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事故が起こったのが土曜日であり、俺はその日、病院へ入院した。それでも様々な検査を経て、翌日の日曜日には退院することができた。女の子が一人も見舞いに来ない内に退院するのは少々残念だが、一カ月も入院して一人も来なかったらそれこそ残念である。俺は気持ちを切り替えて意気揚々と退院した。
それにしても、一体どのような事故だったのか。
俺はテニスをしていた時のことは何一つ覚えていないので、頭にテニスボールが当たった時のことは思い出せなかった。そもそも頭にテニスボールが当たったせいで、病院に運ばれたのだということも後から四人に聞いたくらいだ。
ことの顛末はこうだったらしい。俺たちは土曜の午後、学校にて五人でコート三面という不必要に良い条件のもと、ハードコートの二面を使って練習していたそうだ。俺と日野がシングルスの試合をしている横で、木戸、大場、我門の三人が2ポイント交代でシングルスゲーム形式の練習をしており、大場のサーブ、我門のレシーブの時にことは起こった。
今一つ覚えていないが、大場はその長身を活かしたかなりのビックサーバーらしい。片や我門は軟式テニス上がりだ。軟式テニスは硬式よりもボールが飛ばないため、ストロークは自然と硬式よりも厚い当たり、つまり回転をかけないフラットな打ち方になる。スピードの出る打ち方ではあるが、硬式ではコートに入る確率が落ちるため、回転をかける打ち方が一般的である。しかし我門は今も軟式の打ち方のままらしい。コートに入る確率など度外視したその打ち方は、スピードだけは確かに一級品だと他の面子も口を揃える。
大場はその時そこでバカ当たりのフラットサーブを炸裂させた。本人も、もしコートがクレーだったらボールが地面にめり込んでいたと思う、などと嘯いていたが、そんなアンディ・ロディックの如きサーブを大場が打てるのかということはさておき、音からして尋常じゃない気配を感じた我門は少しラケットを早く振り過ぎた。
そしてこっちもバカ当たりだった。
ボールは大幅に横へ逸れ、隣のコートの審判台を狙うかのようなコースを一直線に飛んでいき、日野が浅めに浮かしたチャンスボールを決めんとしていた俺の後頭部に直撃したのだという。
誰の責任か、当然議論になった。
直接ボールを打ったのは確かに我門である。しかし彼は言う。「大場のサーブが速かったからなぁ」と。確かに大場のサーブは速かった。しかし彼は言う。「打つ前に木戸が、一発かましたれ、って煽ったからなぁ」と。確かに木戸は大いに煽った。しかし彼は言う。「そもそも、日野が浅いボール上げるから、陣があの位置にいたんちゃう?」と。確かに日野は浅いボールを上げた。しかし彼は言う。「その前に坂上がきついコースに打つから」と。
こうして責任は巡り巡って、最後は俺の自業自得ということになった。さすがの俺も返す言葉が無いほどのチームワークであった。
しかし、何はともあれ晴れて退院した俺は、重要なことを思い出した。
「今夜は、ウィンブルドンの決勝じゃないか」