29.甦る死者
死者の憎悪は時として現実を食い破る。
そもそもこの世界において死の重さはどうしようもなく軽い。魔法や種族によっては克服さえできる。
種族による克服はセレスが、そして魔法による克服はアインハルトがその典型だろう。
では死した者の価値はどうか。こちらも恐ろしいほど軽いのだ。だからこそ現実を食い破ると言う現象が起こり得る。
「クハッ、ハハハハ――! どうした皇帝よ、そんなモノか! その程度で覇を唱えるなど片腹痛いわッ」
「ほざけ公爵風情が! 我に刃向うその気概は見事だが、技が稚拙よォ!!」
最初はイーギス。次にアズリア。そして今はインパニス。海を超えた野心家の死者が甦り、気力を満たした状態で出会えばどうなるか。
答えは簡単、殺し合うしかない。元は人とは言え今は魔物。生前と比べて知能というモノが欠落し、野心の奴隷と化している。
自分が上だと認めさせるためにぶつかるのみだ。インパニス独立国の住民にとっては甚だ迷惑な話だが。
「温いぞ皇帝! その程度でこの俺を踏み潰せると思うなぁ!」
「貴様の言えたことか! 止まって見えるぞ、その動き!」
手の平を打ち鳴らし、衝撃波を公爵へと飛ばす。大地が抉れるその魔法を公爵は小細工なしで真正面から受け止めた。
「ヌウウウゥゥゥッ!! この程度ォ!」
公爵が指笛を鳴らすと海の方から大津波が押し寄せてくる。巨大な海の魔物――クラーケンが引き起こしたものだ。
自分諸共海に沈むかと思われたが公爵はクラーケンの触手に救出される。残されるは皇帝のみ。波に飲み込まれてその姿が掻き消える。
「クハハハハハハハッ!! これで貴様の国は俺のものだ!」
公爵が堂々と宣言した瞬間、押し寄せた海水が一瞬で蒸発した。蒸気に焼かれて悶える公爵に皇帝は嘲笑う。
「ふん。この程度の虚仮脅しに屈する我ではない。そも、誇りある名すら持たぬ貴様に我が国を明け渡せるものか!」
「ならば誉れ高きその名を応えよう! 俺はイーギス公爵ジェラルド・センバー・オニキス!」
「我が名はアズリア第四十三代皇帝アドラー・メフィス・アズリア! 国の重みを知るがいい痴れ者めが!」
死して尚野心を捨てきれず甦った二人の力は人外と言っていい。
オニキスは数多くの魔物を従え、アドラーは生前の魔法が更に磨きがかかっている。
まさに怪物――下手をすれば世界を呑み込めるほどの。
生前は腐りきった頭でしか物事を図れなかったが、今の二人の思考は非常に澄み切っていた。
一切の邪念が無く、野心を糧に駆動する。それが人類にとって害悪であろうともただ純粋に己の心を満たすための行動しかしない。
「俺は国が欲しい! 民を! 金を! 貴族を! 世界を! 俺の手の内で転がして真の王となる! 貴様はそのための土台だ。いい加減に死ねェッ!!」
「抜かせッ! 我が仇敵であるレストールすら落とせぬ輩に託せる国などありはしない! あの国を侵略できずして世界など夢想語りよぉ!!」
◆
「インパニスが俺に泣きついてきたんだが……」
「国王よりも先に話が行くとはね」
甦った死人が怪獣大決戦の様相を作りだしている。一言で言えばそんな感じだが全く以てシャレになっていない。
一人はジェラルド・センバー・オニキス。セレスを裏切り、アリフェレット王国へ攻め込もうとしたイーギス公爵。
もう一人はアドラー・メフィス・アズリア。こっちは特に面識はない。シュトラウスは一度会っているらしいのだが。
「死んでも迷惑とはなぁ……。シュトラウス、こういう事って日常茶飯事だったりする?」
「そんなわけ無いでしょ」
頭が痛いとばかりにシュトラウスはため息を吐く。さてこうなってくると俺にできる事なんてたかが知れている。
「甦った死人の対処法は?」
「聞いたことも無いわね」
「だよなぁ」
過去に遡ってもこういう事例は見つからなかった。一応、王宮の蔵書も調べてみたがやはり出てこない。
インパニスからの連絡から早五日……現場からの報告だと未だに二人は暴れているらしい。
「ぶっ通しで暴れる相手にどう対処すりゃいいんだか」
しかし諦めると世界滅亡という言葉がチラつく。
「レストールに出向いて協力を要請しよう。アリフェレットとインパニスだけじゃ戦力が足りない」
ついでにアズリアの海竜騎士を動かせないかレオノールに聞いてみるか。
戦艦VS怪獣とかやってみたいなぁ、とか考えてたらいつの間にかこうなった。
後悔はしてない……いや、若干「この展開ないわー」とは思ってはいますが。




