元勇者様から逃げる白髪の少女
クルスがラブソングをレイナに贈るのを防ごうとする僕は思いついた。
それは有名な吟遊詩人であるエリアスさんを利用すること。
音楽のプロといえる彼なら上手な説得ができると考えたんだ。
僕はエリアスさんに連絡を入れた。
魔導具には、カードに書いた内容が相手のカードに転写される物がある。
僕は急いでカードに文字を書いた。
もちろんすぐに返信が来るはずも無い。
だから観光区域の方に移動することにした。
観光区域で吟遊詩人としてエリアスさんは歌っていると知っていたからだ。
「ここにエリアスさんがいるのか?」
「分からない!」
「えっ…じゃあなんでココに来たんだ?」
「観光区域には、エリアスさんが来ることが多いと聞いたから」
「ここを探すのか?」
僕達の目の前に広がるのは視界を埋め尽くすような人混み。
建物とかも豪華なうえオペラやらなんやらと楽施設もとんでもなく多い。
「がんばろう」
「帰っていいか?」
「蓄音機は僕のアイテムBOXに入っているんだよ?」
「お前! 最初から計算に入れていたな!!」
クルスが何らかの理由で逃げるのは予想済みだ。
だから僕のアイテムBOXに入れて人質にした。
…これも君の為だ。
~観光区域の街路~
僕達は人混みの中を歩くことになった。
そもそもエリアスさんがいる保証がないんだけどね。
少し探して疲れた所で休憩しながら返信を待つ予定だ。
と、考えた所で僕は致命的なミスを犯したことに気付いた。
(エリアスさんは送ったメッセージに気付いてくれないかも…)
地球のように携帯を持っている人ならこまめにメールをチェックする。
でも魔道具だと持っている人間の方が珍しいしチェックなんて滅多にしない。
僕がカードに書いたメッセージも過去には半年後に気付かれたことがある。
僕は頬を嫌な汗が伝うのを感じた。
「どうしたんだ?」
「少し嫌なことを考えただけ…」
僕は歩きながら別の手を考えることにした。
~~
僕とクルスは街を歩きながらエリアスさんを探した。
繁盛している酒場を見つけてはエリアスさんについて尋ねつづけた。
その結果、色々な店で演奏していることが分かった。
なんでも気に行った店に入って自分を売り込み、その場で演奏するそうだ。
…見つけようがないよね、それ。
僕とクルスは諦めて酒場で休憩中だ。
「枝豆の追加、お願いします」
「酒を飲まないのに、つまみばかり食うなよ」
「そう?」
僕の前には色々なつまみの皿が並んでいた。
これで8皿目だったかな?
(そろそろ間が持たなくなってきたな)
なんとかクルスにラブソングを歌わせるのをやめさせないと。
…もう、どうでも良くなってきたけど。
と、僕が考えていると酒場に入ってきた1人の少女と目があった。
「あっ」
「うん?」
「……………」
「……………」
その少女は僕と目が合うと白い髪をたなびかせて逃げた。
「えっ」
「追うんだ!!」
「な、なんでっ?」
「彼女との間に何があったのかは知らない」
「何もないけど…」
「誤魔化さなくていい!! ココで追いかけないと後悔をするぞ!」」
「そんな事はないと思うけど…」
その後、僕はクルスに説得されフリをして彼女を追いかけた。
僕のアイテムBOXにクルスの蓄音機が入ったままだ。
だから彼女を追いかければラブソングを届けるのを遅れさせる口実になるしね。
ただ追いかける相手が気の重い相手だった。
あの女の子は僕を変態だと思っているミスティだったから。
~街路~
(ミスティを追いかけても変態扱いされるんだよな~)
僕は本気で憂鬱だった。
ミスティにあっても変態扱いされるというのは辛い。
ましてや追いかけたとなると一層酷い扱いになるだろう。
(悲鳴を上げるかもな)
適当に嘘をつこうとも考えた。
でも、あとでクルスがミスティと会ったときに嘘だとばれたら仕事に影響が出る。
だから、探してミスティと少しでも話す必要があると思う。
僕はミスティと会うことを決めると神気を使った。
ミスティはスピードを重視した戦士だ。
多分、本気で僕から逃げているので普通に走っても追いつけないだろう。
神気を使った僕は高まった身体能力を利用する。
壁の凹凸などを使って教会の屋根に昇った。
教会の屋根から見下ろした街路では少し人が騒いでいる。
でも、僕の顔は分からなかったはずだ。
(これって能力の無駄遣いだよね)
神気は時間と回数に制限がある切り札だからとっておきたかったけど仕方ない。
すぐに帰れば危険は少ないだろう。
教会の屋根で僕は神気で強化された魔力探知能力を使う。
するとミスティの魔力をすぐに発見できた。
そして僕はミスティを追いかけた。
~ミスティ視点~
観光に来ていた私は少し浮かれていたのかもしれない。
まさか、こんな所で変態さんと会うとは…
私は料理がおいしいと噂の酒場に入る。
その店の奥で食事をする黒髪の男を見かけ嫌な予感がした。
間違いない。
無害そうな顔の下に凶悪な性癖を隠した変態さんだ。
私が足を止めて、どうするか少し考えると彼と目があった。
「あっ」
思わず声が漏れてしまった。
私は彼と顔を合わせたことで混乱していたのだと思う。
普段ならありえないことだけど私は逃げ出していた。
私は人を避けながら走り続けた。
彼から少しでも離れる為に。
必死になって走り続けて、私は建物の影に隠れた。
そして私は息切れをしながらも影から来た道を確認する。
変態さんは追いかけてこないみたいだ。
私は彼から逃げられたと思い安心していると・
ヒュッ
何かが飛んできて私は短剣でそれを切った。
すると切った物からは粉状の何かが宙に広がる。
「ウッ」
私自身も得体のしれない粉にまみれてしまった。
(なに、コレ?…袋?)
私が足元を見ると布の袋が落ちていた。
先程斬ったのは、この袋なのだろう。
そして袋の中からは白い粉が零れている。
(マズイ!)
私は察知した。
この袋は何者かが私を狙い投げつけた薬品を入れた物だと。
(卑劣な!)
私の脳裏には変態さんの下卑た笑顔が浮かんでいた。
私が人通りの多い街路にでようとすると体に力が入らないことに気付く。
まともに力が入らず歩くこともままならない。
「よう、気分はどうだい。穣ちゃん」
私が声のした方に目を向けると5人の男がいた。
冒険者崩れのような鎧を着た男達だ。
「お、アナタ達は…変態さんの…仲間…です…か」
私は男達の中に変態さんがいないことに気付き尋ねた。
~ユウ~
屋根を足場にしながら移動する。
力を入れ過ぎて屋根を踏みぬかないように気を付けて。
いくつもの屋根を駆けていくと複数の男に囲まれているミスティを発見した。
冒険者風の男たちだ。いや、冒険者崩れか?
…助ければ変態の汚名を返上できるかもしれない!!!
ミスティには手助けなど必要ないだろう。
彼女は恐ろしく強い!
それに敵対者には容赦がなくお金を巻き上げる。
手や足を切り落としたり急所を避けて腹を刺したりして。
そして回復魔法をかけて治療費を請求する。
お金儲けのチャンスを邪魔されたと起こるのでは?
と、思った所でミスティの動きが鈍いことに気付いた。
(ヨロめいているのかな?)
しばらく話を盗み聞きするとマズイ状況だと理解出来た。
(ココまで都合良く変態の汚名を返上するチャンスが来るとは…)
このとき天の采配に感謝しながらも僕は邪悪な笑みを浮かべていたと思う。
(このチャンスは逃さん!!)
僕は長刀をアイテムBOXから取り出す。
そしてミスティと冒険者崩れの間に飛び下りた。
突然現れた僕にその場にいた誰もが驚いたようで目を丸くしていた。
「こんにちわ」
「!」
目の前にいる男に笑顔で挨拶をして…蹴り飛ばした。
すると後ろに10mほど吹き飛ぶ。
(神気を使っているのを忘れていた…)
ピクピクしているから生きてはいると思う……大丈夫だよね?
「ミスティ、大丈夫?」
男を蹴り飛ばしたあと、僕はミスティに声をかけた。
先程の会話から考えると僕をコイツらの仲間だと疑っているのは分かっている。
だから優しく接して疑いを解きたかった。
「やっぱり…アナタが……」
疑いは解けなかったようだ。
むしろ疑いが確信に変わってしまった気がする。
「彼らとは初対面だし関係は全くないよ」
「嘘を……」
「ホラ」
「ムグッ」
僕は、まともに動けそうもないミスティの口に一錠の薬を押し込んだ。
そして口を手の平でおさえて吐き出さなようにしている。
「麻痺に効く薬。僕が彼らの側だったら君は酷いことになるよ」
「ム~」
「君の状態では僕を信じない限り助かる道は無いんじゃない?」
「ム~~」
とりあえず伝えるべき事は伝えた。
だからミスティの口を抑えていた手を離す。
これで説得されてくれると良いんだけど。
「ペッ」
「……………」
「変態の言うことなんて!」
「呂律が回る程度には回復したね」
「えっ」
ミスティが薬を吐きだすのは予想できることだ。
だから麻痺を和らげる魔法を彼女の口をおさえた手で使った。
「じゃあ、終わらせてくる」
僕はミスティに笑って伝えた。
そして僕は神気で強化された力で冒険者崩れに襲いかかった。
………
……
…
「これで大丈夫です」
ミスティは冒険者崩れ達に回復魔法をかけていた。
治療費を請求するために…
「ここまで優しさを感じない回復魔法を初めてみたよ」
「悪党に優しさは必要ありません」
…君の所属する研究所は、非合法な人体実験をやりまくっていたよ。




