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神奈川県立大原高校のテニス部には豪打で鳴らした男がいるそうな。無類のストローカーである彼は、よくボレーのことを「ストロークのできない奴が考え出したコスい打ち方」と言ったらしいが、彼はさほどボレーが得意でないという。もう少しマシな負け惜しみは無かったのだろうか。一方、彼が好んだのは強打の応酬らしく、空いたサイドにボールを叩き込んだ時の喜び方たるや阿呆丸出しであると専らの評判だそうだ。しかし最も好んだのは意表を突いたプレーであるという。相手ばかりでなく、観客、延いては自分の予想さえも超えたことをするために試合そっちのけで全力を傾けたと言うが、それならそいつは何のためにテニスをしていたのだろうか。そんな奴がいようとは些か信じがたい。さらに、その男というのが俺のことであるという意見に関しては、もう全く信じられない。