元勇者様は恋愛相談を受けた
クルスが本気だ。
いや、目が…何と言うか怖い。
僕とクルスは酒場にいる。
クルスは酒を飲み、僕は果汁100%の健康的なオレンジジュースだ。
目が怖いのだけどクルスは酔っているのではない。
例によってレイナのことで問題が生まれている。
「ユウ!どういうことだ」
「どうって言われてもレイナ個人の問題だし」
クルスはレイナに惚れている(重傷)。
でもレイナにも選ぶ権利があるわけで…
「なんで、レイナに…男がぁぁぁぁ!」
僕はクルスの耳をふさぎクルスの叫びを受け流した。
………
……
…
僕はクルスに対しレイナに2週間近づくなと約束した。
そして2週間が過ぎレイナに近づいて良くなったのだけど…
「なんで、彼氏ができてんだよ~~」
まあ、彼氏が出来ていたというわけ。
と、済めばいいんだけど実際には彼氏でも何でもない。
ただ仲の良い異性の友人が出来ただけだ。
クルスに伝えれば解決なんじゃないかと思うだろう。
僕が面白がって伝えていないだけでは?と考える人もいると思う。
でも、何度も僕は伝えている。
「彼はレイナと仲のいい友達だから」
→「あのレイナの目は、恋する女性の目だった」
「仕事の関係で、よく話すだけだから」
→「そうやって仲良くなったんだな…」
このような感じで全て悪い方向に考える。
クルスの頭の中では恋人関係だと言うのは確定事項になっているんだ。
だから何を言っても聞こうとしない。
なぜ恋人いない歴が年齢と同じ僕がモテ男の恋愛相談に乗らないといけないんだ!
と、理不尽な現状に僕は叫びたい。
もう放置しようとも考えたけど…
「レイナに直接聞いたらどうだい?」
「…………」
レイナに直接聞いたらと提案したら小動物のような表情で涙ぐんだ。
物凄くキモ…じゃなくて哀れだった。
レイナが誰と付き合おうと本人の意思だ。
だから変な男でない限り文句を言う気もないし邪魔をする気は無い。
でも、今のクルスは目障りというか、キモイというか…
あとで面倒な事になりそうだから少しだけ手を貸すことにした。
………
……
…
僕は店に帰り明日、納品する魔法薬をレイナとチェックしている。
今は倉庫でレイナと2人だけだ。聞くのにはちょうどいい。
「そっちの数は合っていた?」
「ええ、大丈夫ですよ」
僕はレイナのチェックしたメモを見る。
「うん、大丈夫だね」
「じゃあ、今日の仕事は終わりですね」
「うん、お疲れ」
「お疲れさまでした」
そう言ってレイナは倉庫を出ようとする。
そこを僕は呼びとめる。
「レイナ!」
「はい?」
「レイナに恋人が出来たって聞いたけど本当かい?」
「えっ 何言っているんですか」
「レイナのファンっていう人が気にしていたんでね」
「フフ、私のファンですか?」
「冒険者の知り合いに結構いるんだよ」
「そうだったんですか~」
沢山いるかは知らない。
でも1人はファンがいるよ。凄く面倒くさい人が…
「気の荒い人間もいるから、恋人が出来たのなら馬鹿な事をしないように…ね」
「フフ お気遣いありがとうございます。でも残念ながらいないので大丈夫ですよ」
「そっか。じゃあファンに伝えておくよ」
「よろしくお願いしますね」
一応、確認はしたけど恋人を隠しているようには見えない。
じゃあ、クルスに直接聞かせて…って無理か。
僕は小動物っぽいのにキモイ顔を思い出しながら無理だと判断した。
次の手を考えないとな。
その後、僕は打開策を考えるも良い案は思い浮かばなかった。
そもそも恋愛偏差値の少ない僕に出来ることなどあるのだろうか?
少し寂しくなり枕を濡らしながら僕は眠った。
………
……
…
「よう、ユウ!」
「ク、クルス?」
僕が昨日の酒場に行くとクルスが元気に挨拶をしてきた。
悲しさのあまり壊れたのか?
「大丈夫…?」
「あ? ああ、もう大丈夫だ」
そうかレイナのことは気持ちを整理できたのか。
一方的な思い込みによる誤解だったわけだが。
「考えてみれば、あれは友人だな。お前の言うとおりだ」
「……はっ?」
「お前に話したあとスッキリしてな。悩んでいたのが馬鹿みたいだ」
「そ、そう……」
「ありがとうな。お前のおかげだわ」
「………」
「どうした?」
「なんでも…」
昨日、君のために悩んだのにソレ?
恋愛経験の欠片もない僕が必死にモテ男の君を助けようと…
コイツ…許せん!
「そうだ、少しトレーニングに付き合ってくれないかな?」
「まあ、いいが。何をやるんだ?」
「トワだった頃、他のメンバーから受けたトレーニングがあるんだ」
「ほ~、そんなのがあるのか」
「うん、興味があったら、どうだい?」
「ああ、興味がある」
「じゃあ、広い場所に行こうか」
「おう」
トワだった頃、僕が他のメンバーから受けたトレーニング。
あれは『地獄のトレーニング』ではない…ただの『地獄』だ。
(クルス、君は地獄の入口を見たことがあるかい?)




