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堀川さん、君はやけにおっぱいの発育がいいではないか。テニスボールが二個入ってるみたい、と考えながら見つめていたら急に堀川さんがこっちを向いたので、焦って視線を逸らし、そのせいで危うく首の筋を痛めそうになる。
「そういえば坂上くんって、テニスのことを忘れちゃったって聞いたけど本当なの?」
「残念ながら、本当」
しかし今は君がいるからもう過去には拘らない、と言おうとしたが、その前に堀川さんに言葉を継がれてしまう。
「一カ月前の球技大会であんなに活躍してたのに、残念だね」
「応援してくれてたの?」
「うん。ウチのクラスで唯一決勝まで残ってた種目だったから、皆で応援してたよ。気づかなかった?」
「いや、多分忘れてるだけだ」
俺は初めて記憶を失くしたことを残念に思った。女の子たちに応援されつつもそんなに活躍していたのか。そんな貴重な記憶を失くしていたとは自分のサービスゲームを40―0からの逆転でブレークされたよりもへこむ。
「ほら、あれ」堀川さんは黒板の上の賞状を指さす。「あれ見ても思い出せない?」
『第三回大原高校球技大会 男子テニス 優勝 坂上陣』
おお、俺は優勝したのか。まあ西田先輩はもう卒業したからな。
「うーん……」
「坂上」
俺が必死に記憶を手繰っていると、教室の入口から誰かが呼んだ。見ると日野だった。
何しに来やがった、こいつ。選手が必死のラリーを繰り広げている時に大声を上げる観客のように空気を読まない日野の行動に、俺は怒り心頭に発しかける。
「なんだ?」
「今日は女子がピロティを使わないらしいから、ネット打ちをやろう」
「駄目だ。今は掃除中」
「もうほとんど終わったから、大丈夫だよ」
堀川さんは優しく言う。
「しかし、堀川さん……」
「テニスの練習でしょ?頑張って」
確かに掃除はほとんど終わっている。ここで堀川さんのエールを前にして教室にしがみつけば、アウトボールを避け損なってポイントを取られた時に匹敵するくらいみっともないだろう。俺に選択の余地はなかった。
「ごめん、じゃあ後を頼む」
「うん」
俺は日野と連れだって教室を出た。そして、すぐに今日が掃除当番最後の日であることに気がつき、靴を履き替えながら必ずや日野に復讐することを固く胸に誓った。




