元勇者様に忍び寄る新たな影
スクエイドの街には多くの冒険者が訪れる。
命がけの依頼も多い冒険者にとって、仕事の合間に飲む酒は格別な物だ。
そんな酒場の一軒でクルスとヴェルタが一緒に飲んでいた。
「お前、馬鹿だろ…」
「んなわけね~だろ!」
「いや、馬鹿だと断定できる」
「い~や違う」
「よりにもよって、ユウに正面からケンカ売るとは…」
「くっ…それは、まあ反省している」
ヴェルタとクルスはダイクも交え3人で飲むことが多い。
だが今回はダイクは仕事でこれず2人で飲むことになった。
「まあ、生きていただけ良しとしよう…」
「ああ」
ヴェルタは自分が生きていたことを本気で奇跡だと感じていた。
手足が… 腹からは… 健全な少年少女には見せられない状況だった。
だがヴェルタに惨状を作り出したユウ自身が強力な回復魔法をかけた。
このことにより、ヴェルタは心の深い傷と引き換えに命をとりとめることとなる。
その後は、警護兵に案内された別荘で過ごすことになったのだが…
「で、ケンカの原因は何だ?」
「あ、ああ。ヤツが女と暮らしていてな…」
「はあ?」
「い、いや。その女というのが見たことのないような美人でな」
「あ、ああ」 (レイナのことを言っているのか?)
恋するクルスの頭の中ではレイナは絶世の美女となっている。
「それで…まあ、別れさせようと…」
「なんで、そうなんだよ。てか付き合ってねえよ」
「そ、そうなのか!?」
「彼女はユウの所で錬金術の修業をしてんだよ」
(レイナは一生懸命でいい子だぞ)
「そ、そうなのか?」
(あの金髪の女性が意外だな)
クルスはレイナのことを言って、ヴェルタはエリーのことを言っている。
だがヴェルタは、ユウの周辺にいる女性の名前を知らない。
よって2人が勘違いに気付くことは無い。
「ああ、ユウは優秀な錬金術師だから弟子がいてもおかしくねえだろ」
「そういやあ、錬金術師だったな」
「忘れていたのかよ」
「あんな化け物みたいな強さのヤツが研究職と結びつくか?」
「まあ、そうだよな…」
クルスはしみじみと思っている。
ユウの化け物じみた強さと作り出す武具や魔法薬の質を。
(あいつ絶対に早死にするな)
クルスには、ユウと燃え尽きる寸前に激しく燃えるロウソクが重なって思えた。
「どうして付き合っているって思ったんだよ」
「あの子…ユウの手を掴んで嬉しそうにしていたもんでな」
ブウゥゥゥゥゥッ
「それで一緒に帰ろうと幸せそうに…」
「その話、もっと詳しく教えろ」
「お、おい目がマジなんだが…」
「そんなことは、どうでもいい。教えろ」
「あ、ああ分かった…から顔を離せ」
「…すまん」
口に含んでいた酒を横に向けて盛大に吹き出したクルス。
彼は噴き出した酒に構わず、愛するレイナ(片思い中)と友の関係を問い詰めた。
それからしばらくして…
「いくぞ!」
「おう!」
冒険者2人は難関なダンジョンに挑むかのような覚悟で宿敵の元へと向かった。
勘違いに気付かないまま。




