元勇者様の宅配便 8
「…メス」
「リーザ、女の子がそのネタは…ってメス!?」
リーザがタマやんを持ちあげて、まあ…見ている。
でもタマやんって太い声なのにメスだったのか?
「魔神にオスもメスもねーよ」
「よかった…」
「はぁ?」
見た目が太い声+偉そうな口調なのに三毛猫。
僕はタマやんの残念ぶりに磨きがかからなくてよかったと心から思った。
残念な相手って扱いに困るんだよ…本当に(ウチの女神みたいに)
僕達は今、馬車で発掘品運搬の護衛中だ。
物資運搬とランダー退治を終えたから、この護衛が終了すれば依頼は達成となる。
砂漠と言っても整備された道も用意されている。
だから馬車の移動も可能なんだ。
まず洞窟からソリのような物に荷物を積みラクダで道の近くまで運ばせた。
もちろん僕のアイテムBOXも活躍したけどね。
洞窟から目指したのは整備された道に近い中継地点と呼べる小さな村。
そこで預けておいた馬車に発掘品の移し替えを行った。
で、現在は整備された道の上を馬車で移動中というわけだ。
「ユウ、依頼を忘れんじゃね~ぞ」
「覚えているよ」
タマやんが依頼について念を押してきた。
欲しかった素材が手に入るんだ。忘れるはず無いだろ!とは言わない。
欲しがっている物があると知られれば足元を見られるからね。
「ユウ、油断し過ぎだ」
「…未熟者が」
「ごめん」
クルスとリーザに注意されてしまった。
10年以上探していた物が手に入ると分かって浮かれていたようだ。
反省、反省。
気を取り直し僕は周囲に注意を向ける。
魔物は遠くからコチラの様子をうかがっているようだ。
向かう時に魔物を多く倒したから警戒して近づいてこないのかもしれない。
………
……
…
~エイシャールの街に到着~
僕達は護衛らしい仕事も無くエイシャールの街に到着した。
僕達は馬車から降りて数時間ぶりに地面を堪能している。
「くぅ~~っ」
「…ふぅ」
クルスは背伸びをし、リーザは気が抜けたのか息を吐き出している。
2人とも慣れない護衛任務で疲れたようだ。
「さてと…」
「どうした?」
「グレーテさんに依頼達成を報告しようと思ってね」
「まだ時間が早いんじゃないか?」
「そうかも…ね」
洞窟に向かう時には多くの魔物と戦闘になり予定よりも大幅に遅れた。
逆に帰りは魔物が全く現れず早すぎる街への到着だ。
しかも運んだ発掘品は慎重に扱いたいから僕達の手はいらないと言われた。
その結果、完全に時間を持て余している。
「3時間は余裕があるな」
「どうする?」
僕とクルスはグレーテさんと会う予定の時間までどうするか悩んでいる。
なにせ不慣れな街だからかっても分からない状態だ。
「…ギルドを希望」
ギルドか…
洞窟に行くときに倒した魔物なんかを引き取ってもらうのも良いかもな。
もちろん素材のいくつかは分け前として既に僕の物だけどね。
「そうだな。ギルドに行くか」
クルスの一声で僕達の暇つぶし先は決まった。
~ギルド前にて~
僕達が冒険者ギルドに向かうと人だかり…は出来ていなかった。
ギルド前の人だかりには良い思い出が無い。
晒しものにされたり…殺気を向けられたり…
だから冒険者ギルド前に来ると無意識に警戒してしまう。
「どうした?」
「なんでもない」
僕達はエイシャールの冒険者ギルドへと入った。
扉を開けて入ると冒険者たちが僕達を一瞬だけ見るけどすぐに視線を戻す。
剣や槍を携えた冒険者や魔法使いなど10名程と受付係。
中はスクエドの街とあまり変わらない。
木でできた椅子やテーブル。
床や壁は白で統一されている。
「おお、ト…ユウ君じゃないか!」
「!?」
僕達の方にいつの間にか近づいてきていた男性がいた。
僕も気付かなかった…鈍ったかな~と思ったけど違ったようだ。
相手が同格の相手だったんだ。
僕の目の前には青い帽子に青い服を着た男性がいた。
金色の髪はストレートでキラキラしている。
眼は青色で涼しげな雰囲気の男性。
更に右手で竪琴を抱えている。
彼は吟遊詩人にして凄腕の剣士。
エリアス・スフィード
芸術のためだとウォーレン一行に同行した人物で僕のことも知っている。
そして重要な事だけど…エリアスさんはモテル!
クルスと違うタイプのモテ男だ。
「久しぶりだね」
「お久しぶりです。エリアスさん」
僕の横でクルスは『どっかで名前を聞いたことあるな~』という表情だ。
リーザは…僕に何か仕掛けたがっている表情だ…
僕はリーザが仕掛けてくる前にエリアスさんに紹介した。
なんとか気をそらせる事に成功したようだ。
クルスは有名人の登場に口を開いたまま驚いていた。
なにせエリアスさんは詩人として有名。
更に大賢者一行の冒険を本にして本が売れまくっている。
いくらモテてもクルスのような庶民では天上の存在だ。
(モテ男のクルスよ。僕はこの人と一緒に旅をしたんだぜ!)
ちなみに本の内容は…僕が凄く美化された内容と言うだけにしたい。
「ユウに頼みがあったんだけど丁度良かったよ」
「頼みですか?」
「ああ、コレを直して欲しいんだ」
エリアスさんは1本の細剣をアイテムBOXから取り出した。
「…これなんだけど」
大賢者一行の武具は僕が作り出した物でエリアスさんの細剣も僕が作った。
オリハルコンやヒヒイロガネのような伝説級の金属を使っている。
これらの金属は加工すら難しい恐ろしい強度を持っている。
がっ!エリアスさんの取り出した細剣はボロボロだ。
「どうしたらココまでなるんですか」
「ああ…イヤー…ハッハッハッハ」
「怒っていないので教えてくれませんか?」
オリハルコン製の剣をボロボロにするのは難しい。
少なくとも普通の使い方なら数百回敵を斬ろうとも刃こぼれすらしない。
だから普通じゃない使い方をしたことになる…
そういえば心当たりが1つ…いや1人いた。
「ファリアが何かしたんですか?」
「……ごめん」
ファリアというのは僕と同じ最上級錬金術師の女性。
ウォーレン様の旅を影から支えた人間の一人だ。
でも僕の武具や魔導具の精製技術に興味から暴走しまくっていた。
エアリスさんはファリアの暴走に巻き込まれるうちに恋人になっていた。
なぜ暴走が2人を結びつけたのか未だに謎だ。
「詳しくは聞きませんが一つだけ良いですか?」
「…なんだい?」
「実験に使ったんですか?」
「…ごめん」
もう何も聞くまい。僕は心の中で誓った。
この場では直せないのでスクエドに同行してもらうことになった。
仕事の順番としては1.タマやん 2.エリアスという順番になる。
………
……
…
冒険者ギルドで話しこんでいたらリーザが何か持ってきた。
「…コレ」
「?」
それは首輪だった。
「タマやんを飼いたいとか?」
「…違う」
「…」
「…」
「テイムとか…?」
リーザは大きく頷いた。
僕は太い声でしゃべる三毛猫を思いだしながら思った。
(タマやん…頑張って生き抜いてくれ)




