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異世界の放浪者と  作者: 天音時雨
第三章 初代"異世界の放浪者"と過去
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第三十五話 大樹の神と“初代”

 譲葉はユミルの方へ近寄り、俺をゆっくりと下ろした。


「翡翠様、どうして」


 ユミルは明らかに困惑している。それを見て譲葉はニコッと微笑んだ。


「あー、時雨がピンチだったからね、つい」


「いや『つい』じゃ済まないですよね…?だって今の貴方は「んー、なんのことかな?」翡翠様!?」


 …おいおい、いきなりコント始まってないか?というかさっき下手すりゃ死んでたよね?なのになんだこの状況。

 とはいえ…目の前の譲葉に救われたという事実は変わりない。


「あー…その、さっきはありがとう。助かった」


 俺がそう言うと、譲葉は驚いたように目を丸くする。そして一瞬困ったような表情を見せたが、すぐに微笑み返した。


「いやいや、礼を言われるようなことはしてないよ」


 そう言いながら何故か俺の頬に触れてくる譲葉。だが、何故か嫌な気はしなかった。寧ろ――安心感のある温もりを感じる。


「…やっぱりか。あの“影人()”、急に様子が可笑しくなったから、まさかと思ったけど…」


 またやったのかな、と眉を顰める。というか、「あの子」って誰だ…?ここに来る前に何かあったというのか?

 さっきの表情も妙に引っかかるし…と思っていると、例の青年の呻き声が聞こえた。その声で我に返り、刀を握る。…しかし何故かいつもより刀が重く感じる。今までこんなことなかったのに、何で…。


「本調子じゃなさそうだね、時雨」


「っ…そうだな」


 譲葉に聞かれ、俺はどうしてか素直に答える。…いや、確かに初対面の相手――ましては(自分もそうだが)神だ――に早々失礼な態度は取らないが…何でだろう。同時にこの(ひと)に隠してもそれは効かない様にも感じる。


「さて…手早く終わらせるか。君や――俺の為にも」


 そう言い、刀を構える譲葉。次の瞬間、俺の目の前に彼の姿はなかった。


「くそ……ッ!!?」


 恨めしそうな青年の声がしたかと思えば、青年の目の前には譲葉の姿。アイツ、いつの間に…。

 青年の方も予想外だったのだろう。突然目の前に現れた譲葉の姿に驚き、動けないでいる。そこに譲葉は容赦なく斬り払った。


「な……痛あああああっ!!」


 何もかも一瞬の出来事だ。その一太刀をまともに受け、肩から吹き出す血を押さえながら青年は下がる。


「退くか。だがこれで終わったと思うな」


 言い終わる前に譲葉は既に相手の背後に回っていた。何もかも、青年が気付く前に、彼は動いている。

 一体何なんだ、アレは……。


「《刹那の太刀筋》…相変わらずね、譲葉」


「《刹那の太刀筋》って…使い手があまりいないっていうあの!?」


 命の口から出てきた単語に俺は驚く。

 ――刹那の太刀筋。対象より“必ず”先に動き、対象の次の動きを“必ず予知”する。それらを利用して“刹那”の内に斬りつける。これを回避することはほぼ不可能。

 この技を使えるのは数える程度しかいないという、とんでもない物だ。…正直、俺もちょっと力を使えば出来なくもないだろうが、“本物”には到底及ばない、謂わば“偽物”止まりだろう。


 そんな技を、譲葉は難なく使いこなし、青年を着実に追いつめていく。青年の方は《マジックウォール》でどうにか防いでいるが、その壁は既にヒビだらけになっていた。もうじき壁は崩れる。譲葉の刃が青年自体を傷付けるのは時間の問題だろう。


 譲葉の目には静かな怒りを湛えている。一瞬、彼の蒼い瞳と合って、そんな風に感じた。


 パリン、と砕ける音。譲葉の一閃で《マジックウォール》の盾が崩れ落ちていく。青年が息を呑み、身構えようとする――その前に譲葉が蹴飛ばした。


「ガハッ…!」


「悪いな。確かに()()()()()にこんな手荒な真似は普通しないんだがな…。今は手加減できそうになくてね」


 派手に飛ばされ、何度か転がり、ようやく止まる。すぐに起き上がる気配はない。そこに譲葉が刀を構えたまま、ゆっくりと近づいていく。

 ――このままだと、殺してしまう。

 

 それじゃあ意味がない。もし、あれが“ルーグ=シグナル”だとしたら、取り返しがつかない。


「ま、待て!そいつはルーグかもしれないんだ!だから、トドメは…!」


 今トドメを刺そうとしている彼の方へ駆ける。俺の声を聞いて譲葉はピタリと動きを止めた。そうして、俺が傍に来ると蒼い瞳が射抜くように俺を見詰める。


「…何故、こいつが“ルーグ”だと?」


「わからない…。確証はない…でも、もしそうだとしたら…」


「確かに、取り返しのつかない、深刻な事態になるな。…でも、本当にそう思うか?」


「………」


 強く言われ、言葉に詰まる。…どうも譲葉には敵わない。何故か、そう直感する。


「それに、そんな身体の状態で浄化しようとするのかい?…それこそ馬鹿げてる。今の君の不調は時間が経てば経つほど悪化するよ。それを解決するのも――君次第だ。その為にも、君はこんな所で倒れてちゃ駄目なんだ。」


「は…? なんで、原因を知ったような口を」


「見たからさ。君の不調を引き起こしてる(原因)に。」


「――――」


 次々と紡がれていく言葉の矢。俺には返す言葉もない。譲葉は…一体、どこまで、何を知っているんだ?


「……ルーグ…?」


 蹲っていた青年の小さく掠れた声。それに警戒し、譲葉が刀を構え――フラついた。

 そのまま倒れるんじゃないか、というくらい譲葉の身体が傾き、咄嗟に手を出して支えた。


「…っと、悪いな」


 礼を言う譲葉の表情は険しい。それに、少しだけ呼吸も荒い。…どうしてだ?さっきまで何ともなかったというのに。

 疑問に思っていると、青年が起き上がろうとしていた。


「ルーグ…今、ソイツの名前を言ったよね、君達は――」


 ゆらり、と怪しい素振りを見せる。これは、何か来る――。そう直感し、身構える。

 青年が何か言おうと口を開いた時、背後に気配を感じた。


「やれやれ…そこの黒いヤツが僕だと言いたいの?君達は」


「…俺は最初から否定していたが?」


「っはは、さすがは古参の神だ。僕の気配とかも覚えてたっていうのかい?」


「さぁ?俺の直感かもしれないぞ?――本物の、ルーグ=シグナル」


 振り向きもせず、譲葉は背後にいる存在に向かってそう言った。

 次には、フッと笑う息遣い。気になって振り返ると、そこには、長い青のマフラーを身に着け、頬には十字の傷のある、白い髪の青年が、少し離れた所に立っていた。

 

 白い青年は一筋だけ長い水色の髪を揺らし、こちらを見て、赤と青の目を細める。


「始めまして、今の“異世界の放浪者”さん。僕が初代“異世界の放浪者”のルーグ=シグナルさ」


 そう言って、白い青年――ルーグは強気に微笑んだ。


 


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