表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

はじまりはじまり

 「すごい、どうして分かるの」

お客さんは皆、目を輝かせる。そして私のアドバイスを一生懸命聞いてくれる。

分かりました、やってみます、最後にそう言って立ち上がる。その時のお客さんの目が私は好きだ。何かに立ち向かうような、未来を変えようというその目は幸せになろうという意志の表れで、そんなお客さんの思いがとても好きだから。

 「ありがとう」

お客さんがそう言うと「どういたしまして」なんて返さない。返せない。その人の両手を握って同じ言葉をそのまま返す。「ありがとう」

「ありがとう、私の話を聞いてくれて」

いつもお礼を言う。そして、心から願う。

「あなたの幸せを祈っています」

 

私が占い師になろうと思ったのは弟がきっかけだった。

小学生の頃からいじめに遭い続けてきた弟。大人しくて優しくて、きれいな顔。ずっといじめの原因は単なる「妬み」だと思っていた。でも実際は違った。

弟には私達の見えない世界が見えていた。それが弟がいじめに遭う最大の理由だった。

未来が読める力。人の心を読む力。普通じゃなかった。その他にも弟が何か力を隠しているのを私は知っている。両親とも普通の人だったのになぜ弟は違うのか、それは私にも両親にも分からない謎だった。

日に日にいじめはひどくなった。弟は私を巻き込みたくないらしく何も言わなかった。

でも、私は弟を守ろうと思った。年下相手なら勝ち目はある、ずっとそう思って弟の代わりに戦ってきた。だからたまに予想外の事が起きると結構怖かった。でもどうしても許せなくて、自分より強い相手でもいつも向かっていった。

もし、弟のような力が私にあったら、そんな奴らを簡単に打ちのめす事も出来たのだろうと思った。思って、でも考え直した。弟は自身のその力を人を痛めつける事に使っていなかったから。

弟はその力をいつも人の為に使っていた。怪我をした時はすぐ助けに来てくれた。父親の交通事故は前夜のアドバイスで軽いもので済んだ。私よりも弟の方がずっと大人で気高かった。

いつしか私は弟のようになりたいと思うようになった。

そうして私は占い師になった。

才能はなかったけれど、少しずつ力がついてきた時、一番知りたくない未来が見えた。

自分の死ぬ日だった。

その時、死ぬまでに何をしなければいけないのか同時に分かった。そして、今、この瞬間、弟がどこか違う世界で私の為に何かをしている事を感じた。

私は紫のハンカチを握りしめた。嗅いだ事のない香水の匂いがした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ