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異世界の放浪者と  作者: 天音時雨
第一章 鬼の子
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第十七話 封じられた"力"

今回はフランとリヒトのターンです。

――時雨青年と話していた時



「リヒト、大丈夫?」


『っ…ああ。でも、足が…』


リヒトの足枷には術式が浮かび、彼を"封印"していた。


「封印の術式……」


普通の解除術では解けない。術式に浮かぶ文字を見て、フランはそう察した。



『くそっ……!』


どうにかして動こうとするリヒトだか、そうする度に、術式は彼の足だけではなく、身体全体を蝕んでいき、呻き声をあげた。


「っ…!動いちゃダメ!今、術を解くから…!!」


慌てて足枷に手をかざし、精神を研ぎ澄ます。


「………。」


…が、手を下ろし、なにか思い詰めたような表情をして俯いてしまった。


『……どうした?』


「わたし…やっぱり、自信がないよ…」


『え……なんでなんだ?』


次のフランの言葉に、リヒトは目を見開く。





「……だって…わたし…忌み子みたいな存在だから…」










『…自分が忌み子だから、誰かを助けられない……そう思ってんだろ?』


リヒトが言ったことにフランは驚き、思わず顔をあげた。


「え?なんでそれを……」


『オレも同じだからさ。』



だって、それが"鬼の子"のリヒトなのだから。と続けた。



『オレに近づいた人達は皆…不幸な目に遭った。…それが…命の恩人の人でも。』


「………」



『今もまた、そうなろうとしている。……でもよ、』


彼の青い瞳がフランを映す。

リヒトは彼女を、まるで昔の自分に語るように言葉を紡いだ。



『オレは、少しでも抗ってやる。そう決めたんだ。

助けようとした人に不幸が降りかかろうとするなら、それを振り払う…ってな。』



「……!」


何かに気がついたのか、ハッとした表情でフランはリヒトを見て、そして頷く。

彼女の顔には、自信に溢れていた。

まだ僅かに不安が残っていたが、気力を取り戻したようだ。


そして、再び足枷に手をかざし、詠唱を始める。


「―――…解くのは全て、禁術による全ての解放を!《ディスペル・レスト》!!」



赤い魔方陣が浮かび上がり、足枷に浮かんでいた術式は、糸が解けるように消え、枷にヒビが入り粉々に砕け散った。


「やった…!」


『よし…!ありがとな、フラン!』


「ううん。リヒトのお陰だよ!」



これで漸く加勢出来る。そう思った瞬間。










バン!!










一つの銃声が響いた。










「『っ!?』」



銃声がした方を見ると、見覚えのある人物が倒れていた。



『なっ…!!』


「し……時雨!!」



二人が同時に叫ぶと、青年はニヤリと笑みを浮かべた。



「遅かったね〜。待ちくたびれたよ〜」


そう言いながら、再び引き金を引いた。



バン!!



銃声と共に、紅い飛沫が青年にかかる。



「呆気ないよねー。ま、残りも簡単そうだしなー…」


『てめぇ……!』


「なんで……なんで……!」


リヒトは短剣を構えるが、フランは俯いてしまった。僅かにだか、震えている。


『フラン…?』


リヒトが顔を覗こうとすると、いきなり上げて、魔槍を振り回した。

それをリヒトは間一髪でかわす。


『な…なんだよ、いきなり!』


「う…あぁ……うあああああああぁあああああぁああああぁああああぁあああああああぁあああああぁああああぁああああぁあああああああぁあああああぁああああぁああああぁ!!」



悲鳴にも似た叫び声を上げながら跳躍し、一気に青年との距離を詰めた。


「え〜…なんなのさー。ひょっとして、ボクに対する怨み?」


魔槍を大きく薙ぎ払うが、それを軽々かわす。

だが、フランは攻撃の手を止めず、そのまま石突きで青年の足を絡め、転ばせた。


「うわっ!?」


流石に今のは対応できず、そのまま派手に転んだが、直ぐに体勢を整えた。



「っ!?」


が、フランはそれを許さず、既に術を完成させていた。

流石の青年の顔に、焦りの色が浮かぶ。


「全てを禁忌の焔で塵も残さず焼き尽くせ!《アグニ・ラウンド》!!」


大地をも焦がす勢いの炎が青年に襲い掛かる!


「…っ!《マジックウォール》!!」


ギリギリの所で《マジックウォール》を発動し、炎を防ぐ。

…だが。


「嵐よ吹き荒れろ、水よ怒れ!《フォール・オブ・テンペスト》!!」


水と風の塊が竜の姿を成し、《マジックウォール》を突き破り、青年を直撃した。


「うぐあっ!!」


竜は青年を呑み込むと、空へ飛び上がり、そして勢いよく大地に突っ込むように落下し、クレーターを作った。


「はぁ…はぁ……」


『…なんだ…今のは…!』


リヒトは青年が居るであろう、空に昇る砂煙を仰ぎながら呟いた。


『…あそこまでやれば…流石にアイツも…』


「………」

じっと砂煙を見つめるフランがなにかに気づいたらしく、身構えた。


「…リヒト、まだだ…!」


『…嘘だろ!?』


フランの声を聞き、身構えながら、砂煙を見た。


……そこには、確かに人影があった。



『…!!』


「……やってくれるじゃんか…。ふ…ふふふ…」


だんだん砂煙が晴れてくると、ぼろぼろになり、赤黒い血を流しながらも青年が立っている姿を捉えた。


「コイツ…!」


それを見たフランが表情を引き攣らせる。が、次の瞬間、彼女の目の前に青年が立っていた。


「な……!?」


「お返しだよッ!!」


青年は容赦なくフランを術で吹き飛ばした。


『フラン!!』


「まだまだ行くよ!!《ダークネス・インパクト》!!」


起き上がろうとしていたフランに、闇の衝撃波が襲い掛かり、無残に彼女の体は吹き飛ばされた。


次に青年は、自分の手に紫色の雷を集め、槍の形を作り上げる。

リヒトはそれに気づき、魔力で作ったナイフを投げつけるが、全てかわされてしまった。そして、リヒトを嘲笑うように振り返り、槍を構え、落下していくフランに狙いを定めた。


『や…やめろーーーーッ!!』


思わずリヒトはそう叫び、止めようと青年に向かって駆け出した


だが……やはり間に合わず


「《ランス・オブ・クラッシュ》!!」


槍は放たれ、それが分裂して、幾つもの稲妻の槍は落ちていくフランにぶち当たり、地面に叩きつけられた。


「あははは!やっぱり呆気ないね!」


その光景を可笑しくて仕方ないとでもいうように青年は嗤っていた。


『………っ…』


リヒトは思わず膝をつき、その声を聞かないように耳を塞ぎ、目を瞑る。



「…そうやって、また逃げるんだ」


『……ッ!!』


冷たい声がリヒトの心を突き刺す様な感じがして、思わず顔を上げると、青年が冷笑していた。

そして、両腕を広げながら口を開いた。


「いいよ?別に逃げたって。……でもねー、キミが逃げればボクの計画(・・・・・)は水の泡。それじゃあ困るんだよね〜」


『ど……どう言うことだよ…』


そう言うと、青年は口角を上げ、リヒトを指差す。


「最初に言ったよねー?…『ボクは"鬼の子"を殺しにきた』って」



そして、青年は短剣を握り直し、リヒトに切っ先を向けた。


「だからさ〜……――――

――――死んで?」










直後、禍々しい紫と赤の槍が、青年とリヒトの間に突き刺さった。



『…!!』


「まだ生きてたんだー。しぶといなぁ、キミ。」


青年の視線の先……そこには、地面に倒れながらも術を使ったフランの姿があった。


『フラン…!』


「……はぁ…はぁ……殺…させ……ない……ッ!!」


苦痛に顔を歪ませながらも、フランは青年を睨み付けていた。



「しょうがないなぁ〜……すぐに楽にしてあげるからさー」


青年は楽しそうに笑いながら短剣を構え直し、ゆっくりフランに近づく。


『やめろ………やめろ、やめてくれ!!!』



ただリヒトは悲鳴のような叫びを上げた。


当然、止めることはできない。


青年はフランに近づいていく…














(――――)



『……え?』



何かに気がついたのか、はっとして顔を上げる。


そこには、相変わらずフランを殺そうとする青年の後ろ姿が見えた。



リヒトは何か決心したのか、立ち上がった。


その顔に、迷いや不安は残っていなかった。




そして、術式を展開させる。


その術式は清らかな蒼の光を湛え、複雑な魔法陣を描いた。



彼は声を出せない。だが……



この"術"に声は要らない。



その代わりに心の声で詠唱するものだ。




そしてリヒトは、詠唱を始めた。



『落とすのは鉄槌、今此処に光の鉄槌を下さん!《レイディアント・セイバー》!!』



瞬間、青年の足下と頭上に魔法陣が現れる。



「…これはッ!?」



最後まで言い切る前に術が発動し、蒼い稲妻と光の矢が彼に降り注いだ。


「うわぁあああああっ!?」


そして、とどめと言わんばかりの激しい衝撃波が青年を吹き飛ばした。




「……これは……もしかして…リヒトが……?」


その様子を間近で見たフランが驚いた表情で、向こうにいるリヒトに顔を向けた。




「この力は………まさか……」


先程の術式と、そこから感じ取った"魔力と似た何か"。



フランは気づいた。


あの足枷は、彼の"力"ごと封印するためにあったのだと。



「でも……なんで……」



ある一つの疑問を残しながら、取り敢えず今の状況を優先することにした。


フランはゆっくりと立ち上がり、リヒトの方へ駆け出した。

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