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アリフェレット異海譚  作者: 水炊き半兵衛
Last Ep:アリフェレット異海譚
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32.死者の爪痕-前編-

 もはや人の住んでいた跡形など吹き飛んでいた。インパニス上陸早々、アインハルトは深くため息を吐く。一体どれほどの民が犠牲となったのだろうか。

 見渡す限り死者が踊り狂う爪痕が残されるだけ。これではインパニスの再興は難しいだろう。


「リリア、何か感じるか?」

「いいえ。この街からは立ち去っているようで……痕跡も辿れません」

「手加減なく魔力をばら撒きおってからに」


 とは言え文句を呟くだけでは事態は好転しない。この街にいないとなればおびき寄せるしかないわけだが。


「ルナよ」

「はい」


 アインハルトが呼びかけるだけで何かを察したルナは自らの異能を開放する。

 木の精霊とされるドリアードの権能。植物を意のままに操り、巨大な樹を創り出す。創られた大樹からは魔力が波紋のように広がり、剥き出しの大地に緑が生まれる。

 直後――青い炎が生まれた緑を焼いていく。


「貴様らアァァ……! 我が領土を侵し、あまつさえ御旗まで立てようとは恥を知れ!」

「ほざけよ魔物。貴様の土地などどこにも無いわい」


 勝手な言い分と共に現れたのは元アズリア皇帝のアドラー。しかし今はただの魔物でしかない。アインハルトは臆することなく魔法を放つ。


「法程式の扱いがおざなりじゃな。消えよ」


 唱えるのは"発火"。白い炎が灯りアドラーへ飛ぶ。


「甘いわッ!」


 手の平を打ち鳴らし、白い炎と衝撃波が相殺される。更にアドラーは自らの肉体に炎を纏ませる。身体能力を底上げする魔法、"激情"である。


「クアアアァァッ!!」


 一喝。ただそれだけで大地が抉れる。ただの人間が"激情"を唱えたとしてもここまで強化はされない。魔物特有の身体能力の高さに"激情"が上乗せされ、手が付けられない状態となっている。


「死ねええェェ!!」

「やれやれ、後先考えんヤツじゃて」


 "激情"に呑まれ剛腕が直情的に振るわれる。相手が唯の人間であるなら容易く屠れるだろうが、アドラーの前に立つのは幾星霜を生きたリッチである。


「少し頭を冷やさんかい」


 攻撃の間隙をついてたたらを踏んでいるアドラーへ"水飛沫"の魔法を叩きつける。尋常ならざる圧に表情が歪む。


「リリア、ルナ。オニキスの方はお主らに任せるぞ」

「分かりました、アインハルト卿」

「頑張る」


 大樹の魔力に惹かれたのかオニキスも釣れた。向かってくるのが見える。アインハルトは落ち着き払って娘二人に迎撃を命じる。


「さてアドラーよ。まさかお主、この程度なのか?」

「カアアアァァァッ!!!」


 雄叫びが空間を揺らす。周りの被害が甚大だが、それだけだ。


「無駄に力を散らし過ぎじゃよ。確かに力は災害と言ってもいいが……的を絞れておらん」


 散った力に一点を穿つ力など宿る筈も無い。アインハルトという化け物に穴を開けるには力の使い方がなっていない。それはオニキスも同じであり、なまじ力の使い方が似通っていた故にインパニスへの被害の割にお互いへの被害が少なかった。

 アインハルトからすれば子供が暴れて国が滅んだ。ただそれだけの話である。


「わざわざ出向いてやったのだから、少しは儂を楽しませてはくれんかのぅ?」


 レンヤは必要以上に警戒しすぎたと言える。確かに二人の戦力は絶大で、暴れ続ければ世界が壊れてしまうだろう。人外、その一言に尽きる。

 しかし人外と言うならばそれはイーギス勢力も同じ。加えてアインハルトは生まれたての二人と比べて生きた年数が違う。


「ここに貴様らの居場所などないわい」


 "雷撃"の魔法を使い、アドラーを撃ち抜く。雷の速度にすら対応できずに倒れる様は、同じ人外として見ても幼稚ですらあった。


「我は――我は第四十三代皇帝、アドラー・メフィス・アズリアであるぞ……頭が高いわァッ!!」


 土すら融かす"灼熱"の魔法がアドラーを中心にして拡がる。それに伴い周りの気温も跳ね上がるがアインハルトは涼しい顔だ。


「もう良いわ、眠れ」


 興醒めだとばかりに"凍結"の魔法を放つ。たったそれだけでアドラーの"灼熱"が無力化され、アドラー自身も凍り付いた。

 それでいて周りの気温はほとんど変わっていない。"灼熱"の影響で一時的に上がった気温が戻っただけだ。魔法の矛先を絞るとはつまりそう言う事で、極めれば環境に影響すら及ぼさない。もっとも、それが出来る魔法使いはアインハルトを除くとほぼいないが。


「さすがにもう一度は甦るまい。そこまで死の重さは軽くない」


 氷の像と化したアドラーを砕きつつ、アインハルトは娘の方へと意識を向ける。敗北する要素はない。寧ろ戦後の後始末に忙殺されるだろう。


「やれやれ、永遠の命も考え物じゃて」


 隠居もままならぬ身体に愚痴を垂れつつ、娘たちの戦いを傍観するのだった。

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