範囲でメモに残していき、未送信メールとして残していく。つまり、相手プロフィールを作っているのだ。まるで、これから狙いに行くかの様に、できるだけ詳しく作っていく。時には、声を掛けて、友達になるかの様に、さりげなく、ゲームの攻略予想を話し合いながら。そして、"彼女"が生産職であると匂わせつつ、別のプレイヤーに移って行くのだ。そうしていると時間は過ぎていき____。
「…皆さん、お初にお目にかかります。私は、ゲーム・ファンタジアの運営、進行担当のひつじ執事と申します。気軽にセバスチャン、とでも呼んで下さい。さて、長々とした前口上は省きまして。皆様がいらっしゃる広場の四方、進行制限の結界が張ってありますが、これから解かせて頂きます。街中へと移動できるようになりますので、求めるものがある方は、早い者勝ちと覚えて下さいませ。……それでは、皆様。ようこそ、ファンタジアへ。」
ひつじ執事の挨拶と共に、広場の移動制限が解除されたため、我先にと駆け込んで行く。通りへ進んでいったプレイヤー達は、光に包まれて転送されていき、やがて、"彼女"__彼だけが残った。ココは、プレイヤー達が転送されていったのを見届けると、髪に編み込んで下ろしていた糸と仕掛けた鋼糸を回収していき、服の裾を増やしてスカートのように見せかけて、両耳辺りから鎖骨にかかる程度に髪を作ると幻術かけてごまかす。ココは満足気な顔をして街へと繰り出した。
ゲームに良くある、始まりの街は、偏見だが少し寂れている印象が見受けられる。だが、ファンタジアの始まりの街は、プレイヤーの興味を引くためなのか、屋台や大道芸で賑わっており、そこを歩いている住人も個性的で、映画の中に出てくる様な、エルフやドワーフはもちろん、獣に似ている顔立ちをした人__おそらくビーストと思われる__がそこそこ見受けられる。また、日常で着ているであろう服の他に、皮鎧やローブといった、所謂、武装をした住人は見られないため、ココは、変なところでゲームだ、なんてズレた関心の仕方をしていた。
「さてさて、街を見て回るのもいいけど……まずは、拠点探しだよね。」
そんな独り言をしながら、屋台へと近づいていく。
「おにーさん、このリンゴ?3つくださいなっ!」
ココは、受けが良さそうな、元気な子供を演じるつもりで屋台の店主に声をかけ、宿の場所を聞き出そうとした。
「おいおい、そんなお兄さんなんて年に見えんだろうに。まあ、嬢ちゃん可愛いから1つまけてやるよ。15クレジットだ。」
店主は、お兄さんと言われたことに気を良くしたのかはわからないが、1つおまけを付けてココに渡した。口元がにやけているので、どうやら満更でもなさそうである。
「ありがとう!…そうだ、この近くに、宿ってどこかに無い?」
「宿かい?そうさな、この通りを進んでいくと東門の手前で"ギルド"っていう仕事や依頼を紹介してる何でも屋があってな。そいつのさらに手前らへんにあるぞ。」
「何でも屋?」
「ん?ギルドが気になるかい?」
店主の言葉に、ココは頷き、説明を催促する。
「ふむ。ギルドっていうのはな、魔物を狩りに行ったり、物作ったり、人手が足らん時とか代わりにやってもらうように依頼出しに行くとこさ。でだ、ギルドに登録しているやつが自分に合った依頼を選んで仕事しに行く。内容は人それぞれだから、依頼は何でも受け付けてる、だから何でも屋だ。ついでに言っとくと、職業はあると好待遇してくれるが、無くても問題無いってところだからな、金に困ったらギルドに行けばいい。」
「…へぇー、結構適当なんだね。」
「まあな。つっても、ギルド員評価ってやつがあってな、依頼を系統と数で分けて評価すんのさ。数字がでかけりゃ信頼できる、小さけりゃ使いもんにならんって感じにな。指名依頼なんてやつもあるみたいだが、そこらへんは知らんな。」
「ほほぉー。…教えてくれてありがとう、おにーさん!」
「お兄さんなんて、よせよ。また来な。」
そんな店主に手を振りながら、通りを進んでいくココ。
「…すごいな、NPCが人形っぽく無い。」
ココのそんな呟きは、喧騒に紛れた。