元勇者様の宅配便 5 訪問者
僕とメイヴィスさんしかいないテントの中に男の声がした。
「誰だ!」
「クックック 下だよ」
メイヴィスさんの声に男の声が答えて下を見ると絶句した…
一匹の猫がガラク…発掘品をまとめた箱の影から現れたんだ。
「よう。俺も話に混ぜてくれよ」
こういう猫って太い男の声+偉そうな口調+黒猫が王道だよね?
「まさか、除けものにする気じゃあないよな?」
でも、そこにいたのは喋る三毛猫だったんだ。
日浦 悠の記憶を参考にすると…
三毛猫って田舎のお婆ちゃんのヒザの上でゴロゴロしているイメージがある。
太い男の声+偉そうな口調+三毛猫…残念な感じがするのは僕だけだろうか?
「なんだ、無視か?」
僕とメイヴィスさんは別のことで絶句しているんだろう。
メイヴィスさんは喋る猫の登場に、僕は三毛猫だった残念感での絶句。
メイヴィスさんの反応が普通なのは分かる。
僕の感性はいつ狂ってしまったんだろう?
「名前も知らない相手と話ができると?」
「ああ失礼。俺の名は…まあ、好きなように呼んでくれ」
「タマやん」
僕は思わず言ってしまった。
これってPちゃんと同じパターンだ…
「ほう、タマやん。どんな意味なんだ?」
おっ!以外と好反応…行ける所まで行ってみよう!
「ああ、タマやんというのはだね…」
「ふむふむ」
「『タマ』は球体を示して球体には完全な図形という意味があるんだ」
「ほう」
「『やん』というのは縁の深い相手につける愛称みたいなものでね」
「なるほどな~」
「『タマ』と『やん』を合わせると『縁を持ちたい完全な存在』という意味になるんだよ。」
「俺が完全な存在か…クックック、良い名だ」
「ユウ君…」
「…」
メイヴィスさんの『やっちまった』というニュアンスを含む声が悲しげに響いた。
僕も、まさか決定するなんて思っていなかったんだけど…まあ、いいや。
「で、君は何者なんだい?」
「そうだな、名前はタマやんで…」
どうでもいいと思ったけど…
目の前の三毛猫がタマやんと名乗るたびに謝りたくなる。
「魔の神…魔神だ」
「魔神…魔物か?」
「そいつは少し違うな」
「?」
「魔神というのは魔物と人が融合した存在だ」
「なっ!」
「ついでに言やあ、アンタの持っているコアと言ったか?」
「あ、ああ」
「ソイツが魔神の核だ」
「っっ!」
「持っていると喰われるぜ」
「!!」
「クックック」
メイヴィスさんは持っていたコア?を宝箱に慎重にしまった。
身の危険が迫っても慎重にコアをしまう姿に僕はプロの姿勢を見た気がする。
「君に訊きたいんだけど…」
「なんだ?」
「なんで、そんなことを教えてくれるんだい?」
「それは信用してもらうためさ」
「誰にだい?」
「あんたさ。ユウ」
「僕に?」
「ああ、腕の良い錬金術師のお前にな」
「ようするに腕が良くないと作れない物が欲しいわけだ」
「さあな。作る物の難易度なんて俺にはわからねえしな」
「へ~~」
警戒は解けないけど要望ぐらいは聞いておこうか。
「なにが欲しいんだい?」
「ほ~ 俺の話に乗るのか?」
「話を聞いた後で考えるよ」
「慎重な事で…クックック」
クックックという笑い方に三毛猫の姿だと違和感が…
「欲しい物はなんだい?」
「高濃度の魔水晶を用意して欲しい」
「魔水晶ね~」
魔水晶というのは魔力の込められた水晶で作るのは難しくはない。
でも純度が高くなるほど作成が難しくなる。
「報酬は?」
「俺の宝を分けてやる」
「魔神の宝か…実物を見ないと何とも言えないな」
「まあ、当然の反応だな…見せてやる。広い場所はあるか?」
タマやんの要望である広い場所があるかメイヴィスさんに訊ねた。
すると、発掘品を運び込んでいないテントを貸してくれることになった。
僕とタマやんは貸してくれたテントへと移動した。
取引ということでメイヴィスさんは席を外してくれている。
だからテント内は僕とタマやんだけの状態だ。
既に日は暮れておりテントの中も暗い。
だから僕はテント内にランプ型の魔導具を複数置いて明るくした。
「これで、いいかな?」
「ああ、十分だ」
タマやんがそう言うと自らのアイテムBOXからアイテムを取り出していく。
そして、いくつもの宝という名の素材が僕の目の前に広げられた。
「なるほどね~」
僕はすぐにでも取引を行いたい気持ちに駆られていたけど関心が薄いように演じた。
もし演じなければ、すでに取引は成立していたと思う。
何故なら広げられた素材の中に求め続けていた物があったからだ。
それは『精霊の雫』
霊薬エリクサーの素材だった。




