はじまりはじまり
「すごい、どうして分かるの」
お客さんは皆、目を輝かせる。そして私のアドバイスを一生懸命聞いてくれる。
分かりました、やってみます、最後にそう言って立ち上がる。その時のお客さんの目が私は好きだ。何かに立ち向かうような、未来を変えようというその目は幸せになろうという意志の表れで、そんなお客さんの思いがとても好きだから。
「ありがとう」
お客さんがそう言うと「どういたしまして」なんて返さない。返せない。その人の両手を握って同じ言葉をそのまま返す。「ありがとう」
「ありがとう、私の話を聞いてくれて」
いつもお礼を言う。そして、心から願う。
「あなたの幸せを祈っています」
私が占い師になろうと思ったのは弟がきっかけだった。
小学生の頃からいじめに遭い続けてきた弟。大人しくて優しくて、きれいな顔。ずっといじめの原因は単なる「妬み」だと思っていた。でも実際は違った。
弟には私達の見えない世界が見えていた。それが弟がいじめに遭う最大の理由だった。
未来が読める力。人の心を読む力。普通じゃなかった。その他にも弟が何か力を隠しているのを私は知っている。両親とも普通の人だったのになぜ弟は違うのか、それは私にも両親にも分からない謎だった。
日に日にいじめはひどくなった。弟は私を巻き込みたくないらしく何も言わなかった。
でも、私は弟を守ろうと思った。年下相手なら勝ち目はある、ずっとそう思って弟の代わりに戦ってきた。だからたまに予想外の事が起きると結構怖かった。でもどうしても許せなくて、自分より強い相手でもいつも向かっていった。
もし、弟のような力が私にあったら、そんな奴らを簡単に打ちのめす事も出来たのだろうと思った。思って、でも考え直した。弟は自身のその力を人を痛めつける事に使っていなかったから。
弟はその力をいつも人の為に使っていた。怪我をした時はすぐ助けに来てくれた。父親の交通事故は前夜のアドバイスで軽いもので済んだ。私よりも弟の方がずっと大人で気高かった。
いつしか私は弟のようになりたいと思うようになった。
そうして私は占い師になった。
才能はなかったけれど、少しずつ力がついてきた時、一番知りたくない未来が見えた。
自分の死ぬ日だった。
その時、死ぬまでに何をしなければいけないのか同時に分かった。そして、今、この瞬間、弟がどこか違う世界で私の為に何かをしている事を感じた。
私は紫のハンカチを握りしめた。嗅いだ事のない香水の匂いがした。