元勇者様と護衛達
周辺の街からゴワムの街に浄化の砂は運び込まれた。
あとは目的地に運ぶだけだ。
浄化の砂を運ぶ場所は死霊の沼。
魔王が生きていた頃は様々な場所で魔物と人の戦いがあった。
ゴワムの街の近くでも魔物の大群と人間との大きな戦いが繰り広げられる。
その戦いで人間と魔物の双方に大きな犠牲が出てしまう。
人間と魔物、多くの死体が転がっていた戦地。
そこでは強大な魔法が何度も使われており地盤が弱くなっていた。
このため、後に降り続けた雨により地盤が崩れ大きな穴ができる。
この巨大な穴に雨水が溜まり沼ができた。
人間と魔物の死体が大量に沈んだ死霊の沼が……
この沼には人間と魔物の思念が多くこもっている。
結果として死霊の沼からは、多くのアンデットモンスターが今も生まれている。
更に沼の影響で周囲の土が紫色に変質した。
変質した土は変な性質がありモンスターに突然変異が生じやすくしている。
これらの理由から沼の浄化を今回、行うこととなった。
~ゴワムの街~
「では、行こうか」
「はい」
僕達は、これから浄化の砂を死霊の沼へと運ぶ。
多くの護衛をまとめるのはシェルファさんだ。
僕は極大魔法を使える貴重な人材として同行する。
極大魔法の使用に専念するため移動中の戦闘には参加しない。
死霊の沼に行くメンバーは……
護衛は40人
極大大魔法使用者は12人
浄化の砂の運搬などを手伝う人間が60人
かなりの大人数での移動だ。
で、僕は馬車に乗って移動している。
護衛としてリーザが僕の隣で待機中だけど……
「…………(チラチラ)」
「…………」
「…………(チラチラ)」
「…………」
「…………(チラチラ)」
「言いたいことがあったら、言ってくれないかな?」
先程からリーザは僕の方をチラチラ見ている。
笑いをこらえながら……
「…………(チラチラ)」
「無言でチラ見されるのは、本当に精神的にキツイんだけど」
「…ヒーローごっこ?」
リーザが言ったヒーローごっこ。
それは僕が赤い仮面を着けていることから出た言葉だ。
(ひょっとして厨二病?)
僕はリーザに指摘されて、初めて自分がやらかしていることに気付いた。
だが既に手遅れだ。
何故なら絶対に見られてはいけない人物に、この姿を見られたのだから……
「笑ってもいいよ」
「…それは、もったいない」
「時間をかけて僕をいたぶる気かい?」
「…(コクッ)」
リーザは大笑いをして話を終わらせてくれなかった。
代わりに時間をかけてイタぶる事を選んだ。
彼女の選択を僕は驚かない。
なぜなら覚悟をしていたから。
………
……
…
「ココからは、地盤が緩いから歩いての移動になるよ」
シェルファさんはメンバーに向かって声を張り上げた。
既に周囲にはアンデットモンスターの嫌な魔力が立ち込めている。
リーザも笑みを止め……ることはなく僕を嬲るような笑みを浮かべている。
周囲ではソリのような物に浄化の砂を移している。
このソリのような物を人の手で運ぶ。
ソリには摩擦を減らすため、魔法がかけられている。
それでも運ぶのはキツそうだ。
しばらく経つと浄化の砂等を移し替えるのが終了した。
だが全てを移し替え終わったわけではない。
何度か往復して浄化の砂は運ばれることとなる。
まあ、僕は極大魔法に専念するため荷物の運搬には関わらないんだけどね。
「じゃあ、行こうか」
シェルファさんの声とともに僕達は再び移動を開始する。
ずっと馬車の中にいたが、これからは徒歩での移動だ。
現れるモンスターは全て護衛が片付けてくれる。だから凄く楽だ。
いつも最前線に立たされて大量のモンスターを相手にしていた。
だから護衛の彼等を拝みたいくらいありがたいよ。
「…ユウ」
「なに?」
「…大きいのが来た」
紫色で大人の2倍くらいの大きさのイノシシが遠くから走ってくるのが見えた。
巨大で紫色なだけなら良かったんだけど……体が少し腐っている。
「護衛の人達に任せようか?」
「…無理だと思う」
護衛の人達は、「退避ー」「逃げろー」と叫んでいる。
確かに彼らに期待は出来そうもない。
「…ユウ、頑張れ」
「大丈夫じゃないかな?」
「…?」
護衛の人達は使えそうもない。
でも凄い人がいるから大丈夫だろうね……きっと。
僕が腐りかけのイノシシを見ていると1人の女性が動いた。
「ボクの出番かな?」
その女性は魔力を込めた雪のように白い杖をイノシシに向ける。
「凍てつけ!」
シェルファさんが一言を発すると、イノシシは白い色に包まれた。
その白は吹雪により生まれた色。
自然界では起こり得ない程の冷たい死の風だ。
数秒後、イノシシを包み込んでいた白い色は消える。
「…そう言えば強かった」
「リーザ、自分の師匠を見くびり過ぎじゃない?」
リーザは、自分の師匠であるシェルファさんの強さを忘れていたようだ。
シェルファさんは最強クラスの氷魔法の使い手だ。
彼女が使った魔法によりイノシシは氷漬けになっている。
「しっかり凍っているようだね……よっと」
シェルファさんが杖の先で凍りついたイノシシを突く。
するとイノシシは粉々に砕け散った。
「さあ、隊列を組み直して!」
イノシシを砕いたシェルファさんは声を張り上げて隊列を直すように言った。
隊列は護衛も含めバラバラになっている。
「それからリーザ」
「…?」
シェルファさんはリーザのもとに来て話しかけた。
「帰ったら、修業の時間をタップリととろうか」
「…(首を横に振っている)」
リーザは、顔を青ざめて首を一生懸命横に振っている。
「遠慮しなくてもいい。師匠としての威厳が無くなってきているようなんでね」
「…!!」
さっきの会話は聞こえていたようだ。
リーザは涙ぐんだ瞳で僕に助けを求めている。
「ごめん。僕では力になれそうもない」
「…!!」
リーザの表情は絶望に満ちた物へと変わった。




