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街はずれの錬金術師は元勇者様  作者: 穂麦
真章3 元勇者様と緋色の騎士
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エピローグ 元勇者様と緋色の騎士

僕はディブロスのコアを破壊した。

でも金属と化した森は元に戻る様子はない。


ボスを倒せば全てが元通り…

そんな都合の良いことなど起こるはずもないけど。


「倒せた…のか?」


「ああ、コアは完全に破壊されている。俺達の勝ちだ」


シュメルさんの言葉にタマやんが答えた。

タマやんは、いつの間にか三毛猫の姿に戻っている…?


なんか、タマやんの模様が少し変わっているような…気にしないようにしよう。



僕達は警戒をしながらも、戦いの最中に比べて少しだけ緊張感は和らいでいる。

念の為周囲に警戒の目を配っていると…


「!!」


森の奥に何かいる。


森の奥の存在に気付いたとき僕は走り出していた。

激しい負の感情を湧きあがらせながら…



~森の奥へ~


僕は金属と化した森を走り続けた。

脳裏に映るのは、炎で焼かれた死体の山。


激しい憎悪、憤怒、後悔。


思い浮かぶ様々な感情に、僕の思考は押し流されていく。

だから気付けなかった。


この記憶と感情はユウ・ヒウラの物ではないことに。



僕は森を走り続けると、ソイツを見つけた。

森の奥には赤く光を発する金属のコアが宙に浮いている。

このコアこそが…


「うおぉぉぉぉぉぉ」


僕は荒ぶる感情のまま長刀を振るう。

でも、赤いコアは長刀が届く前に光の中に消えてしまった。


逃げ…られた?


自分の物ではない悔しさや嘆きが湧きあがってくる。

吐き気をもよおす程の激しい感情を押さえることが出来なかった。


「あああぁぁぁぁぁぁぁ…」


僕は沸き上がる感情を、叫んで吐き出し続けた。



「ユウ!」


僕の声に混ざり、誰かの声が遠くから聞こえた。

叫ぶのをやめ、声の聞こえた方を見ようとして…僕は意識を失った。



~意識~


僕は暗い場所にいる。

ここは意識の深い場所だと思う。


昔、魔王に対して神気結界を使ったときにも訪れたっけ。


(……反動がきたのか)


先程までの僕が抱いていた激情はユウ・ヒウラの物ではない。

僕の魂に使われた上位存在の魂が持っている記憶が原因だ。


神気結界を使うとき、上位存在の魂を使う。

そのときに上位存在の魂は活性化して、僕に魂から記憶が流れ込む。

赤いコアに感じた感情は、その記憶によって生じた。


残念女神…いや、イシュルテは言っていた。


人格というのは感情と結びついた記憶により作られていると…

そして魂の記憶を受け止めすぎると、人格が書きかえられる可能性があるとも。


…まだ、大丈夫かな?


不安を誤魔化すように、僕は自分に言い聞かせた。



~自宅にて~


次に意識を取り戻したとき、僕は自宅にいた。

自分のベットで眠っていたようだ。


「ユウ…君?」


次に目にしたのは、ティナだった。

少し疲れたような表情だ。


「ティ…ナ」


「ユウ君」


ティナは僕の手を握っている。


神気結界を過去に使った時と同じ状況だ。

また、ずっと看病をしてくれていたのだろう。


「よかった…」


ティナは微笑んだ。

でも頬には一筋の涙が伝った。


僕が『ごめん』と口にしようとしたとき、来訪客が騒がしく部屋に入ってきた。


「ユウ♪起きたの?」


「ちょっ エリーさん!いい所なんですから!」


部屋に入ってきたのはエリーだった。

そんなエリーをレイナが止めて……『いい所』?


僕は自分の状況を理解した。

ティナに手を握られて、ジッと見つめられているという美味しい状況だ。


ティナも状況を理解したらしい。

でも慌てるそぶりを見せず、そっと僕の手を離す。


「みんな、心配していたのよ」


ティナの微笑みが眩しかった。

でも、手を握って見つめ合っていたのに慌てないってことは…

異性として意識されていないことでは?


僕は起きて早々に現実を見せ付けられ落ち込んだ。

そんな僕がいる部屋に、次の来訪客が…


「ティナさん。休まないとダメですよ」


残念女神が部屋に入ってきた。

珍しく残念女神がティナに注意をしている。


「ティナさんは、ずっと看病をしていたのですよ。お礼を言いましたか?」


「そうだったんだ…ティナ。ありがとう」


「気にしないで。大切な義弟なんだから」


やっぱり義弟だとしか思われていないようだ。


「ティナさんは休んで下さい。ご飯を作ってくれる人が倒れたら困りますから」


ティナの体を心配して休ませるんじゃないのか…残念女神よ。


「看病は私がやっておきますから、レイナさんはティナさんをお願いしますね」


「はい。ティナさん行きましょう」


「でも…」


「ティナさんも疲れているのですから、倒れたらユウが困りますよ」


「…そう…かもね。ユウ君、しっかりと休んでいないとダメよ」


ティナは身内に対する優しい言葉を僕にかけてくれた。

少し泣きたくなってきたな…


「しっかり休むから安心していいよ」


「うん。じゃあイシュルテ、お願いね」


残念女神に僕の看病を頼み部屋を出て行くティナ。

もう少しティナと一緒にいたかったけど仕方ない。


「ええ、ゆっくり休んで下さいね。エリーさんも向こうに」


「え~」


「沢山の人がいたら、ユウも疲れてしまいますよ」


「う~ん…じゃあ、またね。ユウ」


「じゃあね。エリー」


彼女達は残念女神を残し部屋から出て行く。

部屋が一気に寂しくなった気がするな…



~~


「みなさん、行きましたね」


「そうだね」


「…」


「…」


「ユウ、魂の力を使ってしまったのですね」


イシュルテの雰囲気は変わり、真剣な眼で僕を見つめている。


「他に手は無かったんだ」


「それは理解しているつもりです」


「危険も覚悟して使った」


「それも理解しています」


「…」


「アナタに言いたいのは、そんなことではありません」


いつもとは違うイシュルテ。

過去に魂の力を使った時も同じだった。


「力を使う前にティナさん達のことを考えましたか?」


「…少し、考えた」


「少しだけですか?」


「…」


「これからは、アナタの大切な人達のことを、しっかりと考えて下さい」


「…」


「アナタを大切に思っている人は沢山います。その人達も、危険を冒す前に自分のことを何も考えてくれないと…悲しいって感じると思いますよ」


「…うん」


「本当は危険を冒さないのが一番なのですが…ユウには無理ですよね」


「否定はしないよ」


イシュルテは僕の受け答えに、笑顔を返すことで答えた。

考えてみれば女神様なんだよね…残念女神というのはヤメテおこう。


………

……


「ユウは、もう少し休んでいて下さいね」


「わかった」


「あと3日程は」


「そんなに休まなくても大丈夫だよ」


「休んでいて下さい!」


「う、うん?」


「眠っていてくれれば、ユウの食事も私が食べられますから」


「えっ…」


僕の食事目当てって本気?それとも冗談?

彼女の目は…うん、本気だ。


僕の中で残念女神の呼称は続くことになった。

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