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 のらりくらりと自転車をこぎながら時折姉さんの横顔を見ていたが、やはり油断すると目が離せなくなりそのまま電柱に激突しそうになる。それでも俺は適宜前を向きつつ姉さんを見つつ、交差点を右に曲がって総合公園に沿って自転車を走らせた。

 ここ平津加市の七夕祭りは全国的に有名である。その七夕祭りでは毎年三人のミス七夕、つまり織り姫が選出される。本人はそういうイベントを歯牙にもかけていないが、もし姉さんがそのコンテストに参加すれば、他の応募者を差し置いて満場一致の即決、おまけに三人選ばれるはずの制度が例外的に無視されて、一人で優に三人分の光輝を放つ織り姫として選ばれることは想像に難くない。きっと琴座のベガよりも輝いていることだろう。また、そんなに美しい織り姫が現れたとなると、彦星の方は七月七日を待たずして猛然とバタフライで天の川を泳ぎ切り、毎日が七夕になってしまうことも十二分に考えられる。

 そんな姉さんと一緒に登校できただけでも幸運だ。テニスではネットの上端に当たったボールをコードボールと言うが、この先一カ月はコードボールが全部自分のコートに落ちるくらい運を使い果たしたかもしれない。あまり下着の柄に拘らずにこの幸運を活かして、ここはひとつランチにでも誘うとしよう。

「姉さん、この際もう学校に行くのはよして、一緒にランチでもどうでしょう?」

「おお、いいこと言うね。それだよ、それ。でも、お金ないんだよねぇ」

「気にすることはございません。ここは是非、わたくしめに御馳走させていただけませんか、マドモワゼル」

「まあ、ムッシュー、いいのですか?」

「喜んで」

「やったぁ。どこにしようか?」

 二人して目前に迫った大原高校をかわし、総合公園の中へ入る。

 いっやー、何たる幸運だろうか。俺は喜びで顔がにやけないように精一杯引きしめつつ、この先卒業するまで相手の打ったボールがイレギュラーバウンドし続けることを覚悟した。

 しかし、銀杏並木を走りながらふと気が付くと、姉さんの自転車は数メートル後ろで止まっている。

「どうしたの?」

「ごめん。今日昼休みまでに出さなきゃいけない提出物があるんだった」

 我々は、すぐさまUターンして大原高校の方へ引き返し始めた。

 変に期待したせいで失望もひとしおである。テニスラケットのガットの張力、つまりテンションはポンド単位で表すが、今の俺のテンションは低すぎてどんな単位でも表せそうにない。

「ごめんってば。ちょっとそんな暗い顔しないでよ」

「うん……」

 何たる仕打ち。この先一生ファーストサーブが入り続けても割に合わん。

「もう昼休み始まってるよ」

「うん……」

「陣ちゃんの最初の質問に答えようか?」

「えっ」

 今日はもうこのまま帰ろうかと考えていた俺は、驚いて姉さんの方を見た。

「ほら、元気出た」

 姉さんは笑っている。

「なんだ、冗談か。余計にへこんだよ」

「本当に答えれば、それで元気が出るわけ?」

「もちろん。そしたらこの先三週間はへこまない自信はあるね」

「そう。じゃあ答えよっかな。大声じゃ言わないし、一回しか言わないよ」

「お、おお……」

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