02 天空城
僕の意識が覚醒したとき、そこは何もない白い空間だった。
僕は特に驚きもせずにハンドアクションで手を上から下へ軽く振り、メニューを呼び出す。
メニュー画面をいくつか操作した後、マイルームという項目がありその項目をタッチすると部屋の建設映像を早送りしているように風景が変化して僕はマイルームに到着した。
「よ、タク」
いかにも高級そうなふかふかのソファに座りながらのんびりティータイムを楽しんでいる男がいる。
ヒロだ。
ヒロの奴、さっきの電話はVRMMOの中からしてたのか。と僕は納得して同じようにソファに座る。
「ヒロ、僕にも紅茶くれ」
「あいよ~」
飲み物の催促をヒロにしたところヒロは紅茶を飲みながら左手でメニューを召喚し、なにやら操作をした後、僕の目の前に紅茶が”形成された”
作られたそれを一口すする。紅茶の味について僕はあまり知らないが、少なくとも二杯目も三杯目も飲めると思う程度には美味しいと思った。
この男、ヒロは名前を古賀弘といって僕の高校時代からの親友だ。
リアルでも僕とヒロはモノ作りが好きで同じ大学に入り長い間交友が続いている、親友という奴だ。
とは言ってもヒロの奴は僕と違い結構活動的で運動部にも入ったりしてたんだけど。
少しして紅茶を飲み終えた僕とヒロ。
「よし、んじゃそろそろ始めるとしますか!」
ヒロはメニューを操作して、マイステージの中に登録されている内の一つ”天空”に決定ボタンを押す。
そうすると高級感漂う部屋の壁面がボロボロと崩れるような演出の後、砕けた壁面の隙間から澄み渡るような大空が顔を覗かせた。
冷たく荒々しい、がどこか爽快な気分にさせてくれる風が吹いている。
ふよふよと空中を漂うような状況の二人。
「それじゃ次は僕だな」
僕はヒロと同じようにメニューを操作して”天空城”を召喚する。
そうすると僕たちの足元から青く発光したオブジェクトのフレームの線が爆発的に広がっていく。
下に向かって行くフレームは岩肌を構成している為がくがくと乱雑にでたらめに進んでいき、上に向かって行くフレームは真っ直ぐ伸びる、滑らかな円弧を描いていくといった風に規則的に進んでいく。
全てのフレームがオブジェクトの構成を終了すると、全体が一瞬光ったかと思えば瞬時にそれが光の粒となって弾け、その次の瞬間にはテクスチャの構成が完了している。
これで天空城の召喚は完了だ。
「う~ん、いつ見ても美しいね~」
ヒロが溜息を洩らしながら称えるようにつぶやく。
自分でいうのもなんだが確かにこの城は思わず頭を垂れてしまいそうな厳格さと惚れ惚れとするような美しさ、更には見るものを圧倒するような力強さを感じさせる。
この城はかの有名なモン・サン=ミシェルやノイシュヴァンシュタイン城にドラキュラで有名なフニャド城などの建築様式をベースに様々な魔改造をほどこしミックスさせて完成させた僕の中の最高傑作の一つだ。
「ああ、やっぱりいつ見てもカッコいいな……」
僕がうっとりと見惚れているとヒロが”もう行くぞ”、といった風に僕の肩をついてくる。
僕は頷いて、またメニューを開き片手用のコントローラーを召喚する。
チラリと隣を見るとヒロも同じ操作をしていた。
このコントローラーはマジコンという微妙に怪しい名前で呼ばれているコントローラーだ。
主に高いところに登るのが面倒、といった時に使うもので、このコントローラー一つで自由に浮遊、降下が可能になる。他にも大型オブジェクトの移動や複製などの操作も可能だ。
まぁ、このコントローラーがないと何も出来ないというほどじゃないけどね。
僕とヒロはコントローラーを操作して城の最上階にある巨大な吹き抜けの空間に到着する。
巨大な円形の空間。それこそどこかのホールや体育館ほどの広さが広がっており、その空間を外周に沿うように規則正しく建てられた数十本の柱が並んでいる。
端の方には本来徒歩でこの場所に来るべきなのだろう下の階に続く階段が見える。
そしてその窓すらない吹き抜けの空間の中央には大きな一本の樹が見える。
これが最初にヒロが言っていた『樹』だ。
現在の『樹』は土台となる鉢の部分と土、そして木の根と幹が中途半端な部分まで伸びており、そこから先は青いフレームがやはり中途半端に伸びているといった感じだ。
「それじゃあ、俺は面貼りの続きやっからタクはフレームの続き頼むわ」
「りょーかい!」
ヒロが言っている面貼りというのはそのままの意味で、すでに完成している部分のフレームにテクスチャを貼ることだ。
僕の方はFrameWorks内で様々なテクスチャやフレーム、オブジェクトが無料公開されているプレイヤーの間では”らくがき倉庫”と呼ばれている場所から拾ってきた、種類も豊富で大小様々な木のデータを試行錯誤しながら繋ぎ合わせている。
FrameWorks内ではこんな風に自分が製作したオブジェクトを広く公開し合っており、最近では完成された作品に第三者がさらに改良の手を加えるなどでVer.UPが次々に繰り返されたりしている。
このおかげでクオリティの高い作品や汎用的なオブジェクトが非常に多く公開されており、誰かが素晴らしい作品を完成させる度にFrameWorksプレイヤーが作り上げた作品のクオリティが底上げされるといった状態になっている。
MMDみたいなゲーム
ていうかまんまですね。