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「何故ってそりゃあ、姉さん、俺が入院してるのに見舞いに来てくれなかったじゃないか」
「それ、今朝お母さんから聞いた。どうしたの?」
親同士の仲がいいせいか、やけに情報の伝達が早い。俺は手短に説明した。
「へえ、テニスのことだけ忘れたの。今朝は病院でも行ってたの?」
「いや、ウィンブルドンの決勝見てから寝たら、予想通り寝坊した」
「それでこんなに遅刻か。たるんどるぞ」
「いやいや、今傍らを自転車で並走している人に言われても」
「あはは。それもそうね」
実は姉さんも学校生活は結構ルーズである。遅刻どころか、突然二、三週間休んだりもする。しかし遅刻の方は寝坊であろうが欠席の方は海外旅行だったりするから、ちょっと普通じゃない。旅好きな姉さんは、普段はバイトに打ちこんでお金を貯め、長期休暇や気が向いた時に一人でふらりと出かける。そのあまりの奔放さで先生からの叱責も回避する。
俺はというと、あんな美女が海外を一人でうろつくとは自殺行為もいいとこだ、と心配で夜も眠れず、その結果朝も起きれず、遅刻日数が嵩むばかりなのだ。
俺以上に欠課しがちな姉さんだが、頭は良く、先生にも可愛がられるタイプなので、俺との扱いの差は月とスッポンの観がある。ほとんど出席しないのだが臨時特派員と自称して新聞部に所属しており、旅行から帰るたびに校内新聞に旅行記を載せていたりもする。そしてこれがまた頗る面白く、職員室にも多くの愛読者がいるというから敵わない。
「まあ、そういうわけで先程の質問に答えてくれてもいいんじゃないかと……」
「まだ言うかっ」
「俺の燃えさかる闘志を見くびらないでいただきたい」
「その無益な闘志を早急に冷却しないと、次々と女の子が離れていくよ」
「女の子にももう少し理解が欲しいね。男が相手の女の子の下着を気にするということは好意の表れだよ。それもただならぬ好意だ」
「女の子はそういう好意は敬遠するの」
「迂遠だなぁ」
「急がば回れ、ね」