元勇者様と絵本
※残酷描写あります(モンスターの)苦手な方は注意
イルモアという街には昔の仲間が眠っている。
彼は僕の師と呼べる人物で魔王討伐の旅の途中で病を患い亡くなった。
ある日アレフから魔導具を使い連絡が入る。
連絡内容は街が魔物に襲われているという内容だった。
もし他の街であれば見捨てていたかもしれない。
でもイルモアには彼が眠っている。
僕は転送陣とよばれる一瞬で移動できるアイテムを使いイルモアの街に行った。
イルモアの街に着くとアレフの使いの人が戦争の状況を教えてくれた。
すでに多くの死者が出ており防壁でかろうじて魔物の進行を防いでいる状態らしい。
そして魔物を率いるのはアルビドという魔族ということも聞いた。
他にも魔物の種類などを聞いた。
でもコチラは魔法で何とかできると判断できる魔物ばかりだった。
問題はアルビドの力がどの程度かということだ。
僕は不確定要素といえるアルビドは直接叩くことに決めた。
僕は強い魔力を持った相手を探す。
魔物や魔族の強さは魔力の強さに比例することが多いからだ。
アルビドは強力な魔物らしいので魔力の一番強い奴の可能性が高い。
違う魔物であっても強い敵を上から削っていけば敵の士気は下がるはずだ。
だから強い敵を狙って潰していくのが戦況を好転させるのに有効な手になる。
意識を集中して魔力を探ってみると…
…
…
いた!
僕は魔力をたどり相手の方に走っていく。
途中で大きな爆発音が響く。
僕が向かっている方向にある防壁の一部が壊れている。
防壁が壊れる直前に魔力をたどっている相手が魔法を使ったの感じた。
だから魔法による破壊なんだろうと思う。
そろそろ到着するというところで僕は紅い仮面を装備する。
仮面に関しては街中で仮面をつけてウロついたら不審人物扱いだ。
だから今、装着した。
仮面を着けた理由は僕が積極的に戦争に関わったことを知らせないため。
バレても隠しておけば色々と言い訳は出来る。
そして服装は黒いローブの上に黒いマント、
僕は勇者の時も剣士の恰好だった。
そして冒険者としても剣士の服装で活動している。
魔法使いの恰好をして僕のイメージと重ならないようにした。
右手には勇者として使っていた紅い長刀『桜花』
桜花は勇者トワの象徴ともいえる刀。
僕一人では対処できない状態でも兵士たちが気付けば士気も高まるはずだ。
後は優秀すぎるアレフ君の情報操作に期待だ。
しばらく走り続けると崩壊した防壁の近くに辿り着いた。
鎧を着た兵士と軽装備の民兵らしき人達が集まっている。
そして崩壊した防壁の向こう側には鳥の頭部を持った赤い魔物がいる。
アルビドの特徴と一致する…
正面から倒す必要もないので不意打ちをすることにした。
僕はスキルを発動させる。
これは光の勇者と呼ばれる理由となったスキル。
そして殺戮の風と呼ばれる理由でもあるスキル。
圧倒的なスピードと攻撃力を生みだす僕専用のスキルだ。
(『神気』発動)
これはゲームに存在したスキルとこの世界のスキルを組み合わせたスキル。
全能力を驚異的なまでに上昇させる。
でも扱うのが難しい。
高速戦闘を行うため、膨大な情報を処理する必要がある。
そして体への負担を抑えるため常に様々な魔法を使い続ける必要もある。
神気を使ったところで鋭敏になった感覚を更に研ぎ澄ませた。
そして周囲に存在する魔物達の気配や魔力を探る。
街の周辺にいる魔物を一通り捉えることに成功した。
極大魔法の準備として魔力を開放し天に魔方陣を描く。
そして天に描かれた魔方陣からは黒い雲が大量に噴き出される。
アルビドは空の変化に気付いたようだが手遅れだ。
彼らを逃がす気はない。
「雷よ」
無数の雷が落ち続けている。
僕は崩れた防壁を挟んで対峙するアルビドと兵士たちの間に立った。
激しい雷の光に人も魔物も目が眩んでいたんだろう。
僕が現れたことに気付いた者は少ないようだ。
雷が止んだ。
戦場では多くの魔物が死体になっている。
でもアルビドは案の定というか魔法を防いでいたようだ。
雷が降り注ぐ中、障壁を張りながら僕を睨み続けていた。
雷が降りやんだころアルビドは口を開く。
「何者だ」
僕はアルビドに答えた。
「黒の魔導士」
しばらく睨みあったあと僕はゆっくりと歩き出す。
何歩か進んだときアルビドが火の魔法を放った。
火球長刀で切り捨てると火球が爆発する。
その爆発に相手の意識が向いている間に僕はアルビドの背後に回り込む。
次の瞬間アルビドの首にスッと赤い線が
線が入った瞬間、血の勢いで首が胴体から離れた。
アルビドの体は、首を失った後も両足で立ち続けている。
そして悪趣味な噴水として、しばらく血の雨を降らせ続けた。
(この程度か…)
僕は血の噴水を見ながら虚しさを感じていた。
僕はアルビドの死を確認したあと他のモンスター達を見た。
残っていたモンスター達は怯えて逃げ出した。
次に兵士たちを確認する。
僕を見て恐れているのが分かる。
青ざめた顔は疲れだけが理由ではないのだろう。
だれも声を発することがなく風の音だけが響いている。
これは勇者だったころ、いつも見ていた光景。
キレイな勇者は絵本の中だけの存在であって本当の勇者は血にまみれている。
そんな勇者が作った血の海を見て、いつも誰かが怯えていた。
僕は戦場から離れて人のいない場所で服を変えた。
せっかく来たのだから、お墓参りをしていこうと思った。
師の墓に花を添えるため途中で花を買った僕は師の墓に向かう。
師の名前はウォーレン。
大賢者と呼ばれた人物で僕に知識だけでなく人のあり方も教えてくれた人物。
色々と伝えたいことはあるけどそれは役目を終えたらにしようと思う。
この世界の親と呼べる彼には、伝えたいことが沢山ありすぎるから。
でも一つだけ伝えておきたいことがあった。
ある親子を思い出しながら、僕は口元を緩めて眠る師に伝えた。
………
……
…
師の前で思い浮かべた親子。
子どもが抱えた絵本の表紙には、紅い剣を持った勇者が描かれていた。
「だから僕は…」