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アリフェレット異海譚  作者: 水炊き半兵衛
Last Ep:アリフェレット異海譚
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31.群れるクラーケン

 更に準備すること五日。正直これから戦争するには不十分ではあるが、あの二人がいつまでもインパニスで争っている保証も無い。またどこかの国で暴れられても困るので戦力を急いでかき集めてインパニスへと船で向かう。

 アリフェレット王国からの陸路は地形が変わり果てて使えなかったのは痛いが。もっと頭の痛い光景が目の前にある。魔物である。


「嘘だろ、おい」


 俺の隣でアスパーが呟く。無理もない。何せ普段はこんな陸付近で出てくるはずのない魔物がインパニスを襲っていたのだから。


「クラーケン……の、群れか」

「数が尋常じゃないわね」


 アスパーとシュトラウスの言うとおり。無数の触手を蠢かせる海竜、クラーケンが都合十体。たった十体で群れというのは大袈裟だと思われるが、至って普通の表現だ。

 海から出ているだけでも三十メートルを超える化け物が十体もいるのだ。そこらの雑魚の群れとはワケが違う。クラーケン一匹でも相当に手間取ると言うのに……!


「いくら六隻あるとは言え……厳しいな」


 このフォアシュピールと天目。オルケゾグラフィは戦力外なので除くとして。

 残るは四隻、これらは新しく造った魔法戦艦だ。正確には各国から造船を要請され、納品予定だった魔法戦艦だが。

 インパニスに納品予定だったアリスピュア。アリフェレット海戦記のトラウマ戦艦と悪名高い魔法戦艦で、アリス・マードッグのみで造られた化け物。こと防御だけなら目の前のクラーケンが殺到しても沈没しない自信がある。その代わり遅いが。

 次にアズリアに納品予定だったガルグイユ。アリスピュアとは逆に機動性を重視した魔法戦艦で、なんとヴィクトリアで造られている。よく国からの許可が降りたものだ。いや、使うと言った俺が言えたことじゃないかもしれないけど。更に機動性を活かした武装としてソードコーンを使ったラムもある。申し訳程度の魔法カノンもあるが主にラムでの突撃戦法を活かせるよう設計している。

 そしてレストールに納品予定だったルサルカ。これはいつぞやかティリアスが言っていた"勝手に沈む船"を個人的に調整した魔法戦艦だ。"結界"の魔法で船全体を覆い、潜水させる。言わば潜水船か。グランローズと虎松でこれでもかとばかりに腐食対策を施している。

 最後の一隻は天目をアズリア神州に納品するのでその代わりとして造った魔法戦艦、マザー・フレンシェルドだ。ヴィクトリアと兼次鉄鉱を使い、半分鉄甲船と化している。

 これと各国の戦力が加わった最終的な和が今回の戦争の全戦力と言える。勿論順次援軍が来る予定だが、短期決戦でさっさと終わらせたい。

 ここで足踏みをしている間にも二人の死者によって世界が壊されていくのだから。


「陸上戦はイーギスの連中に任せよう」

「ま、普通の人があんな災害のド真ん中に突っ込めっつう方が無茶だわなぁ」

「海上も似たようなものでしょうに」


 シュトラウスの言うとおりだが、こちらは魔法戦艦がある分まだマシだ。


「アリスピュアを最初に突っ切らせてクラーケン達をそっちに釘付けにした後、砲撃する」


 最早作戦とも言えない類のものだが、下手な小細工ならば容易く打ち砕いてくるのがクラーケンだ。だからこれでいい。


「アスパー。アリスピュアに乗っているレティに"伝言"の魔法を送れ。突っ込めと」

「これでアリスピュアが沈んだらお前を殺すからな、レンヤ」


 さらっとキツイ言葉を吐きつつレティへ"伝言"を飛ばすアスパー。万が一ということもあるが、この船の中で一番生存率が高いのはアリスピュアをおいて他にない。

 それに向こうにはリリアと爺さん他数多くの魔の混血がいる。寧ろこれで沈められれば俺たちの命もあっけなく散るだろう。



 クラーケンの真っただ中を突き抜けるアリスピュアは未だ沈んでいない。というか沈む要素が無い。クラーケンの触手が船体を叩こうともビクともせず、追撃をしようとすれば爺さんの魔法か魔法カノンで妨害される。

 と言うかすげぇな。基本魔物に対して魔法はあまり効かないものだが、爺さんの魔法だけはあっさり通っている。だてに長生きしていないと言うわけか。


「アリスピュアに後れを取るな! ガルグイユ、突撃ッ!」


 クロンガルダの言葉と共にアズリア勢が鬨の声を上げる。そしてアリスピュアを襲おうとした一体のクラーケンのどてっ腹にラムが突き刺さった。

 ソードコーンで造られたラムはクラーケンの肉体を易々と貫き、苦悶の声を響かせた。

 救援にと群がってくるクラーケンは他の船が魔法カノンで妨害する。中には直撃して傷を負う個体もある。


「けど、さすがにしぶとい」


 アスパーが呻くように呟く。ラムに串刺しにされたクラーケンもまだ余力がありそうだ。海竜騎士ドラゴンナイト亀甲騎士タイマイナイトが奮戦しているが焼け石に水。

 クラーケンの攻撃方法は触手以外にないので負けはしないだろうが……。


「決定打がねえな」

「一番強いのがガルグイユのラムってのがなぁ」


 そう何度も突撃などできないし、何よりラムがもたない。ラムの予備もあるが、取り替えるには寄港して造船場に入れなければならない。

 そもそもガルグイユはあまり魔物と戦う事を念頭に置いていない。アズリアには海竜騎士ドラゴンナイトがいるため、魔物対峙に魔法戦艦が使われることが無いのだから。

 もう一度ガルグイユが先ほどのクラーケンへ突撃しようとして――何故かクラーケンが沈んでいく。


「何だぁ?」


 あまりにも不審な沈み方にアスパーは素っ頓狂な声を上げる。いや、待てよ……。


「ルサルカ、か?」


 俺が呟いた途端、フォアシュピールの目の前にルサルカが浮上する。見た目が戦列艦っぽいので違和感が半端ない。造ったのは俺だけども。


「アスパー! "通信"魔法を繋げ!」

「あいよ」


 法程式により組み上げられた陣が生成されると、ティリアスの声が聞こえてくる。


【やりました! どうやらクラーケンは海に隠れている部分が弱いようです!】

「そう言えばルサルカには試験的に魔法魚雷を積んでたっけ」


 海中では魔法カノンは使えないので、それに代わる案として魔法魚雷を試験運用というカタチで搭載している。

 "結界"の魔法を傷つけず、物体に当たると炸裂するという簡単なものだが威力は魔法カノンに劣らない。


「後何発ある?」

【三発ですね】

「分かった。アスパー、アリフェレットの造船所に連絡! 魔法魚雷を優先的に造らせろ!」


 魔法魚雷を造るのにそう手間はかからない。バルトルード商会の魔法使いを動員すれば更に時間は短縮できる。


「魚雷を撃ち切ったらアリフェレットへ寄港しろ! その際は"通信"を入れてくれ!」

【分かりました!】


 どうにかこの場を乗り切る兆しが見えてきたか。陸の方は爺さんが何とかしてくれるといいけれど。

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