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異世界の放浪者と  作者: 天音時雨
第三章 初代"異世界の放浪者"と過去
34/43

回想 初代とユウサリ

三章突入…ですがいきなり回想です


ワリと容赦ない戦闘描写…というか暴力表現?があるので注意


 それは、ユウサリが狂い、過ちを犯し始めた頃のこと。



 ――神精霊世界(ファイニア)とは違う、異世界


 そこに、ユウサリはいた。屋敷もその世界にあり、固有の結界を張り、輪廻の破壊を行っていた。

 本来は彼が守り、統べるためのそれを利用して。


 人々が知らぬうちに運命や輪廻は書き換えられ、本来辿るべきモノから外れて破滅や崩壊の道を行く。そんな風に"書き換え"る。


 他の神々も、彼のことを憤り、また嘆いた。だが、このままでは"世界"が壊されてしまう。


 ―…そんな彼を止める為に、"異世界の放浪者"という役割は作られた。 


 “世界”に囚われず、己の理を固有として持ち、“世界”に溶け込む者。

 自由に“世界”を渡り、彼の者に対抗出来る唯一の存在。


 それが、"異世界の放浪者"だった。


 

 だが、その役割は同時に大きな危険も伴う。…特に、彼の者に対抗する、という所で。


 必ず無事に、戻って来れる保障などない。見知らぬ世界でその生命を散らすという可能性もあったからだ。


 一部の神々はその"役割"を反対した。しかし。


「…ならば、僕がやるよ。」


 ただ一人、自ら手を挙げる者がいた。


 それが、『初代"異世界の放浪者"のルーグ=シグナル』であった。



 ◆



「また一つの街が消えた。昨日は王国。その次は……」

 

 焼け跡の前に、白衣の青年が立っていた。白衣には夥しい量の返り血に染まり、ほとんど赤い服になっている。彼の顔にも少し、血が付いている。


彼は何処か楽しそうにしながら、周囲を満足そうに見渡して去ろうとする。が、その足を止めた。


「ねぇ、そんなことして楽しいの?」


 少年の声がした。

 振り返ると、長い青のマフラーを身に着けた白い髪の少年が、少し離れた所に立っていた。


 青年は首を傾げる。彼の青い瞳が、青年の背後にあった“惨状”を見て、苦笑する。


「ユウサリだっけ、君?…随分派手にやるねぇ」


「…貴方は?」


 少年はそれに答えず、ユウサリと呼んだ青年に笑いかける。





「――そんなにヒトを“壊して”何がしたいの?」






 口元は笑っていたが、その目はユウサリを蔑んでいた。


 少し間を置いてから、ユウサリは口を開く。


「…これは、罰です。あの人を殺した…人間への罰。」


「……それはただの私怨じゃないの?だってその人達、その事と直接関係ないじゃん」


 きっぱりと言い捨てる。ピクリとユウサリの眉が動く。


「それとも、アンタはそれだけ人間が―――――」


 どごぉ、と少年のいた場所が爆発する。だが、そうなるのを予測していたのか、少年は跳び、ユウサリの目の前に着地して、彼の胸倉を引っ掴む。


「!」


「憎いのか?」


 言いかけた言葉を紡ぎ、ユウサリを睨んだ。突然のことで、彼は息を呑む。


「そんなに“人間”が憎いのなら、初めから“人間”を愛さなければいいだろうが!!」


 吐き捨てるように少年が怒鳴るように言った。


 血に塗れた夕日色は俯き、答えない。

 そのまま沈黙を保つ。そう少年が感じた時。


「……お前に、私の何がわかるか…!?」


 悲鳴のような怒号と、ひゅっと風を切る音。咄嗟に退くが、鋭い何かが少年の左頬を掠める。


「!!」


 頬に触れると、赤く温かい血が手に付いた。前を見れば、ユウサリが短剣を突き出していた。少年の表情に戸惑いの色が浮かぶ。

 自分が切られたということと、目の前にいる"狂った"神が思ったより素早い動作を出来るということに。


(こりゃぁ…甘く見ていたかもな)


 相手は元ヒトだった神。根っから神という者達とは違って、どこか劣っているのではないのかと考えていた。だが、油断していたとはいえ、少し予想外だと少年は血を拭いながら思った。


(…こんなことで、ルーグがやられたなんて言われたら…なんか嫌だな。)


 少年…ルーグはそう考えながら相手を見据える。


「…殺り合おうってか?」


 口角を上げ、異空間に仕舞っていた二振りの短剣を持ち構える。

 短剣に魔力を込め、空を斬り、クロス状の衝撃波を生み出す。衝撃波はユウサリに向かっていく。が、ユウサリは《マジックウォール》を展開する。


 魔力結晶の壁に当たり、直接ダメージは受けない。だが、さらに連続で衝撃波が向かってくるのが見え、ユウサリの目が見開かれた。


「…!」


 先程の分で脆くなった壁は耐え切れずに崩れ落ち、その隙間から衝撃波が飛んでくる。かわそうと動くが一瞬間に合わずに当たってしまう。それを見たルーグはニヤリと笑う。


「そぉらッ!!」


「がはっ…!」


 一気に距離を詰め、腹に蹴りを入れる。ユウサリは体を曲げ、怯む。その隙も狙い、今度は回し蹴りを使う。

 だが、二回目は上手くいかずに小規模の《マジックウォール》で防がれ、後ろへ下がる。いくらか苦しそうにしていたが、ルーグを睨む目からはまだ戦意が残っていると感じ取った。


「ねぇ、まだ諦めないの?」


 転移魔法でユウサリの背後を取り、その背中を蹴り飛ばす。対応できなかったユウサリはそのまま前のめりに倒れ込む。完全に地に伏す直前、今度はその横を取り、腹に膝蹴りを入れた。


「うぐっ…」


 蹲り、何度も咽込む。それでも尚、ルーグを睨みつけていた。

 ルーグは蔑んだような目で見、地面に魔力を注ぐ。


「《テラ・ラーミナ》!」


 魔力結晶の刃が地中から幾つも突き出す。それらはユウサリを貫かんと向かっていく。

 刃がユウサリのすぐ近くまで来た瞬間、バチン!と音が鳴った。その意味を、ルーグは即座に理解し、目を見開いた。


「ッ!?」


 直後、ユウサリに向かっていた刃が今度はルーグに向かっていった。

 咄嗟にかわそうとルーグが動く。なんとかかわすが、ギリギリ間に合わなかったのか、先程と同じ頬にまた傷を付けてしまう。新たについた傷により、ちょうど十字の形になった。

 新たに流れ出す血を乱雑に拭い、次の行動をしようとした時、足元の魔法陣に気付いた。


「しまっ―――」


 どかん、とそれは爆発した。先の魔法陣は、その場に着いた対象者の魔力を奪いながら爆発する地雷のようなトラップだ。

 爆発で飛ばされ、地面に体を打ち付けられる。


「くっ……!」


「っ…もう終わりですか?あれだけ啖呵を切っておいて」


 痛みを堪えながらも立ち上がり、ユウサリはルーグを見下す。その表情は嗤っていた。血の付いた短剣を構え…――転移魔法を使ったのだろう、一瞬でルーグの目の前に現れ、その短剣を振り下す。


「っ!!」


 横に転がり、振り下された短剣は地面を突き刺した。だが、魔力を込めていたのだろう、そこを中心とするように魔法陣が展開される。


「稲妻よ、槍となり貫け《ランス・オブ・クラッシュ》!!」


 地に描かれた魔法陣から雷の槍が幾つも現れ、たった今立ち上がったルーグに向かっていく。よける間も無く雷の槍は少年にぶち当たり、体は再び宙に投げ出される。

 落下していくルーグに、一つの槍が放たれる。そのまま落ちて串刺しなってしまうのか。その光景を想像したのか、ユウサリの口角が吊り上る。

 

 あと少しで雷の槍がルーグに触れる、という時だった。ピクリと、少年の指が動いた。


 長いマフラーに術式が浮かび上がり、まるでそれが意思を持つようにルーグを守る(マジックウォール)となり、彼を包み込み、即座に詠唱した。


「掻き消せ―――《バニッシュ》!!」


 目の前に迫っていた槍を“術消滅魔法”を使い、掻き消す。消えたと同時に盾となっていたマフラーが解かれていき、元のマフラーに戻った。術式も消えている。

 

 着地し、こちらも短剣を構える。その目に意思や決意などの揺らぎなどは一切感じられない。ユウサリもそれを悟ったのだろう、溜め息を吐いた。


「…諦めの悪い神様なんですね、貴方。」

 

「当たり前だろう?僕はお前を止める。例えそれがお前を殺すことになってもな!」


 叫ぶように言い、ユウサリとの距離を詰めようとする。

 

 その時。

 




 ――ドクン





「…!?」


 

 思わず足を止める。一瞬感じた違和感。

 まるで、自分の心臓を鷲掴みされたような嫌悪感。何故か冷や汗が噴き出す。体は動かせるのに、何かに支配されているような感覚がした。


(何だ…これは……?)


 違和感の元凶を探る。ユウサリが何かをしたのは確かだ。だが、一体どうやって…?

 そう思って周囲を見渡す。





 ――ドクン





「うっ…!?」


 再び、鼓動。嫌悪感は増している。頭の中で警鐘が鳴り響く。これ以上は危険だ、と。

 だが、少年には使命がある。―――"異世界の放浪者"としての、使命が。


 ルーグが動こうとした時、ふと視界に何かが映った。




 それは、地面に刺さったままの短剣と術式。




 術式は《ランス・オブ・クラッシュ》の物だ。が、何かが違うと直感した。


 何かが違う。術はもう発動したのに、何故かまだ残っている。

 

 じゃあ短剣は?何故、刺したままなんだ?短剣には…何か付いていたから?









 ――ルーグの“血”が付いていたから。









「な…ぁ!?」


 そこまで考え付いたとたん、術式が書き換えられる。同時に本当に体の自由が奪われる。




「《魔力転換・撹乱》」



 ルーグが思考している間、詠唱していたのだろう。一瞬彼と目が合う。その目は嗤っていた。「もう遅い」と言うように。


 ふざけるな、と言い返そうと口を開く。が、




「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」




 出てきたのは絶叫だった。


 それもその筈、ユウサリの使った術により、体中の魔力が掻き乱されていく。それは血流すら掻き乱すような言い様の無い感覚。


 理解できない、認識できない、何とも言えぬ感覚に混乱していく。自分の何もかもが、内側からグチャグチャにされてしまう。そんな感覚にルーグは陥っていた。


 自分が今、どんな風になっているのかわからない。視界が歪み、何を言っているのか、何が聞こえるのか、わからない。




 長く続くと思っていたそれは徐々に落ち着いていく。段々と冷静さも戻ってきた。


 深呼吸を繰り返し、現状を理解しようとする。まだ左目に違和感が残っていたが、問題ないと軽く擦った。



 現状を把握した時、ルーグは驚いた。




 何故なら、ユウサリが術を使った時の場所のまま、動いていなかったからだ。



 あれだけ自分は動けなかった。その間にいくらでも攻撃出来ただろう。そんな風に考えていると、ユウサリが動いた。思わず身構えるが、やはり何もしてこない。


 どういうことだ?と思っていると、





「…これ以上は…もう……私は………」






 譫言の様な声が聞こえ、ユウサリが姿を消した。


 気配も完全に消え、去ったことがわかった。


 見逃したとでもいうのだろうか。だが、対峙していた時のあの目を思い出す限り、それはないとルーグは首を振った。



「……あーあ……ダメだったかぁ……」


 

 ただ一人残された少年はそう呟いた。








 ◆




 その後、ルーグは神精霊世界(ファイニア)に帰還した。が、すぐにその行方を眩ませた。




 また、彼が敗北したことは事実。


 ユウサリの凶行はルーグが行方不明になってからも続いていた。


 その為、彼に続く二代目の"異世界の放浪者"が選ばれた。


 二代目は大妖精 アクア=グラシア。

 彼女もまた、ユウサリと戦ったが敗北。致命傷を負い、傷を癒すために"対価治療"を行い「"異世界の放浪者"としての記憶と能力」を対価として差し出し、現在の“アクア=グラシア”になった。



 三代目は神樹の精霊王の守り人 ユミル=ネルトゥス。

 彼もユウサリと戦うが敗北。命からがら異世界に渡って生き延びたという。



 その後も幾人もの精霊、精霊の騎士達が"異世界の放浪者"となり、戦ってきたが敗北ばかりだった。

 それどころか、ユウサリの手によって幾人もの精霊達が殺められ、葬られたのだろうか。それによって彼の罪が増えていく。


 神々は途方に暮れた。


 "異世界の放浪者"達も、代を重ねていくごとに弱くなっていくようにも思えてきた。


 失った力を蓄える為に眠りについた創造主を目覚めさせて止めるしかないのだろうか。





 そんな時、一人の神が名乗り出た。


 ――あの時のルーグのように。




「私が……ユウサリを止めます。あの時…助けられなかったから…今度こそ、私が…!」



 その神こそ、霜月時雨だったのだ。





 



"異世界の放浪者"の始まりと、初めの頃の時雨がチラッと見えました。


それにしても時雨…何か、誰だお前感が……


しかしこれにも訳があったりします。そこを…本編か番外編かにまとめられたらいいな…と思ってます←

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