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異世界の放浪者と  作者: 天音時雨
第二章 白狐と少年
26/43

第二十三話 水の精霊王と再び予言

今回はかなり長いです。

そして語りがカイル視点とユウサリ視点の二つです。



――ユウサリの屋敷


「――――…で、わかりましたか?」


「………」


時雨は無言で頷いた。


…アレだけ凄い戦い(模擬戦だけど)をやったというのに…この説教状態とか…。


「…ふふっ」


思わず吹き出してしまった。それに気づいたのか、ユウサリと時雨がこちらを振り向く。


…壁から覗くように見ていたから、二人とも微妙な表情をした。



「…何やってんだ、カイル。」


「ちょっ……ちょっと気になって見てただけだし!」


僕がそう言い返すと、時雨が溜め息を吐いた。


「俺が説教されている所が面白いのか?」


「ち…違う…けど……」


「それともカイルも説教されたいのですか?」


口籠もっていると、ユウサリがそう言ってきた。…しかも笑顔で。


「「いや、それはない。」」


…言い返したら、時雨とハモった。思わず顔を見合わす。…といっても僕は物陰越しだけども。

それを見たユウサリが微笑んだ。


「意外と息が合うみたいですね、二人共。」


「なっ……!?」


違う、と言いたかった。けど……それも悪くないと思う部分もあって、なんて言い返したらいいのかわからなかった。


何も言い返さない僕を見て、時雨が首を傾げる。


「ん?どうした、カイル」


「なっ……なんでもないよっ!」


ふいっと顔を逸らし、()を視界にいれないようにする。


「…あっそ。…もう説教終わりだよな、ユウサリ…」


「はあ……いいですよ。」


そんな会話が聞こえて、時雨の気配が消えた。…多分、転移魔法で移動したんだと思う。


……最初、光雨(こうう)神社で会った時、絶対気が合わないだろうと思っていた。


でも……フランやユウサリから少し聞いたけど…悪いヤツではない。そんな風に思った。少し…気になる。


「…はぁ……()()は相変わらずですねぇ…」


……え。


彼女……?


「誰が…彼女?」



僕の問いにユウサリが首を傾げる。が、わかったのか、いきなり笑いだした。


「ふっ……あはは…!」


「な、なんだよ!」


「やっぱり…貴方もですか…。」


「は、はぁ!?」


いや、ワケわかんないんだけど!?


一頻り笑ったあと、ユウサリが教えてくれた。


「“彼女”は“時雨”のことですよ、カイル。」


「…え!?」


「時雨はいつも男装していますからね……無理もないでしょう。」


「えええ!?」


よ……予想外の事実…。時雨は女…だった…。←






「カーイールー」


「フラン?どうしたの?」


呼ばれたので振り返ると、フランの隣には金髪の青年がたっていた。背中には一対の黒い翼がある。…神力より霊力の方が強く感じる。多分…彼は精霊だろう。翼が黒いのは……力を隠すためなのかな?


僕がそう考えていると、フランがオロオロしている青年を小突いた。


「あう……え、えっと…オレはレディア=スティアです……。」


「あ…ああ、よろしく。僕は八雲海瑠(カイル)だ」


僕が名乗ると青年――レディアはぱっと表情が明るくなった。


「はいっ!よ…よろしくお願いします…!」



「ふぅ……レディアはオロオロしすぎなんだよー!もっと自信持ちなよ!」


不機嫌そうにフランが更にレディアを小突く。レディアは困ったように笑った。


「…ふむ、お主が“龍神・八雲”か……」


今度は後ろから声が聞こえた。そちらに振り向くと、青い着物を纏い、長い銀髪を一つに結った紅瞳の青年がいた。…彼も多分…上位の精霊だろう。


「…自己紹介が遅れたな。僕は蒼夜(そうや)月詠(つきよ)。魂の浄化・月の精霊だ。……よろしくな、八雲様」


「なっ…様はいらないよ!それに…カイルで構わないから…。」


「ほぅ……そうか…。」


目を細めながら蒼夜は少し笑う。



…何故だろう。光雨神社では…色々警戒していたから…気が立っていた。


でも…今は平気だ。完全に警戒心を解いたわけではないけど……。


今なら……少しだけ笑えそうだ。



「それにしても……さっきの模擬戦、凄かったよね!」


「…うん!時雨もユウサリもかっこよかった!」

フランとレディアがそう話し出す。蒼夜も頷いた。


「確かに……な。あやつ(ユウサリ)とは何かあれば喧嘩をしていたからな……それで知ったつもりになっていたが…やはりああなると違うな…」




……ユウサリ。


昨日、"心眼"で視た「記憶」が蘇る。




苦しみ、憎しみ、嘆き、恨み、悲しみ。



…色んな負の感情がぐちゃぐちゃに混ざりあったような感じ。



そして…それによる残虐な行為。



人は原型がわからなくなる程、短剣や魔術によるなにかで大量に殺され、山積みになっている光景。



そして、返り血を沢山浴びて、光のない瞳で笑う姿。……言い換えるのなら…そう…


“狂った夕陽色”



まさしく、そんな感じがした。


……一体どうやって今の状態に戻ったんだか…。


それと…ユウサリの実力も気になる。

確かに時雨と手合わせはしていたけど、見るのと実際にやるのは大きく違う。



……一応、聞いてみるか…。


(もしやるとするなら、準備がいるなぁ…。)


そう考えながら僕は昨日割り当てられた部屋に向かった。






「手合わせ、ですか?」


「そ。僕もやってみたくなったんだ。」


目の前の少年……カイルがそう言った。


ついさっき時雨と手合わせをしてそこから説教をし、数十分しか経っていない。


…まあ、闘技場の魔法によりダメージはない。だから私自身は平気なのだが……。


「…本当に大丈夫なのですか?」



カイルにそう訊ねる。…時雨から一応聞いたのだ。彼が何故、この世界(ファイニア)に戻ってきているのかということ、それには訳があるのだということを。


そう心配する私とは対照的に、カイルはムスッとした表情をする。


「なんだよ、僕の見た目が子供だからそう言うのか!?」


「いえ……そうではなくて…!体調は大丈夫なんですか?」


私が言うとカイルは一瞬、きょとんとした。が、すぐに「平気だよ!」と答えた。


…色々心配が多いのだが……カイルの意思は固いようだ。


「……わかりました。いいでしょう、カイル。」


「ホントに!?」


「ええ。」


「じゃあ、すぐ行こう!」


「今すぐですか!?」



…これは…思った以上に心配事が多そうだ……。



――再び闘技場



転移魔法で来たはいいが今回は私とカイル、リットの三人だけだ。

蒼夜達はロディアの所に行ってしまったらしい。時雨は…説教後すぐに逃げ出すように転移魔法で消えたので、行き先がわからない。


まあ…別に寂しいとか思ってませんけどね←


実体化させた短剣を握り、向こう側に立っているカイルを見る。…まだ武器を構えてはいないようだが…


「おーい!もう始めてもいいよー!」


「え……」


カイルは手を挙げてそう言う。

武器を持たない…ならば素手で戦うのだろうか?


「ちょっとー!こっちから行くからねっ!」


私が色々考えていたせいで、カイルに先手を譲ってしまった。


「っ!今のは…戦場や実戦だったら殺されてますよね……!」


「そうだろうね…っと!」


カイルは私との距離を一気に詰めてきた。龍神というのもあってなのか、一度の跳躍で私の近くにまで来るとは……


「考え事多すぎだってッ!」


着地してすぐにカイルは左足で私を蹴ろうと動く。咄嗟に短剣を持つ右手を庇うように、体の向きを変える。


ガッ!


闘技場に掛けられた魔法によりダメージはないが、衝撃だけは伝わる。つまり…なんと言うか、カイルの一撃はかなり重い…!

そのまま後方に飛ばされるが、なんとか体勢を整える。



「雷よ、鎖となり我が意思に従え!《チェーン・ライトニング》!」


即座に詠唱し、鎖の形をした雷を複数放つ。

鎖は各方向からカイルに向かっていく。


「…まったく、厄介な術だよね!これ!!」


そう言いながらカイルは上に跳躍する。しかし鎖も後を追うように上に向かう。


「なっ…術者の意思か…!」


一瞬カイルが目を見開くが、すぐに見据える。

そして何かを放つ。


「はぁッ!」


長い袖から鋭い刃……否、クナイが複数飛び出るように鎖に向かって放つ。

鎖はクナイとぶつかり、軽く爆発を起こすと消滅した。


「…飛び道具、ですか。」



転移魔法でカイルの背後を取り、短剣に魔力を込め、蒼いオーラを纏わせる。


「《襲蒼墜斬》!」


蒼い軌跡を描きながら短剣を降り下ろす。

だが、カイルに当たる直前に彼はこちらに向く。そして右腕を振るう。

袖の先から見えたのは……鋭利な刃。




ガキン!!



刃物と刃物がぶつかり合い、ギリギリと音をたてる。

…長い袖の中には武器……そう言うことか。


それにしても……カイルの力が思ったより強い。私の短剣の一撃を彼の短剣で受け止める。そしてそのまま押し合い。


何だろう、このカイルの一撃は……先程の時雨の斬撃の一撃と重さが似ている。


……やはり、龍神だからだとでもいうのだろうか?


フワリと一陣の風が吹く。


その瞬間、カイルの髪で隠れていた左目が露になる。


「!」


右目と違い、龍のように瞳孔が細い。


恐らく……この目は「龍の目」だろう…。

効力は確か"心眼"や"千里眼"の能力の強化、そして……ヒトの姿の時でも龍の姿の時に出せる強い殺気を使える、或いは強化することが出来る…といったあたりか。



「……“我に、”」


カイルの両目が私を捉える。そして微量の殺気を感じる。


「“我に逆らうのか!”」


ドン!! と強い殺気が放たれ、恐怖が私を飲み込もうとする。


が、なんとかギリギリの所で堪える。


「…やっぱ神様相手じゃ駄目か。」


カイルはそう呟くと一定の距離を取った。


「炎よ、雨の如く降らせ!《フレイム・レイン》!」


カイルが離れた瞬間を狙って即座に詠唱、彼に向かって炎の球を幾つも雨のように降り注ぐ。


「ちょ…っ!」


避ける間もなく炎の球はカイルに向かって落ちて行き、当たる。


恐らく直撃だろう。でも油断は出来ない。


(というか…時雨との戦いから考えればですが…)


本当にあの娘は無茶苦茶な戦い方をする時がある。手合わせの時や説教の原因の戦いでもそうだ。


っと……考え過ぎは良くない。


改めてカイルの方を見る。

術の衝撃のせいか、砂煙がたっている。……なんだろう、嫌な予感が……

耳を澄まし、精神を落ち着かせる。


一応ハーフエルフでもある故に聴力はエルフ寄りで高い。だから砂煙の中からカイルの声が聞き取れた。


「《双牙雷撃》!!」



「!氷河よ、我が目の前に現れん!《アイシクル・フォール》!!」


咄嗟に前に巨大な氷の壁を出す。


だが……


「な…横っ!?」


カイルの術であると思われる意思のある雷は、私の両脇から迫ってきていた。


すぐさま転移魔法を使い、先程出した氷の壁を足場にして跳躍し、上に逃げる。


時雨の時同様、またもや空中戦になってしまうが……仕方ない。


術でも短剣でも対応出来るように構える。



「ねぇ、なんで空中を選んだのさ?」



そんな声が私の上から聞こえてきた。


「っな!?」


私が留まっている所より遥かに上の所にカイルがいた。

私が驚いているのを見て、カイルがニヤリと笑う。


「どうしてそんなに上にいるのかって思ってるでしょ? そりゃあ……僕は龍神だけど……龍は空を翔る、とか言うじゃない?」


そう言いながら、カイルは構える。


「つまりね……空中とかは、龍にとっては有利でもあるんだよっ!」


袖に隠したクナイを複数放つ。…今回は炎や水、風などの属性のオーラを纏っている…!


「くっ…!《マジックウォール》!」


魔力を結晶化させた防御壁を張り、クナイの攻撃を防ぐ。

咄嗟に出したせいか壁は脆く、幾つものヒビが入った。


「それだけじゃ、ないよっ!」


ガシャン!


耳を劈くような音をたてながら《マジックウォール》が砕け散る。カイルの足技で壊れたらしい。しかも…その勢いは落ちていない。


「ぐっ…!」


思いきり右肩に蹴りが決まり、衝撃を受ける。

…実戦だったら…今の一撃は確実に骨が折れていた。


強い衝撃でバランスを崩し、短剣を取り落としてしまった。


「しまった…!」


慌てて手を伸ばすが、届かない。そのまま短剣は地上に落下していく。


「《招来・水撃!》」


短剣を取ろうとして、思わずカイルに背を向けるというスキを見せてしまう。

カイルはチャンスと言わんばかりに魔術で水の弾丸と衝撃波を放つ。


「がっ……! は、放つのは光の制裁!《シャイニング・スプレット》!」


術を背中にもろに食らいながら反撃。光の衝撃波を四方に放つ。


「うわぁっ!?」


振り返って確認すると、カイルに直撃したのが見えた。

落としてしまった短剣はもう諦めるしかない。となると、私に残された戦術は術攻撃のみ。


「吹き荒ぶ吹雪よ、冷たき刃となれ!《ブリザード》!」



カイルに向かって猛吹雪と氷の刃が襲う。

が、当たる直前に彼は体勢を直し、再び術を使った。


「《覇王ノ業火》!」


カイルの周りに五つの火の玉が現れ、円を描くように動き出す。直後、巨大な炎の波が向かい、吹雪をぶつかる。

案の定炎は氷を溶かしていき、徐々に私に向かって来る。


「ならば…精霊よ、我が呼び掛けに応え、猛々しい焔を沈め給え!《セイレーン》!」


水で出来た人魚の形をした水の精霊を召喚し、幾つもの水流を放つ。

見事に炎を消したが、ブワッと水蒸気爆発が起きて私とカイルは吹き飛ばされた。


「うわぁぁ!?」


「くっ…!」



(…少し予想外ですね…。)


心の中でそう呟き、水蒸気を避けながら体勢を整えた。



さて…どうしたものか……。


そう思った瞬間、一気に煙が晴れた。


その向こうには…何やら詠唱をしているカイルの姿が。周りには、金色の風が渦巻き、彼を取り囲む。


「……我が内に眠る龍よ、今此処に真の姿を……」


そこまで言った瞬間、カイルは顔を歪ませ、頭を抱える。


「うっ……ぐ……」


明らかに様子がおかしい。これは……一体…


「カイル……?」


私が近づいたとたん、カイルの体が傾いた。同時に、渦巻いていた風が勢いよく四散する。


「うわっ!?」


風に弾き飛ばされ、体のバランスを崩す。カイルはそのまま落下していく。


「しまった……!リット!!」


「ちょ…カイルっ!?」


地上で見ていたリットも気づいていたらしく、ある程度の高さまで飛んできていた。


そしてカイルを上手く受け止めた。



「…試合続行不能だね。」


ゆっくり下降しながらリットが言い、私は頷いた。





「おーいカイル、大丈夫かー?」


ぺちぺちとリットがカイルの頬を叩く。だが、カイルは唸るだけで目を開けない。


(……これは…神力が不安定になっている…?)


カイルから感じる神力はとても不安定になっていて…ガタついている様に思えた。


恐らく、神力が不安定になっている状態で、大きな術等を使おうとした結果……身体に負担が掛かり、気を失ったのかもしれない。



「…ここにいたのか。」


後ろから声が聞こえ、振り返ると時雨が立っていた。


「時雨……!」


「しぐ!大変、カイルが…」


リットが慌てた様子で時雨に駆け寄ろうとした時、誰かが割って入った。

割って入ったのは…中性的な顔立ちをし、水色の長い髪を一つに纏め肩の出た服を着た少年だ。

少年は私を見るとニコリと笑い掛けた。


「…レウス…ですね。」


「うん!そうだよー」


少女のように高い声でレウスは返事をした。


…水と魔術の精霊王、レウス=ウラヌス。何故か薬屋もやっているらしい。でも…店があるのにどうして彼がここに……?


「俺が連れてきた。」


「え……貴女が?」


平然と時雨はそう答えた。…だが、それでもまだ疑問は残る。


「理由は……カイルの状態について気になることがあったからだ。」



時雨曰く、光雨神社で会った時にもカイルの神力のガタには気づいたらしい。まして、弱っているカイルにルーシェの神力測定(物理)…ではなく、別の方法で測ったそうだが…その時でもやはり不安定であったらしい。


どうにかして安定させることは出来ないのか。そう言うわけで、まずは薬等で何とかならないか?ということでレウスを連れて来たのだとか。


…で、そのレウスはというと、何故かカイルを抱えてどこかへ行こうとしていた。


「「って、ちょっと待った!!」」


時雨と見事に声がシンクロする。レウスは「おー。息ぴったりだな〜」と呑気に笑いながら言う。


「『息ぴったりだな〜』じゃねぇ!!カイルをどこに連れていく気だ!」


レウスを睨み付けながら時雨が言った。それに対し彼は肩を竦めながら答える。


「どこって……そりゃあ、ユウサリの屋敷でいいでしょ?この闘技場でカイルの容態を診るのはちょっとね〜。いいでしょ?ユウサリ」



…思いの外、まともな答えだった。←

いや、レウスは確かに魔術や呪術、神力関連や薬に詳しいが……若干マッドサイエンティストの様な所もある。更にはたまに嘘を吐き、女装癖もあるとか……。

そんな事もあるので少し疑ってしまったが……時雨を見ると頷き返してきた。…どうやら嘘を吐いてはいないようだ。


「…わかりました。」


私がそう答えるとレウスはニッコリと笑った。







―――ユウサリの屋敷、カイルの割り当て部屋




「…どうなんだ?レウス」


カイルを診ていたレウスにそう聞く時雨。終わったのか、レウスはこちらに向き合う。


「まぁ……ある程度時雨が言っていた通りだねぇ。」



「…正確にはルーシェが言っていた、だけどな。」



…話によれば、カイルはセクトにより此方の世界に呼び寄せられた。危うく人間に殺されかけたらしく、ギリギリの所で助かったとか…。

しかし、間に合わなかった所もあった。それが……“龍神・八雲”が死んでしまった事、霊玉が割られてしまったという事。



「まあね〜。それと…長い間戦うこともしてなかったみたい。それも含め……今回の事件?が起きた。多分、心も傷付いて…更には霊玉まで……。一気に色々あったからか、神力への負担が掛かったんだと思うよ。」


まあ、一番の原因は精神的部分だね〜。とレウスは間延びした返事をする。だがすぐに真剣な表情を作る。



「……今のカイルには神力を使いすぎるのは危険だね。それに有効な特効薬はない……かな。なんせ精神的部分が原因だもの。本人次第だね。」



そう言い終えるとレウスはニヤリと笑った。


「…ま、ある程度の薬の処方はしておくからさー。今はそれだけかな?」


「……はぁ」


いつものペースに戻ったレウスを見て、時雨が溜め息を吐く。…気持ちはわからなくない。←


―…コンコン


ドアをノックする音が聞こえ「どうぞ」と言うと、恐る恐るという様にレディアが入ってきた。


「レディア?どうかしたのか?」


時雨が首を傾げながら聞くと、レディアはコクコクと頷き、肯定した。


「あ…あのね、また視えたんだ……」




レディアの言葉に時雨が目を見開いたが、すぐに溜め息を吐き「やっぱりな…」と呟いた。


「薄々そんな気がしていたからな……」


「え……そうなの?」


まあな、と時雨は返事しカイルが寝ているベッドを一度見る。


「ここで聞くのもアレだよな…。場所を変えるか、レディア」


「あ…、そうだね……!じゃ、じゃあ…オレの部屋でいいよね…?」



時雨は頷き、レディアと共に部屋から出ようとする。



……その時、何故だかわからないが、時雨が遠くに行ってしまうように見えた。


多分、レディアの予言はまた異世界に渡るということでもある。…だからなのか……わからないけれども……




思わず時雨の腕を引き、後ろから抱き締めた。…レウスやレディアが固まっているのが見えたが気にも留めなかった。


「は……?ユウサリ…何のつもりだよ、おい。」


そこまで言って時雨は私の顔を見ると固まった。

…何故か、その顔がよく見えない。


「……何泣いてんだよ…バカ。」


「え……泣いて、ます…?私……」



だからなのか、よく顔が見えないのは。時雨が溜め息を吐くのが聞こえ、私の頬に手が添えられた。


「……バーカ。泣くんじゃねぇよ。…俺はそう簡単は消えやしないさ。」



心を読んだのか、彼女はそう答えた。


「……わかりましたよ。…ごめんなさいね、時雨。」


彼女を解放し、涙を拭った。今度はハッキリ見える。


「まったく…行くぞ。ユウサリ、レディア。」


そう苦笑し時雨は私とレディアの腕を取り、部屋から出た。





目が覚めると、一応見たことのある天井。


あれ…僕は確か…闘技場でユウサリと手合わせをしていたハズじゃ……


…そうそう。詠唱の途中で急に頭が割れそうなくらい痛くなって、目眩がして………


「あ、気がついた?」


色々思い出していると見覚えのある少年が、いきなり僕の顔を覗き込むように見てきた。


「うわっ!?れ…レウス?」


驚いて飛び上がりそうになり、跳ね起きる。…見事にレウスと頭をぶつけてしまった。


「いったぁ……」


「いてて……そんだけ出来るなら大丈夫そうだな〜。でも取り合えず、これは飲んでおけー」


お互いぶつけた額を擦る。レウスは苦笑しながら何かが入ったカップを差し出した。

受け取り、中身を見ると緑茶が入っていた。


「お茶にちょっと霊薬を混ぜたからー。…無茶はダメだぞーカイル」


そう言いながら僕の頭をグリグリと撫でてきた。結構動いて…お茶飲めない…


「ちょ…お茶飲めないよ、レウス」


「っと、ゴメンゴメン!」



笑いながらレウスは手を離した。…まったく、もう……。

内心呆れながら渡されたお茶を一口飲む。…特に何ともない。ただの美味しい緑茶だ。…まぁ、霊薬は混ざっているんだろうけど。


「ああそうだー。知ってると思うけど、今のカイルの神力はガッタガタだから無闇に使っちゃダメだよ!またぶっ倒れちゃうから!」


笑顔でレウスは言った。…というか、今サラッと恐ろしいこと言ったよね!?


「じゃあ…あの頭痛と目眩は……」


「神力が不安定であることによる反動だね。特に…強い技を使おうとした時に出るって聞いたことあるよ。」


「…それ……当たってる……。」



僕がそう答えるとやっぱりね…と呟くのが聞こえた。


「……ねぇカイル、単刀直入に聞くけど…"人間"のこと、好きかい?」


「え…?」


顔を見上げてレウスを見ると、少し固い表情をしていた。


「君の回答次第では、ルーシェが提案した荒療治は…やめてもらうことになるね。」


“ルーシェが提案した荒療治”


…一応ルーシェ様本人からは聞いている。異世界に行く時雨に着いていき、"人間"を改めて見てくるということだ。


あの時、人々の願いを叶えようとして現れただけなのに…攻撃されて…。

正直、辛かった。どうしてこんな事になったのか…わからなかった。"人間"の事が、信じられなくなった。


でも、それは許されない。それは…僕が龍神だから……その考えは直さなきゃいけない。


「…人間が…好きかどうかは…わからない。わからないけど、改めて知らなきゃいけないと思うよ。」


はっきりそう言うと、レウスの表情は更に厳しくなる。


「それは君の本心かい?」


そりゃ勿論…。


「本心だよ、レウス」


もう一度、さっきみたいに言い切る。暫くレウスは何か言いたげにしていたけど、一つ息を吐くと苦笑した。


「…わかったよ。…カイルがそう思うならボクは止めないよ。」



でも無茶は絶対にダメだよ?と釘を刺してきた。


「わかってるよ……もう…」



苦笑しながら言い返す。レウスはいつものように笑いかけてきた。


その時ドアがノックされ、レウスが「どうぞ〜」と言うと、時雨が入ってきた。


「…レウス、話は…」


「ちゃんとしたよー。カイルは着いていくってー」


時雨は一瞬目を見開いたが、すぐに「そうか」と言いながら頷いた。


「……レディアの予言、お前も聞いた方がいい。…もう起き上がっても平気か?」


そう言われ、ベッドから降りてみる。…うん、何ともない。時雨を見ると「大丈夫そうだな」と言って部屋を出ていく。僕はその後を追っていった。





レディアの部屋に入ると、ユウサリやフラン、蒼夜とリットが既にいた。


「連れてきたぞ、レディア」


レディアは僕と時雨を見、頷くと目を閉じて一度深呼吸をした。


「……和と洋が交ざる街…白狐…ハーフエルフ……黒い影……。」


え…何これ、暗号?

かなり不完全な"予言"だなぁ……。


「…オレが視えたのはこれだけ……あとは、フランとカイルが一緒に行くべき…」


「え?」


目を開き、フランと僕を見るレディア。近くにいた蒼夜とユウサリが何か考えている様だ。リットはただ頷いているだけだった。


「フランシア…お前、二回目だな……」


蒼夜は少し羨ましそうに言う。…ああ、なんだ。そういうことか。←

対しフランはドヤ顔をしながら胸を張る。


「…レディア、黒い影というのは……」


「ごめん…ユウサリ……かなりぼんやりしていて詳しくはわからなかった……」


ユウサリの問いにレディアは申し訳なさそうに答えた。


「いえ……気にしないでください、レディア。…それと…時雨、カイル。」


僕と時雨に向き合うと、真剣な表情でユウサリが見つめてくる。が、すぐに困ったように微笑んだ。


「二人共、無茶はしないでくださいね。…勿論、フランシアもですよ。」


「……わかってるよ。もう説教は嫌だし。」



苦笑しながら時雨はそう言った。それから僕とフランを見る。


「じゃ…フラン、カイル。準備してこい。すぐに行くぞ、その世界にな!」


「りょうかーい!」


「え…え!? わ、わかった!」


と、唐突だなぁ……そう思いながら、割り当てられた僕の部屋に向かおうとすると「そうそう」と時雨が声をあげた。


「多分、その世界の季節は冬だ。だから防寒具とかの用意をしておけよー。」


…マジかよ…。




準備を終え、屋敷の外に出る。既に時雨とフランが立っている。…見送りの為か、ユウサリと蒼夜とレディア、リットとレウスもいた。


「…もう準備はいいか?」


「うん。」


「わたしも大丈夫だよ」


フランと僕が頷くのを見、時雨はユウサリ達を見て苦笑する。


「…こりゃまた賑やかな……」


「いいじゃん?悪くはないでしょ?」


ニヤニヤ笑いながらリットが言うと「まあな」と言いながら、時雨は一つ溜め息を吐いた。


「じゃあ……行くぞ、二人共」


そう言って術式を展開させる。


光に包まれていく中、見送りに来ていた誰かの声が聞こえた。



「行ってらっしゃい」




…時雨は、色んな人に愛されている。


それを何処か羨ましいと思いながら、僕らは世界を渡る事になった。

…漸く次の異世界に飛びます。



【オマケ】



ユウサリ「また行ってしまいましたね…」


レウス「おりょりょ〜?寂しそうだねぇ(ニヤニヤ」


リット「……なんでコイツがまだいるの…帰ってなかったんか…」


蒼夜「…何のことだ?」


レディア「さ……さぁ?」


レウス「なぁなぁ、どうなのさぁ〜」


ユウサリ&リット(うわ…鬱陶しいなぁ……)




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