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アリフェレット異海譚  作者: 水炊き半兵衛
Ep1:北方四国貿易網
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9.前準備

 リリア鉄鉱とレンガ、ミスト、海真珠。バルトルード商会の商品リストを見ると、やはりこの四品が売れ筋のトップに位置している。

 前者二つは最近仕入れ始めたのだが、耳の早い貴族連中が買っていくので利益がごろごろ転がり込んでくる。

 叫喚の一族に提供している本や酒もそこまで高くないので、何だか悪いことをしているのではと感じることもしばしば。

 それほどまでに利益があるのだ。グラフにすれば面白い図になるに違いないと半ば確信している。


「資金もそこそこ貯まってるし、そろそろアズリア神州と契約したいな」


 とは言え、まずはアズリア神州から貿易権限を貰わねば話にならない。要は、領主なり王様なりと契約して市場での売買を認めて貰わなくてはならないのだ。

 前回の叫喚の一族はその辺をとばして取引をしているが、今回はそんなゴリ押しは無理だ。しようものなら、戦争を仕掛けられても文句は言えない。


「となれば海路の開拓が最優先か。叫喚の一族の島を中継地点にして、更に東へ進むか」

「アズリア神州の手前の小さな島々はどうするつもり?」


 レストール群国の世界地図と照らし合わせてみると、確かにあの島から少し東へ進んだところに小さな島々が乱立している。

 シュトラウス曰く、この辺りはマーメイドの縄張りだと言うが……。


「何で知ってるんだ?」

「レストールの海洋冒険家の手記を読んだことがあるのよ。それに書いてあったわ」

「……何でも読むのな、シュトラウス」

「その手記もレストールの活版印刷で世界的に売られているから、見ようと思えば見れるわよ」


 いや、そうじゃなくてだな。お前の好奇心は無節操だなと思っただけであって……はぁ、もうやめよう。

 ともかくだ。アズリア神州に行くにはまず、このマーメイドの縄張りを突破するしか無い、と。


「強行突破は無理か?」

「船底がアリス・マードッグで良かった、と言っておくわ」

「……熱烈な歓迎だな。涙が出るよ」


 刺激しない方が得策かも知れない。となれば、やはりここはあの一手しか無いだろう。



「と言うわけで、口添えできないか?」

「マーメイドか……難しいところだな」


 定期の貿易便の際、リリアにマーメイドの交渉をお願いしてみた。ここは下手に他人が出しゃばると痛い目を見る。ならば、ご近所さんに説得してもらおうという算段だ。

 そう考えたのだが、リリアの反応は芳しくない。


「ヤツらは何よりも歌と踊りを貴ぶ。認められるには、その……」

「歌って踊れる航海士になれ、と?」

「……まぁ、そういう事だ」


 これは想像以上に難易度が高い。歌はカラオケで六十点が最高で、踊りはパートナーの足を踏んで諸共すっ転ぶ。そんな低スペックでは、到底認められはしないだろう。

 コメディとしてならウケるかも知れないが、貴ぶというくらいだからそんなお遊びも通用しそうにない。


「レティ、見てみたいなぁ……」


 ボソリと呟いたレティに、世話役に最近任命されたアスパーが反応する。


「見てみたいって、マーメイドの踊りをかい?」

「うん! 家でもね、パパとママが人をたくさん呼んで、歌ったり踊ったりするの!」


 お庭で聞いてて楽しかったの、と続けられた言葉は無邪気な筈なのに重い。

 庭って……もしかしてそれハブられてたってことかな。どうにもレティの両親像がどんどん醜くなっている気がする。まぁ、はじめから家名に拘る典型的な貴族サマなのは分かっていたけど。


「マーメイドたちの歌劇は見るものを魅了すると聞く。一族の中で歌と踊りが一番上手な者が長に就くらしい」


 リリアの言葉も付け加えられ、どうやらマーメイドたちは本気で歌と踊りに命をかけているらしい。

 さて、ここまでの情報を吟味してみる。

 まずここから東にあるマーメイドの縄張り――仮称としてマーメイド諸島とでも呼ぼうか――そこを強引に突っ切るのは無理があり、通るにはマーメイドたちに認められなければならない。

 しかしマーメイドたちは歌と踊りを何よりも貴び、付け焼刃やお遊びは一切通用しない。

 そしてレティが見たがっている、と。……見たがっている、ねぇ?


「アスパー、お前マーメイドの歌劇って見たことあるのか?」

「あるわけねぇだろ」

「そもそもマーメイドはあそこの縄張りからほとんど出て来ないのだ。我々も、実際に遠くから踊っているのを見たくらいだな」


 もっとも、遠すぎて何をやっているか全く分からなかったがな、とリリアは締めくくった。

 それを聞いた俺は一つの案を思いついた。これなら、上手くいけば通してもらえるかも知れないし、何より利益にも繋がる。


「アスパー、レティ。一旦商会へ戻るぞ」

「お、何か思いついたか?」


 アスパーの質問に、俺は力強く頷く。


「あぁ。先ずは船を一隻造ってからだ」

「?」

「見せてやるよ、マーメイドの歌劇を」


 首をかしげる三人を見て、俺は自信満々に言い放つ。大丈夫だ失敗はしない。多分、だけど。

 内心、そこまで自信は無いのだがそれは意地でも態度に出さない。さて、シュトラウスに報告して準備をしなくちゃな。

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