第二十六話 隠し事
前半カイル視点、後半時雨視点です。
目が覚めると昨日見た天井が見えた。寝返りを打つと二段ベッドの柵が視界に入る。
昨日はクロウと色んな話をしていて、かなり遅くまで起きていたせいか、まだ眠い。
梯子を使って下に降り、下段のベッドを見るとクロウが幸せそうな顔をしながら眠っていた。
彼と話していても感じたが…クロウは本当に裏表ない真っ直ぐな人だ。
(クロウみたいな人間がいっぱいいれば…よかったのに…)
いや…やっぱりそれだけしかいないのも変だよなぁ…
そんな風に考えていると、クロウが「むぃーーー…」と変な声をあげながら起き上がった。
「…クロウ?」
「むぃーーーん……本日は晴天なれど風強過ぎて嵐なりけりー…」
「なにそれ意味わかんない!?」
思わずツッコミを入れるとクロウはそのままバタリとベッドに倒れ込んだ。そしてすぐに寝息が聞こえてきた。
「ね……寝言…?」
一体どんな夢を見ていたんだろうか…。僕には想像がつかなかった。
改めて壁に掛けられた時計を見れば、起きるのには少し早い時間だと気づいた。
今まで朝日が昇る前か同じ位の時間帯に起きることが多かったからな…。
「…二度寝でもしちゃおうかな…」
それに寒いし…布団の温かさが恋しくなる。
結局梯子を登り、再び布団に包まって眠りについた。
それから二時間後、何故かフランが部屋にやってきて叩き起こされたのは言うまでもない。
◆
「ふぉはようござひまひゅ〜…」
欠伸をしながらクロウが挨拶をする。それを見たカズハは少し困ったように笑いながら挨拶を返した。
今は食堂に集まっていて、時雨やフラン、孤児院に住む子達も座っていた。
テーブルの上には既に朝食のハムエッグをのせたトーストと温かいスープとサラダが用意されていた。
…今まで和食が多かったからな…洋食は久々だ。
それにあまり食べることが必要なかったから…こうやって大勢で一緒にご飯を食べるのは初めてだ。
そんな風に思いながら僕もクロウと同じ様に席に座った。
「さてと、これで揃いましたね。では…」
『頂きまーす』
声を揃えて食事の挨拶をする。そうして各々食べ始めた。
僕も袖をまくり、トーストを食べる。うん、美味しい。
洋食も旨いんだな…それとも、こんな風に他の人と一緒に食べるからなのかな。
「えへへー。カイル、美味しい?食堂のおばちゃんが作る料理はすっごく美味しいんだ!」
クロウがサラダを食べながら言う。彼の視線の先には朝食を作っただろう、クロウ曰くの「食堂のおばちゃん」がニカッと笑っていた。
その人に会釈をして再び料理に視線を戻す。
質素ながらも美味しい料理。それをみんなと食べれば美味しさは倍になるって訳か。
(成る程なぁ…)
一人そう納得しながらスープをスプーンで掬い、口に運んだ。
◆
旨い朝食を食べた後、カイルとフランは昨日この孤児院に案内をしてくれた少年、クロウと一緒に何処かに出掛けて行った。
一日でここまで仲良くなるとはな…。ましてはあのカイルを、だ。
(凄いな、クロウは……)
昨日は気づけなかったが、クロウはハーフエルフの様だが本人や周囲は特に気にしていない様子だ。
さらに彼には人を惹き付け、和ませるような感じがする。
随分とまた変わったヤツに出会ったみたいだな、こりゃ……
(さてと……)
今日こそこの街について知るための本を探さねば。
取り合えず、昔話や民話で構わないが……見つかればいいのだが。
昨日も探したが…本屋から古本屋まで行った。しかし何処にも置いてなかったのだ。
まるで…誰かがわざと購入、或いはその情報を他人に知られないようにする為に。
(街中の本屋、古本屋でああだったんだ……明らかに意図的なものに違いない。)
となれば…残されたのは街の図書館かこの孤児院にある本くらいか。
本屋でああなったんだ。図書館も望み薄かな……
孤児院のホールのソファに座りながら色々考えていると、カズハが近づいて来た。
「どうかしましたか?」
「ああ……ちょっと考え事をな…。」
「考え事…といいますと?」
カズハはちょこんと首を傾げながら訊いてきた。
「ああ、この街の民話とかいった本を探しているんだ。」
「民話ですか…」
カズハは顎に手を当て、考え込む。ついでに表情も盗み見たが…何か事情があるような感じがした。
(仕方がない…。)
精神を研ぎ澄ませ、心の声を聞き取ってみることにした。
『まずいな…あまり知られたくないのだが…』
あまり知られたくない…だと?
どういうことだ…何か隠しているのか?
「もしよければ僕の書斎に来ますか? 図書館程とはいきませんが…ある程度本はおいてある筈ですから。」
「…いいのか?」
「はい」
そう言って微笑んだが、その笑みは張り付けたような偽物の様な気がした。
でもまぁ…一応行ってみるか。
「じゃあ、頼む……じゃなくて頼みます。」
頭を下げながら言うと「わかりました」と素っ気なく返される。
…正直嫌だったんだろうな、コイツ……
そんな風に内心思いながらもカズハの書斎に向かった。
――カズハの書斎
カズハがドアを開け、どうぞと微笑んできた。表情は先程よりは緩くなっているが…やはりぎこちない。
軽く会釈してから入ると、比較的広めの部屋に本棚がいくつもあり、そこに本が詰められる様に置かれていた。
まあ…ユウサリの屋敷にあるあの図書館兼ヤツの書斎を見ていたせいか……やはり狭いと感じてしまう。
「民話の本はこの辺りに置いてある筈です。」
そう言って本棚の一角を指差す。確かにそこには(背表紙からだが)民話関連の本が置いてあった。
で、カズハはというと、さっさと自分の机の方に向かってしまった。
…さっきの台詞は何だったんだよ…と思えば、すぐに殺気を感じた。
(おいおい…どんだけ隠したいんだよ、コイツは……)
どうやら殺気だけを放っているだけで、他に何もしては来なかった。まぁ、こちらとしては好都合だからいいか。
そんな風に思いながら適当に本を一冊手に取り開く。
内容は思った通り、在り来たりというような感じでこの街についての民話がいくつも書かれていた。
ページを捲り、気になる内容を探す。個人的に気になるのは…そう……
(白狐と黒狐か…)
どちらも巫女、或いは神子という家系らしい。これといった対立は無さそうだが……
(ページが、ない…?)
白狐と黒狐の民話が詳しく書かれてあるだろうと思われるページは、破られていて、なかった。
しかも妙なことに、これが白と黒の狐の内容の所だけという………――
(まさか、な)
本を閉じて元の場所に戻す。そうして今度は別の民話の本を取り出す。
この本もやはり、白と黒狐の内容のページだけが破り取られていた。
不審に思い、いくつか別の民話の本を読んでみるが…やはり破られている。
しかも決まって白狐と黒狐の話。明らかに意図的にやったものとしか思えなかった。
取り合えず、聞いてみるか…。そう考えながらカズハに話し掛ける。
「あの、この本のこのページなんだが……」
「ん?ああ…子供達がうっかり破いてしまったんだよ。」
カズハは苦笑しながら、俺が手にした本を指先でトントンと叩いた。
「そうなのか…」
俺はそれ以上問う気がなく、本棚に戻る。というか、先程カズハの顔を見た時…目だけ笑っていなかった。
あんな表情を見て、これ以上踏み込むのは流石に無謀過ぎる。
(そういえば、"リーディア"の力には…こういった時の為に一時修繕の力もあったんだよな……)
あの能力があるヤツの誰かを一人、こちらに寄越した方がいいかもしれない。後でセクトに連絡をしないとな。
ふぅ…と溜め息を吐く。思った以上に情報が集まらない。まぁ、世の中うまくいかないのが普通なんだろうが……。
本を棚に戻すと、カズハがこちらにやって来た。
「もういいのですか?」
「ああ。…邪魔して悪か…いや、すみませんでした。」
「いえいえ。たまに子供達もやって来ては本を読んだりするので、大丈夫ですよ。」
そうにこやかに語るカズハには、先程までのぎこちなさは残っていなかった。
◆
――時雨とフランシアの割り当て部屋
「――というワケだ。」
連絡機でもある"通信水晶"から光が放たれ、《念写の鏡》が現れている。
そこには若干浮かない表情をした黒と銀の髪をポニーテールにした少年、セクトがいた。
そして今は、先程読んだ本についての為、"リーディア"の力を持つヤツをこちらに一人寄越してくれと頼んでいた所だ。
『…わかった、努力する。で…いつまでだ?』
「可能なら明日。急いでるんだよ」
『なっ…!? …わかったよ…なるべく急ぐ。』
「ああ。頼む」
俺がそう言うと、セクトは肩を落としながらも頷いた。そして、水晶から光が消えて、連絡が切れる。
俺はその水晶を異空間にしまうと、ベッドに横たわった。
正直、苛立っている。同時に疑問も残っていた。
何故、カズハはあれ程まで隠したがるのか……
そのことを考える度に、妙な胸騒ぎがする。…今日は早めに寝ようか。
そう決めた時、ドアがノックされた。俺が許可をすると、入ってきたのはフランとカイルだった。
今日も出掛けていたようだが、何故か二人共少し泥で汚れていた。
「お帰り、二人共」
「ただいまっ!」
「…ただいま」
元気よくニコニコしながら言うフランに対し、カイルは少し俯き加減で言う。
…まったく対称的だな。
「どこに行ってたんだ?」
「それはねー…内緒!」
いたずらっぽい笑みを浮かべながらフランはカイルの手を取り、逃げるように部屋から出て行った。
なんか、元気だな…あの二人。少し羨ましいぜ……
そういえばそろそろ夕食の時間か。身を起こし、部屋から出て行く。
明日には"リーディア"の力を持つ誰かが来るはずだ。それと変に気を使った気がする。
(やっぱり早めに寝るか)
そう考えながら俺は食堂に向かった。




