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「全然足りない!このペースじゃ間に合わない!このままじゃマズイよ!絶対あんなキモイ奴のいう事きくなんて嫌だし!」
一人の少女が泣き崩れる。
「解決の糸口が見えぬまま、様々な言動を後悔しながら、ただ時が過ぎるのを待つのだけは嫌。とにかく、やれることは全部やって、いろいろ考えるのはもうやめた!」
歯を食いしばり、拳を握り、ゆっくりと立ち上がる。
走りだす少女。
小さくなる背中。
「待って。僕も行く!」
追いかける一つの影。
数日前・・・・
ルルルルルルル
「なんだろこんな時間に・・・」
少女が携帯電話を取ると、焦った女性の声が聞こえてきた。
「晴日大変よ!」
「え?宏子さん?なに?どうしたのこんな時間に?」
「実は・・・この間のイベントあったじゃない、あの時カメラ回ってたの覚えてる?」
「うん。でも、それっていつもの事だよね。確かにあの時はちょっと台数多かったけどさ」
「あの時の映像ね。今度のDVD特典になったみたいなの・・・それでちょっと晴日から話を聞いてたから心配になっちゃってさ」
「ちょ、え?ホントに?うわぁ。それもう止められないの?なんでそんな事するの?」
「私も事務所に掛け合ったけど、グループ全体で決まった事だからって・・・」
晴日の表情が強張る。
「私、あの時ちょっといろいろあった時で、そのイベント自体にもいろいろと思うところあってさ、そういうのいろいろ重なっちゃって、カメラの前でいろいろ鬱憤をぶつけちゃったんだよね・・・それって、いつ発売になるの?」
「それが、今日先行で発売されたみたいなのよ。サプライズってやつ?」
携帯が晴日の手からこぼれ落ちる。
ゴトッ
「いらない・・・」
ひとりきりの部屋へ、静かな部屋に、ただ晴日の声だけが小さく響き渡る。
「いらない・・・いらない・・・そんなサプライズなんていらないよぉぉぉ!!」
絶叫し、床に座りこむ。
14歳からこのアイドルグループに所属して3年。
やっと風が向いてきたと思った時に起きた出来事だった。
加入当初は、将来のセンター候補なんて言われてて、凄く凄く頑張った。
楽しかった。
もうすぐ選抜にって話が、運営の方から囁かれ始めた時期に、もともと頑強ではなかった身体に、頑張り過ぎた代償なのか病気になってしまった。
同期加入の仲間がどんどんと選抜に入っていく中、病床で涙した。
復帰した時には、同期達とは大きく差が開いてしまった。
その後、チャンスを掴んでは怪我や不運が重なって、本当に何度も卒業を考えてきた。
そして、先日のイベント。
こんなにもがき苦しんできた自分の姿を嘲笑うように、運で選抜を決めようってイベントが、ずっと小さい頃から憧れ続けてきた夢の舞台で、コンサートではなくイベント会場として行われる事になった。若き少女は自分の気持ちいろいろな想いをカメラの前で鬱憤をすべてさらけ出してしまった。
泣き腫らした目で、ゆっくりと立ち上がる。
悲しい時、辛い時、苦しい時、いつも家族が支えてくれた。
そして、自分が卒業せずに続けて来れた理由。
いつもファンが勇気づけてくれてた。
ツイッターのリプやブログのコメント欄、某掲示板のファンサイト。
いつも勇気をくれる言葉で溢れている。
それを見るだけで、また明日から頑張ろうって、一歩を踏み出す勇気を、背中を推してもらってきた。
ゆっくりと机に座り、パソコンのスイッチをつける。
48:id:名無し
あれ見たか?驚愕したわ・・・
52:id:名無し
>>48
俺たちは、まんまと騙されてたんだな。
60:id:名無し
>>52
天使の羽は真っ黒でした乙
68:id:名無し
あの映像合成だから!!!俺のはるたむがぁぁぁぁぁ(TдT)
76:id:名無し
終わったな・・・この映像一生残るし、復旧ムリポ推し変するわ・・・
88:id:一生はるたむ推し
編集ひどすぎ!悪意がありすぎるだろっ!俺は応援し続けるぞ!
90:id:名無し
明日の握手会で「金返せ!!ビッチ乙!」って吐き捨ててきて俺もうヲタ卒するわ
嘘であって欲しいわ。昨日までの素晴らしき日々を返してくれ!
99:id:名無し
高田最強伝説だな。
気の強さはグループナンバーワン!
100:id:名無し
100GET!!!!
122:id:名無し
>>88
いや、言ってることもやってることも真実だからな、目を覚ませよ。
134:id:名無し
高田みたいな気持ち悪い女のヲタ共々この世から消えろ
155:id:名無し
セクロス業界転身決定
はるぱいhshs
168:id:名無し
俺の愛はこんなことでは揺るぎもせん!
177:id:名無し
>>168
こういう奴が、翌日他のレーン並んでるパターンな。
180:id:名無し
>>168
高田もろとも地獄に落ちろ!
グループの恥さらしは人生も卒業しろ!
198:id:名無し
裏切られたってよりも、ひたすら悲しいわ・・・
せっかくチャンス掴みかけたのに・・・
230:id:名無し
運営殺スぞ!
なんて映像晒してくれてんじゃ!
てめーらーにメンへの愛が無いのは良く分かった!!
241:id:名無し
230>>
逆恨み乙
高田は17歳にしてスーパービッチの称号GETだな
250:id:名無し
230>>
いやいや、真実晒しただけだし
目をさましてくれた運営に感謝だろ
261:id:名無し
明日から働く気力無くなりました
285:id:名無し
高田お前は一生許さん!俺の時間を返せ!
・・・・
ブログコメントもツイッターリプライも、某掲示板も大炎上だった。
ブログと、ツイッターリプライは、夜明け前には事務所サイドで凍結したみたいだ。
某掲示板では、延々と炎上が続いているみたい。
「もう明日の握手会なんて行けるわけない・・・本当に殺されちゃう・・・嫌だ・・・行きたくない・・・消えちゃいたい・・・・」
パソコンの前に突っ伏する。
「助けて・・・助けて・・・・助けて」
「え?」
突っ伏する晴日の耳に誰かの声が聞こえる。
「誰?誰かいるの?」
はっとして振り返るが誰もいない・・・
「え?僕の声が聴こえるの?助けて・・・くれるの?だったら、この扉を・・・」
それは突然、部屋に現れた。
部屋の本棚の前に、眩しいくら青い光の輪が広がった。
「助ける?私が?無理・・自分の事だって精一杯なのに・・・そんな余裕ない!」
晴日の叫びが部屋に響く。
返事は無い。
「でも、逃げたい、どこでもいいから逃げ出したい・・・もうここでは無い何処かへ・・・」
晴日はその足を光の輪へ踏み出した・・・
眩い光に包まれて、ゆっくりとゆっくりと身体が光の粒になっていく・・・・
「ああ、私死んじゃったのかな・・・そんなつもりでも無かったんだけどな・・・」
両親の顔がさっと頭を過ぎった。
光の粒がゆっくりと集まっていく感覚。
「オラァ!しぶといな!」
ザシュ!ザシュ!
唐突に晴日の目の前に広がる光景。
4人の男が目の前に円陣になっている。
その後ろで、でっぷりとした男がニヤついた笑みを浮かべて立っていた。
「もう少しっぽいね。さて、どういったお宝になるか楽しみだねぇ」
「何?なんなの?ここはどこ?」
晴日は突然の出来事に頭が付いて行かない・・・
突然、パジャマのままで、外にいる・・・
しかも、昼間だし。
目の前の、男たちの円陣を見ると、何かが彼らの足元で動いた。
「お!逃がすな!」ザシュ!
男たちの手には鋭利なナイフが。
そしてその足元には、何か赤く丸い物体が・・・
そして、ツンと鼻をつくこの臭いは・・・
「え?え?ちょっとこれって血の臭い?」
血まみれの物体が、鈍くまたも動く。
「やめてぇぇぇっぇぇぇぇぇぇぇ!!!!ああああああぁぁっぁぁぁぁ!!!!」
自分でも信じられない絶叫。
血まみれの物体に覆いかぶさる小さな身体。
じっとりとパジャマに染みていく血液。
「おいっ!」
「こらっ!」
「どけやアマ!」
口々に罵倒しながらも一瞬躊躇する男たち。
「おやおや・・・あなたは何者ですか?自分のしていることが分かっているのですか?」
でっぷりとした男が、ゆっくりと近づきながら見下してくる。
「私は・・私は・・・あ、あなたたち!寄ってたかって!死んじゃう!それ以上したら死んじゃうよォォ!」
必死の形相で晴日は訴えた。
「何を言ってるんですか、あなたは、それの所有者は僕だよ。役に立たないから、お宝に変えて財物にしようとしてるんだ、死ではない、アイテムを変換するだけだよ。」
「だって、だって、きっとさっき助けを私に求めてきたのは、この子よ!生きたい!助けて!ってこの子が言ってた!」
「馬鹿な子だなぁ。子供のドラゴンが言葉を話せるなんて聞いたことなんて無いよ。大人しくそこをどきなよ。可愛いお譲ちゃん。僕も人殺しまではするつもりも無いからね。」
「ブルタル様がご好意で言ってる間にどくんだ娘。」
大柄な男が腕を伸ばしてくる。
しがみつく晴日。
「ちょっと待って!」
突然、ブルタルと呼ばれた男が呼び止める。
「この娘、凄く綺麗な娘だね。この強気な目。黒くてサラサラの髪。スベスベの肌。ぽってりした唇。身体は華奢なのに、出るとこはしっかり出てるみたいだし。ゲショゲショゲショ。」
突然、興奮したかの如く、口から飛沫を飛ばしながら、晴日を上から下まで舐め回すようにじっとりと血走った目で見る。
ゾワゾワゾワ
もの凄い悪寒が晴日を襲った。
「なになになになに?今の笑ったの?ゲショゲショって?それより早く治療を!」
「うん。いいよ。その代わり、それ買ってよ。」
「え?何?買うって何を?治療費の事?」
「だから、君が庇っている役立たずの子ドラゴンだよ。」
「この子の命を買う?命をお金でやりとりするの?」
「そうだよ、こうみえても僕は商人だからね。商品はより高く買ってくれる人に売りたいんだよ。先日買った、珍しい変わった色の大きなドラゴンの卵、孵してみたはいいけど、飛べないし、火も満足に吹けないし、見栄えも悪いし、これじゃ何処にも売れないからね。バラして部位別にアイテムに変換して売り捌こうとしてたのさ。子供のドラゴンなら、時間はかかるけど我々にもアイテム変換出来そうだったからね。」
「なんて酷いことを・・・買うわ。買う。この子私が買うわよ。」
「ゲショゲショゲショゲショウヒウヒウヒヘヘヘヘ」
満面の笑みを浮かべながら、身体を揺らして笑っている。
ブルタルはもの凄く満足そうだ。
「100万ドランよ」
ザワザワザワザワ
いつの間にか周囲に集まった人垣から大きなざわめきが起こる。
「ドラン?それは、お金の単位のようだけど・・・」
ブルタルは、もう勝ち誇った笑みが顔に張り付いたようだ。
「ゲショショショ、うん、分かってるよ。君無一文なんだろ、そんな肌着みたいな格好で、着崩れた格好で街をウロウロしてるんだもんね。放浪民かなにかかな?その日暮らしってやつだ。武器の一つも持ってないみたいだし、賭博にでも負けたのかな?いいよ。いいよ。君の窮状は全て理解しているつもりだよ。僕が、そのドラゴンを買うお金も貸してあげるよ。」
「え?本当に?」
「嘘をついてどうする。100万ドラン。君に貸付しよう。期限は1ヶ月。一ヶ月後には返して欲しい。自分にも100万ドランは大金だからね。事業の資金繰りを若干ではあるけど、圧迫するからね。特別金利で1ヶ月後に200万ドランにしてあげるよ。」