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 屈辱の日曜日が明けて、いつも通り空いた七間通りをのらくらと自転車で走っていると、不意に嫌なことを思い出した。

 今週の金曜日から七夕祭りじゃないか。ああ、我門の顔が見たくない。

 家に引き返したい気持ちをやっとのことで堪える。試合で負けたばかりだというのに、なんという泣き面に蜂……いや、待てよ。まだ誰とも一緒に行けないと決まったわけじゃない。今から誘っても遅くはないではないか。

 俺は久しぶりに自転車を思い切りこいで学校に向かった。

 正門を通過するとチャイムが鳴った。どうやら三時間目の終業ベルらしい。休み時間中なら面倒な入室許可証を書かなくて済む。運も向いてきたかもしれない。

 階段を一段飛ばしに上がって二階の渡り廊下に出ると、ちょうど教室へ向かう二年五組の面々が歩いている。俺はすぐに廊下の突き当たりを右に曲がろうとしている三人組の一人に堀川さんがいるのを見つけた。やや残念なことにポニーテールじゃないが、とにかく小走りで近づく。

「おはよ」

 声をかけると三人同時に振り向いた。堀川さんと原さんと城崎さんだ。

「あ、おはよー」

 と堀川さん。

「早くないけど」

 と原さん。

「坂上くんにしては早いかも」

 と城崎さん。

「堀川さん、今日は何で髪結んでないの?似合ってたのに」

「あっ、坂上くんもそう思う?私もさっき言ったんだよ」

 原さんが同調してくれる。

「だって、今日は体育無いから……」

 困ったように視線を泳がせている堀川さんの可愛らしさで、危うく鼻血が出そうになる。

「なるほど。ところで、よかったら金曜か土曜か日曜、一緒に七夕行かない?」

 我ながらバウンドする前に相手のサーブをリターンするような唐突さだと思ったが、止むを得ない。

「え……あ、ごめん。私七夕はもう毎日約束があって」

 堀川さんはすまなそうに頭を下げる。

「そっか。いや、無理なら仕方ない。気にしないで」

 落胆で早くも昨日の敗戦を忘れられそうだ。しかし、どう考えても不幸中の幸いというよりも不幸の上塗りである。

「残念だったなぁ。坂上くん」

 原さんがぽんぽんと肩を叩く。何だかとても嬉しそうだ。

「ごめんね。その約束の内の一つは、私たちとなの」

 すまなそうに言っている城崎さんも、口元が笑いを堪えているのは俺の気のせいだろうか。

「どう、私たちを誘ってみる?」

 原さんはガバっと城崎さんの肩に腕をまわした。

「もちろん。どうかな?一緒に七夕」

「ごめーん。私も全部予定入っちゃってるの」

 原さんは非常にわざとらしい謝り方で断ってくれた。

「ぷ、ふふ、実は私も。ふふふ、ごめんね」

 城崎さんはすでに笑いが我慢できてない。

「非常に残念だ。来年こそは一緒に行こう。それにしても、どこで何の授業だったの?」

「生物。実験だったの」

「坂上くん、結構休んでるけど、大丈夫?」

「いざとなったら、君たちに教えてもらうさ」

 原さんと城崎さんはけらけらと笑った。

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