元勇者様は言葉の暴力に耐える
森の金属化現象、それは…初めて聞いた。
僕が横を見るとクルスは考え込みリーザも考えているようだ。
…僕も考えているフリをしておこうと思う。
「…」
「…」
「…」
「ユウ、説明を頼む」
「えっ」
「…頼む」
アルマが僕に話を振ってきた。
更にリーザが便乗して…この2人は絶対に僕が知らないと気づいている。
「…」
「最上級錬金術師の見解を聞きたいのだが?」
「…こういうのはユウの専門分野」
2人ともニヤついている…
たぶん『森の金属化現象』というのは知らないのが普通なのだろう。
だから答えられないと確信して話を振ったんだな…
「残念だけど…」
「残念だけど?」
「……?」
アルマとリーザが凄く嬉しそうに僕の答えを待っている。
『知らない』と言ったら何をいわれるか分からないな。
「石化現象で思い浮かぶのは…」
「石化薬とかは関係なくてな」
石化薬とは体の表面を石で固める薬だ。
なんとか、この薬で誤魔化そうとしたのに…
「話の腰を折って済まなかった。話の続きを聞かせてくれ」
「…最上級錬金術師の話を聞きたい」
アルマとリーザが僕を追いつめてくる。
なんで会ったばかりなのに、ここまで連携がとれているんだ。
この2人相手では僕に勝ち目がない…
「森に影響を与えるほどとなると分からないな」
僕は降参することにした。
何を言っても、この2人は僕を追い詰めようとするだろう。
最初から勝ち目なんて無かったんだ…
「はぁ~ 残念だ」
「…期待して損した」
もう、好きに言ってくれ。
最初から僕への文句を言うのが目的だったんだろ?
「全く、勉強不足もいい所だ」
「…最上級錬金術師の面汚し」
「そうだな。こんな男が最上級錬金術師を名乗っていいものか?」
「…普通の錬金術師を名乗るのもおこがましい」
2人は見事な連携を見せ好き放題、言っている。
言葉の暴力っていうけど、これって言葉のリンチだろ。
その後、僕への暴力は20分ほど続いた。
………
……
…
「ユウに期待した私たちが馬鹿だった。仕方ない、コチラの情報を伝えよう」
「…部下が申し訳ない」
2人は僕をイジメるのにココまでの連携を何故、発揮できるのだろうか?
出会って数時間しか経っていないのに…
いじめっ子同士で通じ合う物があったとしか思えない。
「うん?罵られて興奮したか変態が!」
「誰が興奮するか!!」
さすがに僕を変態扱いしないで欲しい。
精神的になぶられて喜ぶ趣味は持っていない。
「(やっぱり変態さんだ)」
ミスティが僕を非常に不愉快な目で見ているが無視をした。
相手にしたら面倒な事にしかならないと本能が告げているからだ。
「変態は無視して、話を進めよう」
「…変態は話の邪魔をしないで欲しい」
アルマとリーザは凄く嬉しそうに僕をいじめている。
クルスは…こういう時にはアテにできない。
僕は黙って耐えるしかないようだ。
「金属化現象はシュナーフスの森で確認されている」
「シュナーフスと言えば、かなり大きな森だな」
「ああ、シュナーフスの森は既に3分の1が金属となっている」
クルスのいうとおりシュナーフスの森は国内でも大きな部類の森だ。
その森が3分の1も金属化しているのか…
「金属化は、いつから始まったのか聞きたい」
「変態の質問に答えるのなら13日程前になる」
僕の名前が『変態』になっているのが気になるけど…
でも13日で3分の1というのは進行が早いな。
「対策は?」
「変態が分かるように言えば、結界を張り金属化を抑えている状態だ」
また変態と言われた。
しかも僕の頭が悪いと暗にほのめかしている。泣くぞ。
「俺達に出来ることは無い気もするが…」
「危険な仕事はユウにだけしてもらうから安心して良い」
「…ホッ」
クルスの質問に聞き捨てならない返答があったぞ。
なんで僕だけが危険な目をするんだ?
リーザが安堵して吐いた溜息は…いつものイジメだから気にしないけど。
「なんで僕だけが!」
「ユウ…ここからは冗談抜きで言う」
アルマは突然真顔で語り始めた。
「金属化した森に調査しに行った人間は全て金属になった」
「「「!!!」」」
僕達、冒険者メンバーは3人とも驚いている。
それってヤバすぎない?
「…何人が森に入ったの?」
「32人だ。それも魔法やガスなど様々な対策をしたが全滅した」
僕達は何も言えなかった。
事態は僕達が思っているよりも切羽詰まっているようだ。
「研究所が、その状況では国を期待するのは難しいということかな?」
「ああ、研究所は国の設備よりも高度である自負はあるからな」
「なぜ、僕に依頼するんだい?」
「お前の体質が理由だ」
「そう…」
ゲームスキルのおかげで僕の状態異常への耐性は高い。
それでも金属化に対抗できるか分からないけど…多分、可能なんだろう。
「タマやん。僕なら大丈夫だと吹き込んだのは君かい?」
「そうだ。金属化現象は魔法によるものだ」
「僕の耐性なら大丈夫だと分かるのかい?」
「俺には、そういった能力があるんだよ」
「…」
魔法による状態異常にならゲームスキルで対応できるはずだ。
「アルマ。岩や土、草、生物…森にある全てが金属化しているのかい?」
「ああ、全てが金属となっている」
「その情報を手に入れたのは?」
「…全滅した32人のうちの3人。体の半分を金属にして情報を持ち帰った」
「…」
岩や土、生物…これらが金属化する。
これは地面を通じて森の外にも広がる可能性があるということ。
想像したよりも遥かに厄介な依頼だ。
「断ることも出来ないんだろ」
「これは国からの依頼だ」
研究所は国の暗部とも深く関わっている。
機密の露呈もやむなしという考えで依頼をしてきたのだろう。
そんな依頼を引き受けるのはヤバイ気がするけど。
「依頼達成後、監視や不幸な事故に遭うということは?」
「お前は、自分の立場を考えた方がいい」
「?」
「研究所も国も、お前の怒りを買えば滅ぼされることを知っている」
アルマ…君は数分前に行った僕へのイジメを忘れたのかい?
………
……
…
僕達は依頼を強制的に引き受けさせられた。
森の内部へは高い状態耐性を持つ僕とアルマが向かうことになった。
クルスとリーザは冒険者と国が協力して事態を収めた形にする役者を演じる。
研究所が表に知られるのは避けたいというのが理由だ。
ただ気がかりがある。
情報を持ち帰ったという3人。
彼らの内の1人は最期に『緋色の騎士』を見たと言って亡くなったらしい。
そしてタマやんは言っていた。
『緋色の騎士』は魔神だと…




