ばかやろーと僕。
あの日は、まだ蝉の鳴いてる季節だった。
太陽がアスファルトを照りつけ、そこに居るだけで汗をかくような。
まるで、鉄板の上に居るのではないか。と、想像してしまうくらい、暑かった。
遠くには、ゆらゆら揺れる陽炎があって。
何で夏はこんなに暑いんだ。と、愚痴を溢しながら僕は歩いていたのを覚えてる。
溜め息をつきながら、僕は人の沢山居る所へ向かった。
そこは、人が密集してるせいで、余計暑かった。
何故、現代社会はこんなに、狭いところに建物を密集させるのだ。
土地の有り余る田舎を使え。
そんなことを考えながら、目的地を目指していた。
そこは大きな病院で。
救急車が、熱中症と思われる人を運んでいた。
僕は、そんなこと気にせずに、病院へ入っていった。
僕自身が、病気な訳では無かった。友達が此処に入院していたのだ。
だから、僕はわざわざお見舞いに行ったんだ。
ソイツが生きてると確信してたから。
確かにアイツは生きてた。だけど、死んだようだった。
ううん。もう、死んでいたのだ。
さっきまでは、鬱陶しいくらい、暑かったはずなのに。
僕の体はあり得ないくらいの寒気を感じていた。
寒くて、震えが止まらなかった。
止めどなく、僕の目から溢れる涙が、床を濡らしていた。
『はいけー、晴矢へ。
俺が死んだらお前は泣いてると思う。
だって俺の事大好きでしょうがないから。
でも、笑ってろよ?
お前は、青空だから。
太陽みたいに曇りの無いかおで笑っとけ。
お前の名前みたいにな。
お前の漢字から棒一本減らしたら“晴天”なんだからな。
だから。
いつか会えるまで。
すずはもっとけよ?
きらいになってもいいから。
だけど。
ばかみたいなおれだけど。
かがやいてる、思いでだけは。
やり残すことないように。
ろうそくで、もやしておけよ。
うそばっか言って。こまらせてごめんな。
どうか元気でな。』
「何この意味分かんない手紙ッ…。」
僕のこと、馬鹿にしてんのかよ。
「ぼくだって、ーだいすきだばかやろうっ!」
涙混じりの声に、アイツは気づいただろうか。
気づかなくていいけど、これだけは言わせてもらう。
「もっと文章力つけろよ、ばーか。」
それと。
拝啓から始めたなら、敬具でしっかり終われよバカ。
***
「はーるや。」
「なに。」
「晴矢ってさぁ、ツンデレ?」
アイツの死から、もう。何年経ったのだろうか。
いまでは僕も、楽しく学生生活を送っている。
そして、僕のとなりには、アイツみたいなちゃらんぽらんな友人もいる。
ちょっとアイツに似ているのは、気のせいにしておこう。
「そう。龍一は僕に殺されたいんだ。」
「そーいうプライドの高いとことか。
何か猫みたいだよな。
あと、殺されるのは勘弁な」
そうやって、にこやかに話すコイツに。
アイツを重ねてしまうのは僕の悪い癖なのだ。でも、意外にも、楽しく暮らせているのは、まぎれもない。龍一のお蔭なのだろう。
「晴矢、学校行こ?」
そして。もう馴れてしまった寮生活に、少し、楽しいと思うのは、龍一のお蔭なんて、内緒だ。
***
「はる、おはよー」
「おはー」
クラスメイトが、ボタンを見かけると挨拶するのも、恒例だ。
{拝啓、ばかやろうな駿。}
僕は今。とっても幸せだよ。
駿が居ないのは、詰まらないけど。
アイツらに出会えたことに感謝してる。
ばかやろうな、駿。
僕は。
また新たに、大切な友達を作りました。
そいつは。お前のような、ばかやろーです。
でも、そいつのお陰で毎日が楽しくて、幸せです。
ありがとう。
ぼくは。今も昔も。
駿のことが大好きだ。
ばかやろー。
いつかまた、ふたり笑い合える日を楽しみにしてます。
敬具
晴天の空を見上げて、僕は叫ぶんだ。
「「駿のっ、ばかやろー!!!」」
届くといいなぁ…。
僕の気持ち。
本当に。
大好きだばかやろー
「龍一、いこ?」
「おう。」
また。会う日を_______________。