-Side Episode-02 街
現在の俺はとてもハラが減っている。
詳しい時間はわからないがあれから数時間ほど経っている。
ひょっとしたらあの黒いイノシシって食えたのかな?
なら料理してもらえばよかったかな?
などということを考えつつヒロとエレノアは進んでいる。
ヒロがチラリとエレノアの方を見やる。
あまり上等ではなさそうな粗末な上着にズボン、鎧の類は身に着けておらず。寄せ集めた木材におそらくは何かの動物の皮だろう。を張り付けた盾と小剣を装備している。
装備は粗末なものだが顔の方は中々整っている。
髪は青みがかった黒のボブカットで大きな瞳がやや幼そうに見える。
体系の方はよく分からんがまぁ、普通なんじゃないか?
「あ、あの~……どうかしましたか?」
と、いかん。じろじろ見すぎたか。
「いや、失礼。重くはないだろうかと思ってな」
「いえ全然大丈夫です!私、鍛えてますから!」
力瘤をアピールするようなポーズを取るエレノア。
なんだか元気な子だなぁ、などと呑気なことを考えていたらエレノアが声を上げた。
「あ!見て下さい!街が見えてきましたよ!」
エレノアが指さした方を見ると、確かに大きな壁や門が見える。
ようやくついたか、さっさと飯屋に行こう。うんそうしよう。
門の前まで着くと衛兵が声を掛ける。
「ようエレノアちゃん!今日は沢山収穫があったみたいだな」
衛兵は主に胴体と腰を守るハーフプレートを着込んでおり腰には短剣を差し長槍を持っている。
衛兵のこの男、気軽にエレノアの名前を呼んでいるところを見るに少なからず交友があるようだ。
「いえロイスさん、違うんですよ。実はこの騎士様が討伐した魔物の素材を譲ってくれたんですよ!」
「ええ?、はぁ~たしかに騎士みたいだが……ウチの正式な鎧とは形が随分と違うなぁ?」
なんだか怪しまれているな。まぁそうだろう。
俺もこんないかつい鎧来た男が現れたら思わず写真の一枚でも撮ってしまいそうだ。
「ひょっとして外国の方かい?」
「……まぁ、そんなところだ」
当たらずとも遠からず。
まぁ、たぶん異世界から来ました!なんて言えるわけないが。
「まぁ、いいや。とりあえず名前と入国目的を教えてくれ」
ロイスと呼ばれた衛兵が短剣を下げているのと反対の腰に下げている筒から用紙とペンを取り出す。
「あ!」
そこにエレノアの驚くような声が響き渡る。
大きな声に俺とロイスがそちらを見る。
「うぉ!?びっくりした!どうしたの?」
「いえ、そういえば私も騎士様の名前聞いてなかったな~って!」
能天気な笑顔で答えるエレノア。
そして呆れたような諦めたような溜息を吐く二人。
「……え~っとそれじゃあ名前は?」
ロイスが仕切りなおす様に名前を尋ねてくる。
名前か……本名でもいいが、面倒事が起きた時に逃げられるように偽名にしとくか。
そういやこのアバターの名前って確か……。
「……ヴォルフだ」
そうそう、確かヴォルフガングって名前だったはずだ。
天空城の王様をやってるアバターだからこんな気合入れて作ったんだった。すっかり忘れてたぜ。
まぁ、長いからヴォルフでいいだろ。
「ヴォルフね……はい、んじゃあ入国目的は?」
「食い扶持の当てを探して……とでも書いておいてくれ」
「なんだそりゃ?難民じゃねーんだから」
といいつつもしっかり用紙に書きあげるロイス。
実はマジなんだけどな……。
更にいくつか書き終わるとそこでロイスは笑顔で切り出した。
「よし、それじゃあ”ようこそ!王都ラグナへ!”」
今俺たちは町中を歩いている。
通りはそこそこ広く賑やかでテントを張った出店などが商品のアピールを行っている。
空腹時にこれは中々キツイ。
「それでエレノア……だったか?今どこに向かっているんだ?」
こんな鎧を着込んでいるせいでめちゃくちゃ見られている。
早く腰を落ち着かせたいものだ。
「はい、ヴォルフさん!私たちは今冒険者ギルドに向かってます!」
冒険者ギルド……ねぇ。
やっぱりここはファンタジーな異世界なんだな、と改めて納得させられる。
「実は私も冒険者なんですよ!といっても全然成果を出せて無いもんだから最低のEランクなんですけどね……」
あはは、とごまかす様に笑うエレノア。
確かに仲間もいないし装備も貧弱だから少なくとも高位ではないだろうと思っていたが。
「あ、着きました!ここがその冒険者ギルドですよ!」
ギルドの建物は中々立派だった。
二階建ての木造建築でちょっと大きなお屋敷という感じの建物である。
中に入るとそこは吹き抜けの空間でロビーの様になっている。
すぐ前には受付のカウンターがあり部屋の両脇には二階へと続く階段がある。
それ以外にもロビーには机と椅子が4~5セットほどありそこでは数人の冒険者がたむろしている。
また階段下のデッドスペースには大きなボードがあり大量のメモ用紙の様なものが張り付けられている。
「あ?」
「なんだ?あいつは?」
「……」
エレノアは何も思われなかったようだがその連れの俺を見た途端に訝しげな視線が送られてくる。
俺は少しの間立ち止まり様子を窺う。
「?ヴォルフさん?」
エレノアが不思議そうにこちらを見つめる。
「いや、大丈夫だ。行こうか」
「はい!」
俺たちはそのまま歩みを進めカウンターの前まで到達する。
担当の子は何人かいるがエレノアが話しかけたのは正面の茶髪のポニーテールの女性だ。
ギルド職員であるという事を示す為か事務的な制服を身に着けている。
「すいませんクレアさん、この素材の買い取りお願いします」
「分かりました。ちょっとお願い」
後ろに控えていた作業着風の男性に目くばせをし、毛皮と牙を受け取らせる。
「え~っと、何々?……ブラックボア?あなたこんなモンスターを倒せる実力ないのにどうやって素材を手に入れたの?」
クレアと呼ばれた女性が素材の鑑定結果に目を通し驚くような目を向ける。
「それが実は薬草採取してたところをブラックボアに襲われちゃって、もう駄目だ!っていうところをこのヴォルフさんが助けてくれたんです!」
まるで自慢するようにこちらを紹介するエレノア。
そんなアピールしなくていいから、と内心思いつつ自己紹介を行う。
「ヴォルフというものだ。こちらのギルドで冒険者として働きたいのだが、どうすればいいか教えてくれないか?」
こちらの背の高さとと鎧のせいで半ば威圧するような形になってしまいクレアさんが軽く身を竦めてしまった。
「は、はい。かしこまりました。えっとそれでは左のカウンターで冒険者登録を行ってください」
完全に委縮してしまったのか恐る恐るといった調子で左のカウンターを指し示す。
「……そう怯えなくていい。別にとって食おうというわけじゃないんだ」
「ひゃ、ひゃい!」
軽く片手を出し落ち着け、というようなポーズを取ったら完全に逆効果になってしまった。
どうやら完全に怯えられているようだ。
この鎧ってそんなに恐ろしいか?
俺が自分のイメージに対して不思議がってる横でエレノアがクレアに対して何やらフォローをしている。
「大丈夫ですよクレアさん。ヴォルフさんって雰囲気はちょっと悪そうな感じだけどすごく親切な人だから!」
……ぶっ飛ばしたろかコイツ。
などとストレス解消の方法を考えつつ俺は隣のカウンターへ向かう。
やって来たが隣の子も完全に委縮してしまっている。
こちらの子は長い金髪をお下げにしており顔立ちは随分若く見える。
ついでに外見年齢にそぐわないほど胸が大きく身を縮めるように挟んだ両腕に潰されて、更に強調されている。
なんとも嗜虐心を煽る子だ。
「先ほどクレアという女性に言われて来たんだが、冒険者の登録はここでいいのか?」
「……ち、違います」
・・・え?
「(ちょっとモニカちゃん!ちゃんと対応しなさいよ!!)」
「(無理です無理!!普通の荒くれとかならまだ大丈夫ですけどあの人威圧感とか迫力とか凄いんですもん!!)」
クレアさんにモニカちゃん?聞こえてますよ君たち。
何やら時間がかかりそうだ。と、また溜息をついた俺は先にメシを食べておくんだったと後悔した。
もう一話ほどヒロシ編が続きます。
以下設定
ロイス 王国に所属する兵の一人
門を任されているあたり実は偉い人 年齢は40歳程度
クレア ギルドの事務員の一人 年齢は20歳程度
モニカ ギルドの事務員の一人 年齢は16歳程度
次話との齟齬を発見したので修正
クレアがブラックボアの素材を確認する件