-Side Episode-03 冒険者
「そ、それでは冒険者の登録の方をさせていただきます。わ、私は担当のモニカといいます。よ、よろしく……です」
やはりびくびくと怯えながらも紹介を行うモニカ。
分からん。俺は普通に接しているつもりなのになぜここまで怯えられるんだ?
「ああ、俺の名はヴォルフだ。よろしく頼む」
とりあえずこちらも紹介をしておく。
仲良くなる必要があるかはしらんが会うたびに怯えられてもあれだしな。
「は、はい。え~っとそれでは最初に冒険者の登録を行います。その後クエストや報酬、ランク等の説明を行いますので……」
怯えながらもいったん始まればすらすらと喋るモニカ。
多少問題が起きても業務の方はしっかりやってくれているようだ。
「それではこちらのプレートに手を置いてください」
モニカが出したのは手の形の凹みがあるお盆程度の大きさの銀色のプレートであり、更にプレートの上部にはスマホ程度の大きさの同じ銀色のプレートがはめ込まれている。
俺は指示に沿って凹みの部分に手を乗せる。
すると手形の部分から回路の様な淡い水色の光が走り上部に嵌め込まれたプレートに集まっていく。
少しして光が途切れ、全ての光がプレートに吸い込まれるとモニカはプレートを取り出しこちらに渡してくる。
「今のは?」
「各冒険者に配布している冒険者個々人を識別するプレートです。主にこれでクエストの受注や報酬の支払いなどを行いますので絶対に無くさないで下さいね!有料で再発行は可能ですが見知らぬ誰かに自分のプレートを悪用される場合もあるので肌身離さず持ち歩くようにして下さい!」
声を強めて言われる。
…………ていうかまんまスマホじゃねーか!?
魔法ってほんとに便利だな。
「わかった。気を付ける」
「はい!」
というかまぁ、経験者みたいなもんだしね。
個人情報の詰まった機器は大切に扱えなんて、いつもやっていたことだ。
「え~、登録が済んだようなので、次はクエストですね。主に冒険者に出されている仕事は以下の二つになります。依頼と討伐です。依頼の方はそのままの意味で商人や貴族様、又は地方の民などから寄せれた仕事で業務内容は依頼によって色々です。報酬内容も物品支給だったりする場合があるのでよく確認して下さいね。」
うんうん。畑を荒らす魔物を退治してくれとか商人のキャラバンの護衛をしてくれとかね。
よくある奴だな。
「次に討伐ですがこれは常時奨励されているもので、魔物を討伐すれば各魔物ごとに討伐報酬が支払われます。さらに魔物から剥ぎ取った素材を売却していただければ追加で報酬を支払いますのでどんどん討伐してください!」
「ん?魔物を討伐するだけでも報酬が貰えるのか?」
「はい、人間の開拓領域を増やして領土の拡大を図る目的がありますので、こちらはラグナ王政府からも奨励されている事です!」
ああ、なるほど。
農耕や牧畜をやりたいけど魔物が邪魔で出来ないから冒険者に頼んで魔物の討伐を積極的にやって貰うってことね。それ以外にも鉱山の開発や通商ルートの新規開拓とかもあるだろうしな。
「次に冒険者のランクについてですが、冒険者には強さや能力によって階級が設定されており、主に討伐成果によって上位のランクに上がります。これらのランクは無闇に上位のモンスターを刺激して問題を起こさないように、また無謀な挑戦によって安易に死者を出さないことを目的として設定されております。」
こんなところでも上下関係が徹底されているのか。
にしても結構冒険者って存在を大切に扱っているよな……。
立場はどうあれ王国の民だから?有事の戦力だから?
う~ん、分からん。まぁ、俺が気にすることじゃないか。
「冒険者はランクごとに侵入可能なエリアが異なりますので注意してください。あと、仮に自分のランク以上のモンスターを討伐しても討伐報酬は発生しないのでそこも注意して下さいね。素材の買い取りはしますけど」
侵入可能なエリアってのは上位のモンスターがいるエリアに入れない様に制限することで未然に無謀な挑戦をすることを防いでるってわけかな?
討伐報酬の不払いも一種の制裁みたいなもんだろうか。
「ランクは下からE,D,C,B,A,となっています。えっと、ヴォルフさんも最初はEからです」
「ああ、まぁ気長に頑張っていくさ」
「は、はい。説明は以上となります。お疲れ様でした」
「ああ、ありがとう。お疲れ様」
「…………」
なんだかモニカちゃんがポ~、っとこちらを見つめて固まっている。
んん?なんだ?俺何かしたか!?
「え~っと…………どうした?」
「……っ!す、すいません!そんなに礼儀正しくお礼を返してくれる方ってまったくといっていいほどいなくて、ちょっと呆けちゃってました」
なるほど、そういうことか。
確かに冒険者っていかにも荒れくれが多く礼儀とかは無さそうだしな。
まぁ日本人って礼儀には割とうるさいし、人によってはコンビニの店員にまで礼を言う人もいるくらいだしな。
「なに、それくらい当然の事だ。なんならもう一回言ってやろうか?」
冗談のつもりで返してみた。が、
「え?…………えっと…………お、お願いしてもいいですか///」
やべぇ。
頬を赤らめて恥ずかしがっている顔が萌える!
なんということだ!萌は世界共通だったんだな!
ならばこちらも期待に応えよう!
「ああ、お疲れ様」
俺としては感謝のつもりで、ここに来てようやくヘルムを取りながら精一杯のイケメンボイスで答える。
そうするとどうだろう、このギルドに集まっているすべての人間の目が集まったと思ったら皆が固まり、呼吸を忘れてしまっていた。
え?ひょっとしてまずいことしちゃった?
このキャラ作ったの半年以上前だから細かい顔の造形覚えてないんだがひょっとして凄い不細工だった?
「……カッコいい///」
なんと、今の俺の顔は客観的に見てカッコいいらしい。
モニカちゃんの頬が薔薇色に染まっている。
「……カッコいいのか?」
「は、はい!とっても!」
「……スマンが手鏡とかは無いだろうか?」
なんだか自分も無性に気になってきた。
これは是非とも確認せねばならん!
「は、はい、どうぞ」
モニカちゃんがカウンターの脇に置いてあった手鏡を渡してくる。
女の子らしい。赤く小さな、花の装飾が付いた手鏡だ。
渡された手鏡を受け取り顔を見る。
そこに映っていたのは獅子の様に尖った堀の深い険しい顔つき。
輝く銀髪に翡翠の様な宝石の瞳。
どこか憂いを感じさせる、強さと威厳、優しさと慈愛を感じさせる尊顔がそこにある。
長ったらしい装飾を省いて言うと……イケメンだってことだ!しかも最上級!
「…………ありがとう。これ、返すよ」
「は、はい」
「…………」
エレノアやクレアさんも含めてみんな固まっている。というか呆けているといった方が正しいのか?
というか自分でもこんなにイケメンだとは思わなかったな。
元の体がどこにいったのか、どうなったのかわからない状況で喜んでいいのか知らんが、まぁラッキーだとでも思っておこう。
しかし鎧もそうだがこんな見た目じゃすぐに噂になりそうだな。
もうこの時点で面倒事の予感しかしないんだが……この先大丈夫なんだろうか?
まあいい。みんなが呆けている隙にさっさと出ちまおうか。
クエストなんかは明日確認しようそうしよう。
「じゃあな……また来るよ」
俺はヘルムをかぶり直し、二人の受付に軽く手を振り颯爽と出口に向かって歩いていく。
だがそこでエレノアも付いてきた。
「ま、待ってくださいよ!ヴォルフさん!私も一緒に!」
まだ付いてくるのか……俺はこれから一人静かにメシを食おうと思ってたんだが……。
まぁ、もう少しだけ一緒にいてもいいか。道案内の礼も兼ねてな。
そこでようやく俺たちは静かになったギルド会館を後にした。
まだ説明回って感じですね。
次回はタクミ(幼女)編です。
余談ですがヴォルフは最初ナイスミドルなおっさんにするつもりでした。