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 九月、十月、十一月と、ナイター照明などない大原高校では、日に日に練習時間が短くなる。それでも無用な悪ふざけが占める割合は減らないので、練習時間はいよいよ有るのか無いのか分からなくなる。ジャパンオープンが過ぎ、ATPワールドツアーファイナルが終わっても、俺のテニスは驚くべき上達など一向に見せなかった。むしろ驚くべきなのは、一回も途絶えることなく眠るたびに陣子がコーチをしてくれたことだ。おかげですでに二カ月の間、文字通り寝ても覚めてもテニスである。

 時折講義を挟むものの、毎回試合をしているので、この二カ月の間に俺の脳内での試合経験は凄まじい量になっていた。実際に体を動かしてはいないのでイメージトレーニングにあたるのだろうか。だとしたら一度も勝っていないのは甚だ逆効果な気がする。

 パァン。

 この試合も陣子が24ポイント連取して試合を終わらせた。

「はい、ゲームセット。これで、わたしの八十八勝〇敗だね」

「陣子ちゃん、強いねぇ」

「ちょっとは悔しがりなよ」

「まるでプロ対アマチュアだ。悔しさの入りこむ余地がない」

「本当に?八十八回試合して1ポイントも取れてないんだよ。今のところ、わたしが2012ポイント連取してるんだよ」

「そんな数字を並べても俺はビクともしないよ」

「じゃあ、八十八回もわたしの体を好きにするチャンスを逃してるんだよ」

 危うく悔しさに落涙するところだった。やはり俺自身だ。勘所は抑えている。

「今日はやけに闘争心を煽ろうとするね」俺は精一杯普通に振舞いながら話題を逸らす。

 陣子はふうと息を吐いて間を取った。

「これはわたしの勘なんだけど、青松地区の団体戦が終わるまでにテニスが戻らなかったら、陣くんのテニスはもう二度と戻らないと思う」

「勘だろ?」

「勘だよ。女の勘」

 自分の分身に女の勘と言われてもしっくりこないのは、俺のせいではあるまい。

「そうか。それなら、試合に勝つイメージが必要だな。次の試合、俺に勝たせてよ」

「そんなこと言って、勝ったらそれを口実におっぱい揉むことしか頭にないのがバレバレなんだけど」

「くそ、俺のくせにそんなエロ可愛いナリしやがって」

「悔しかったら、勝ってみなさいよ」

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