34.続く日常
結果的にインパニス独立国は復興されなかった。数少ない生き残りも陸続きのアリフェレット王国が吸収。そして広大な領土は大規模な奴隷市場として利用されることになった。
アリフェレット王国を中心としてレストールに加盟している主だった国々の支援によって設立された奴隷市場は末永く活用されることとなる。
更にこの奴隷市場はバルトルード商会が管理することとなり、同時にアリフェレット王国直属からレストール所属の商会へと形を変えた。その影響力がアリフェレットに留まらず、下手をすれば一国を相手に戦争すらできるほどの戦力を有しているので他国への制裁戦力として運用するというのが主な理由だった。
総帥はシュトラウス・フェン・バルトルード。多くの功績から"海姫"という字で小国から恐れられた彼女だが、その影には国喰卿の姿があった。
「俺の役目は果たした」
レンヤ・イガラシの遺言に彼の関係者はレンヤらしいとこぼした。彼の役目が何だったのかは分からないが、安らかな顔で最期を迎えたと言う。
レンヤの葬儀はアリフェレット主導で行われ、その功績を称えた石碑が建てられた。
そして――。
◆
「あれ?」
ふと目を覚ますと現代の自室に俺は居た。えと確か……あぁ、そうそう。アリフェレット海戦記の過去で色々やって、シュトラウスと結婚して、寿命で死んだんだっけ。
確か八十後半くらいだったよな。そう考えると七十年近く向こうの世界で生活していたことになる。
「早すぎた第二の人生だったよな。かなり恵まれてたけど」
既に電源の切れたVR機を横目に呟く。奴隷になって、シュトラウスに拾われて。最終的には公爵にまで成り上がって。現代日本ではまず体験できない立志伝だ。
……元気かな、シュトラウス。最期まで笑顔で手を握ってくれてた最愛の妻。どうしよう、今更こっちで結婚とかしたくねぇなぁ。
「まぁいいか。時間はあるんだし、後悔だけはしないように生きれれば」
そう言えばシルバレット・ロアーでシナリオを組まなきゃいけなかったっけ。ゼロ=シンまでだし、難易度も調整しとかねえと。
時間は既に夜の十時を回っている。……何か疲れたな。もう寝るか。シナリオは明日考えりゃいいか。ベッドに身を投げるとすぐに意識が沈んでいく――。
「やぁ蓮矢」
「おう、久しぶりだな川崎」
「……? 昨日、アリフェレット海戦記のセッションで会ったと思うんだけど」
「え、あ……すまん。ちょい寝ぼけてた」
翌日、高校の教室で早速やらかした。俺からすれば七十年ぶりでも向こうからすれば昨日遊んだばっかなんだよな。
「そう言えば今日だったよね、海外から留学生が来るのって」
「え~と……あ~、そんな事言ってたなぁ」
覚えてないが話を合わせる。ヤバいな、先生が何言ってたかなんて全然記憶にない。あるのはレンヤ・イガラシとして過ごした七十年ちょいの記憶のみ。辛うじて自分のクラスとかは覚えてたが、勉強の内容は頭から抜けている。次のテスト、ヤバイかも知れん。
「よ~しお前らー、席に着け」
出席簿で肩を叩きながら担任の教師が教室へ入ってくる。名前何だったけか……日本人らしからぬ横文字しか思い浮かばない。こりゃしばらくは日常生活で苦労しそうだ。
「先週くらいから言ってた留学生だが、今廊下で待たせてある。野郎ども喜べ、女子だ」
おおぉぉ、と男子の喜びの声が上がる。単純なヤツらめ。
「じゃあ入ってくれ。えぇと何だ? ウェルカムトゥ、キョーシツインルーム……」
「すみません。日本語分かりますので」
担任の摩訶不思議言語に苦笑しながら留学生が入ってくる。橙混じりの赤髪に紅蓮の瞳。……あれ、俺知ってんな。顔がどんどん引き攣っていくのが分かる。
「初めまして。シュトラウス・フェン・バルトルードと申します。日本は不慣れでご迷惑をおかけするかも知れませんが、よろしくお願いします」
流れる様な日本語に一同唖然。そして俺は彼女の名前に唖然。いくらなんでもこれは出来過ぎだろう――!?
「じゃ、席はテキトーに……五十嵐――あの窓側のヤツな――の隣に座ってくれるか?」
「分かりました」
俺が一人頭を抱えているとシュトラウスが隣の席へ座る。
「よろしくね」
「あ、あぁ……よろしく」
男子たちの目がマジで怖い。一波乱あるな絶対。どうやら神様は現代ラブコメをご所望みたいだ。俺の日常は始まったばかりだった。
これにてアリフェレット異海譚が完結となります。
途中シナリオ変更や一年間放置状態などなど、色々ありましたが一先ずはこれで終わりとさせていただきます。
また何かネタがあれば新作をボチボチ書こうかなと思います。
あ、それと多色好きの方は設定を練り直しますので更新停止とさせていただきます。
再開の目途はたってませんが、早い内に書きたいなと思います。
長い間お付き合いくださりありがとうございました。
新作を投稿する際はまたよろしくお願いします。




